時代には時代ごとの“ワル”がいた。60年代はモッズにロッカーズ、70年代にはヒッピー、パンクスにスキンヘッズ、80年代にはロカビリー、サイコビリー、90年代にはヒップホッパー。でも、あの輩のことを忘れちゃいけない。50年代を風靡した不良の先輩「テッズ」たちのことを。
戦後初サブカル&反抗の象徴「テディーボーイ」
ダックテールでキマった髪からポマードの匂い漂わせ、ドレイプジャケット羽織った肩でロンドン下町通りの風を切る。
1950年代初期、ロンドンのストリートで生まれた戦後初のサブカルチャーグループで、社会への反抗分子として街をゴロついていた労働者階級の不良少年たちが「テディーボーイ(通称テッズ)」だ。テディーとは、英国国王エドワード7世の愛称。テッズたちは、エドワード7世が好んだファッションスタイル「エドワーディアン・ルック」(細身のシルエットに、丈の長いジャケットが特徴)を、自分たち流にアレンジしたことからテディーボーイと呼ばれる。
丈の長いドレイプジャケット、細いネクタイ(スリムジム・タイ)かループタイ(ブートレース・タイ)、細身のパンツにラバーソール(厚底靴)が制服。髪はリーゼント(英国ではクイッフと呼ぶ)、後ろは綺麗にIの字(ダックテイル)が鉄則。パンクスに先立ち、スタッズつきのベルトやナイフなどの小物を取り入れていたともいわれている。“労働者階級のキッズたち”テッズは、まるで王族上流階級をあざ笑うかのごとくエッジの効いたダンディスタイルで下町を闊歩した「ワーキングクラス・不良・サブカルおしゃれ野郎たち」というわけだ。
モッズなスーツでマッシュルームカットの坊ちゃんスタイルになる前、ザ・ビートルズもみんなリーゼントのテディーボーイだった。レコードコレクションには、エルヴィスにエディー・コクラン、ビル・ヘイリーの50sアメリカンロックンロール。聴く音楽はアメリカンだが、テッズは英国人であることに何よりの誇りを持ち、後に出現するヒッピーやパンクスとも敵対していくことになる。
現役テッズの“週1ロッケンロー同窓会”
「彼らは毎週、“同窓会”をしているよ。若い頃から着ていた“制服”を引っ張り出してきてね」。ロンドン南部・バタシーにある労働者階級のパブ「ザ・パビリオン」でテッズに出会い、その「戦後初めて生まれたサブカルチャーでワーキングクラスの集団」という事実に非常にしびれたというイタリア人写真家マルコ・ソノチーアは、テッズたちの同窓会に通うようになった。 「このパブにイカした親父たちに会いに行ったんだよね。内輪だけの家族のようなグループで、生粋の英国人スピリットを頑固に貫くのがテッズたち。呑んで呑んで音楽を聴いて、フロアでかかるその晩の最後の最後の曲まで踊り切りたいという連中だった」
集うのは、1970年代のテッズリバイバル期からの現役テッズ。よって、最も多いのは50、60代。しかし中には、元祖50年代から一筋の70歳テッズも。その昔古着屋で手に入れた30・40年代もののビンテージ服に袖を通し、テッズ仲間たちとツイストする。「彼らは、365日、テッズファッションだ。パンクスみたいだ。パンクスはいつもパンクスの格好をしているでしょ?」。そしてテッズたちの同伴は、ピンナップガールのような出で立ちのテディーガールズだ。
「テッズたちのお陰で、その後のサブカルチャーが生まれたんだ。彼らは、反抗的なワーキングクラスムーブメントの先駆者で、ワーキングクラスヒーロー」。だから、未だに彼らは労働者階級。「年金暮らし、失業保険暮らし、工事現場やスーパーマーケットの従業員。いまでもテッズは、ワーキングクラスで、英国至上主義、真のロンドナーなんだ」。もはやワーキングクラスは、テッズにとっての“勲章”のようなものなのだろう。
「カウンシル・エステート(低所得者向けの公営住宅)暮らしの歯のないジョアンナは、ビールを奢ってくれとせがんだ。25年ムショにぶち込まれていたという顔にタトゥーが彫られたベテランテッドは、グループのボスでステージに上がるなりこう歌ったー“ザッツ・ロックンロール、ベイビー”。70歳のジョニーは『俺ってすごいイカしてるだろう』と聞いてきたんだけど、正直、彼はひどい面だった。『医者によると、俺には癌があるってさ。でも俺の内側にはロックンロールがある。テッドであることは、俺の特権で、生きる理由さ』って。俺が“ロックンロール・フォーエバー”と言うと、彼はこう返してきた。“ロックンロール・ティル・アイ・ダイ(死ぬまでロックンロール)”」
懐古主義に支えられたテッズ。今代で息絶えるサブカルチャー
さて、内田裕也ばりにロックンロールを発するテッズだが、彼らを踏襲する若い世代はいるのだろうか。「ファッションから入る若いテッズもいるけど、ほんの一握りだ。テッズコミュニティを構成するのは、50年代、70年代からのテッズで、古株テッズは若いテッズをあまり受け入れない」らしい。
「たとえばさ、パンクロッカーは世界中のどこにでもいるし、みんなが知っているカルチャーじゃない? いまの若者にもパンクスになる者は多い。それに比べて、テッズはノスタルジーだけに支えられたオールドスクールなコミュニティなんだ」。ゆえに、いまのテッズ親父たちが死に絶えたら、テッズカルチャーも自動的に死ぬということだ。
足腰が痛くなり、青年時代のデカダン生活が体にひびき、酒に化けていく年金が底つくまで、芳香剤の漂うドレイプジャケットでテッズ同窓会へ足を運ぶ。“錆びつくよりは燃え尽きたい”じゃないが、スタイルだけの若者偽テッズに真似事をされるなら、数十年死守してきたテッズをテッズのままで墓に葬りたい。テッズの反抗は、最後の骨の欠片に流れるなけなしの矜持と、狡猾なまでの独善的な美学だ。
Interview with Marco Sconocchia
Marco Sconocchia(マルコ・ソチアーノ)が撮った現在のロンドンカルチャー、こちらの記事も万歳「英国・パブライフ」。掃除は行き届いておらず午前11時に開店する大衆酒場パブリックハウスの日常
All photos by Marco Sconocchia
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine