世界中の各都市で自転車ブームが冷めやらない。いまや、街の各スポットで乗り捨てできるバイクシェアは目新しいものでもなくなり、行政が自転車レーンを整備する都市もあるなど、官民ともに“自転車のある都市生活”をつくる。自転車は都市の生活シーンに欠かせない登場アイテムだ。
しかし自転車人口が増えれば、悲しきかな増えるのは自転車事故だ。ある調査では、2015年に米国で起きた45,000件の自転車事故のうち、死亡者は818人。つまり、毎日2人以上が自転車事故で亡くなった計算になる。その大きな原因のひとつが「ノーヘルメット」だ。米国の成人サイクリストのヘルメット着用率はたったの29パーセント(2012年、Heidelberg University)。3人に2人はノーヘルでペダルをこいでいる。命を守ってくれるにもかかわらず、ヘルメットを着用しない理由— それは、「重くて持ち運びがめんどう」「ちょっと見た目がダサいんだよね」。見た目にも敏感な都市のサイクリストを守るため、“かぶりたくなるよう”なヘルメットが開発された。通勤路によっては自転車が自動車の数を上回ったニューヨークのブルックリン発だ。
2017年、ニューヨーク市内の自転車の走行数は05年から17万増加した、45万。その伸び率、市内の人口や雇用の伸び率を超えたと話題になるほど。そのニューヨークで、「交通事故にあったサイクリストの97パーセント以上は、ヘルメット未着用だったんです」。そう話すのが、“かぶりたくなるようなヘルメット”をつくったジョーダン氏、先述のブルックリン発のスタートアップ「パーク・アンド・ダイアモンド」のCEOだ。
より多くのサイクリストにヘルメットを着用してもらいたいと、共同設立者のデヴィッドとともに「折りたたみ式自転車ヘルメット」を開発。ちなみにデヴィッド、実の妹がノーヘルで交通事故にあい4ヶ月昏睡状態だったという辛い経験がある。「多くのサイクリストは、いままでのヘルメットが大っ嫌いです。なので、僕たち、その嫌われ要素である〈機能性・利便性・見た目〉における問題点を、すべて取っ払いました」。
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まず目に入るのが、キャップ帽そのものな見た目。従来のゴツゴツとしたヘルメットを一新、「ヘルメット、なんかダサいからかぶりたくないんだよな…」を解消。外側のキャップ部分と内側のヘルメット部分が取り外せるため、デザインに飽きたら、外側を別のキャップ仕様に付け替えられるとのこと。新作の外側部分(彼らの動画を見る限りニット帽?)は来年後期に発売予定だ。ファッションにあわせてヘルメットを選べるとは、なんとも乙。「今後はより多くのサイズとカラー展開して、さらに品質改良も加えたい。ウィンタースポーツ用ヘルメットも設計予定です」。
ところで、正直こんな疑問を拭えない人も多いだろう。「そんな薄いキャップ帽みたいなので、本当に安全なの?」。答えは「私たちのヘルメット内側には、特許取得済みの保護素材が用いられています。だから従来のヘルメットよりも地面に打ちつけられたときの弾性エネルギーを3倍も軽減してくれるのです」。デザインしたのは、チームメンバーのひとりで宇宙関連企業「スペースX」の元エンジニア。従来のヘルメットで問題視されることもある、転倒時の脳へのダメージを軽減*、安全面においても優秀なのだ。
さらに、「デカくて邪魔」な持ち運びの問題点も解消。これ、カバンに入るほど小さくなる。230グラムと軽量で(さつまいも1個分)ペットボトルサイズに折りたためるため、駐輪後はクシャッと丸めてカバンにポイッ。「盗難されたくないから駐輪場には置きたくない。でも一日中持ち歩くのも大変…」という悩みを拭い去ってくれる。
*ヘルメットを着用したまま転倒した際に、回転衝撃が加わるため表面上の怪我は防げても頭蓋骨のなかへのダメージが大きくなる、つまり“ヘルメットを装着することで別の危険性が高まる”という意見もある。
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日本でも米国でも、ヘルメットの着用義務がない*自転車。法に反しないとなれば、かぶるもかぶらないも個人の自由。だが避けられる怪我や助かる命があるのなら、かぶるに越したことはない。“かぶりたくない要素”を見事に取っ払ったヘルメットは、都会のサイクリストを救えるのか。ちなみに次回も〈都会の自転車シーンに寄り添ったアイテム〉を紹介しようと思うので、乞うご期待。
*日本では2008年の改正道路交通法施行で、13歳未満の子どもに自転車用ヘルメットを着用させることは保護者の努力義務とされた。米国では州によって規制が異なる。ニューヨークでは14歳未満のみヘルメットの着用が義務付けられている。
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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine