「弁当忘れても傘忘れるな」とは年間降水量・雷発生日数が全国1位、筆者の故郷である石川県の確言だ。天気が冴えないと気分もぼんやり、おまけに古傷も痛む。そんな雨の日ばかりの街で書かれたジンは、めくれば雨の音がするらしい。
故郷を離れ、ひとり異国の地で暮らす。おまけに冴えない天気が続けば、そりゃあ物思いにふけることだってある。そんなときに感じるメランコリックな心情をイラストとポエムで綴ったのがジン『A tear in a beautiful city(ア・ティアー・イン・ア・ビューティフル・シティ)』。作者は、生まれ育った台湾を離れ、スコットランド・エディンバラの美術大学に通うイラストレーターのイヴォンちゃんだ。
「エディンバラは雨が多くって。そのせいかしら、私が描くのはいつもメランコリックになってしまうの」。ジンの表紙にぽつねんといる、やるせないカオした涙くんもそう。「涙って雨粒みたい。結局そのうち止むけど、かなしみがぐずぐず残るから。雨の多いこの街は、だから美しくほろ苦く見つめることができるの」
Something is gone and is gone…forever. Then, someone is free.
或るものは永遠に失われ、或るひとは解放される。
Life is too short, Sadness is too long.
人生は短すぎて、そして悲しみは長すぎる。
I’ll take care of you. My little tear.
決してないがしろにはしないわ、私の小さな涙くん。
ページをめくっていくと半透明のペーパーにたどりつく。そこに綴られているのは昭和モダニズム詩人、北園克衛(きたぞの かつえ)の詩『Ou une Solitude』。「彼の詩って言葉数が少なくて理解するのは簡単じゃないんだけど、たくさんの感情が含まれている。このジンも文章はシンプルだけど、そこからさまざまな感情を汲みとってくれたらうれしいわ」。紙素材としてラッピングペーパーを使ったのには理由がある。「サウンドエフェクトよ。ページをめくると、雨のような音が聞こえるの」
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All images via Yivon Cheng
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine