「袋まで食べられます」パッケージを“海苔”でつくる?プラゴミ問題、解決のキーは余って捨てられる海苔

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半年ほど前に「プラスチックでできた海苔」という中国発のデマ動画が話題になったが、今回の「海苔でできたプラスチックの代替品」話は、デマではない。
そして、この海苔でできたプラスチックの代替品、環境問題と貧困問題の両方の解決策となるポテンシャルを秘めているらしい。
 

見た目はプラスチック(ビニール)なのに、食べられちゃう?海苔の新たな活用法

 ビニールのレジ袋をはじめとするプラスチックゴミによる環境汚染は深刻だ。「海洋に流出したプラスチックゴミの量は、中国に次いで僕らの国が世界第2位なんです」。そう話すのはインドネシアのミレニアル起業家、デイビッド・クリスチャン。彼はインドネシアで豊富に採れる海苔を活用し「海苔でできた食べられるパッケージ」をビジネス化し、プラスチックゴミによる環境問題の解決を試みる。

 以前、プラスチック製の商品パッケージを一切なくした「パッケージ・フリー・ショップ」を紹介した。今回の海苔でできたパッケージも、環境や生態系破壊につながるプラスチック製のパッケージをなくすというゴールは同じ。だが、前者はリサイクルやリユーズにフォーカスした取り組みであり、今回の“食べられる”パッケージは、使用後も環境破壊につながらず、さらには「価値のあるものかどうか」に焦点をあてたものだ。

Bruxel Waffle with Evoware_ Bioplastic

 これが、海苔でできたケミカルフリーの「食べられる」パッケージ。デザイン・開発するのが、デイビッドのスタートアップ「エボウエア(Evoware)」だ。
 見た目は従来のプラスチック包装と変わらない。ブランド名がプリントされていて、デザインもおしゃれだ。それでいて「袋ごと食べられちゃう!」という意外性を含んだ新体験に人々は興味津々。気になる味だが、私たちが普段食している海苔の「磯っぽい」味はなく「限りなく無味」とのこと。口にした感じはデンプンでてきたオブラートのようなものだと思われる。「海苔は、ビタミンや食物繊維を豊富に含んでいて栄養価も高い。そしてハラル(イスラム法上で食べることが許されている食材や料理。イスラム教徒が多いインドネシアでは重要なポイント)です。食べて損はありません!」。そういわれると、破って捨てるのが勿体ない。
 
 とはいえ、見た目も機能もプラスチック包装と同じものを食べるのには、抵抗がある人もいるだろう。だが、食べられるということは「ゴミ箱に捨てていただいて問題ないです。海苔は生物分解され、肥料にもなるので。環境汚染にはなりませんよ」なのだ。

プラスチック製のレジ袋や個包装を「海苔」に変えるメリット

Screen Shot 2017-10-19 at 3.00.18 PM

 
 気づけば、この1世紀の間に私たちの生活はプラスチックに支配されてしまった。プラスチック製のレジ袋や個包装など、一度しか使われないそれらほど“使い捨て文化”を象徴するものもないだろう。

 天然ガスや石油などの非再生可能資源で作られるプラスチックを、海苔に置き換えるメリットは大きく二つ。一つは「環境汚染と生態系破壊を食い止めることにつながるから」。天然ガスや石油といった非再生資源で作られるプラスチックは分解されるまでに何千年という時間がかる(つまり、ほぼ分解不可能)。その一方で、海苔は上述の通り、自然に生物分解され、ゆくゆくは肥料にもなるというメリットがある。
 インドネシアでは現在、1日に約1000立方メートル分ものプラスチックゴミが排出されており、そのうちの90パーセントがリサイクルされることなく海へ流れ着いている。そして「マイクロプラスチック」と呼ばれる太陽の紫外線や波浪によって微小な断片になったものが、海洋生物に深刻な影響を及ぼしている。エボウェアの共同創始者デイビッドは「インドネシア諸島沖で採れた市場の魚介類のおよそ25パーセントがプラスチックゴミに汚染されている。このような負の連鎖を断ち切るには、根本から問い直さなければならない。つまり、プラスチック製の使い捨てレジ袋や個包装を、サステナブルな代替え品に置き換えて、無くしていく必要がある」と話す。 

 二つめは、シーウィード・ファーマーこと、海苔を収穫するたちの生活を向上させること。インドネシアでは、海苔の収穫量が販売量を上まわっているため、海苔が余ってしまい処分される。ならば、採らなければいいのでは、とも思うが、そういうワケにもいかないのだそう。「インドネシアで海苔を採って生活している人たちの多くは貧困層。十分な収入が得られておらず、かつ他にできる仕事もないので、子供を学校に行かせることすらできずにいます」。より多くの海苔を買い取ることで、彼らの生活を潤わせたい、という考えを示す。
  

一点、弱点が…。「あ、でもカップルヌードルなら!」

Product example
 
 

 デイビッドは「海苔はとてもサステナブルな生物だ」と話す。野球場のグラウンド一個分の広さで年間40トンも育ち、その成長中に二酸化炭素などの温室効果ガスを20.7トン吸収するのだそうだ。また、海中で育つので、水を与える必要もなく(当然か)、土も肥料も要らない
   
 ただ、弱点もある。数々の問題を解決するアンパンマンが、ちょっと水にぬれただけで弱ってしまってしまうように、この海苔でできたパッケージは、熱湯をかけると分解されてしまうらしい。
 そこで、スタートアップ「エボウエア」は考えた。「これは、カップヌードルの薬味を入れる小袋に最適ではないか!」と。お湯を注いで3分でできるようなインスタント食品に付いてくるかやくや薬味、ソースのプラスチック製の小袋を、この海苔パッケージに置き換えれば、いちいち小袋を破かなくても、上からドバッとお湯をかけて3分(くらい)待てば、「全部混ざって、できあがり!」。
 これが名案なのかどうかには疑問が残るが、インドネシアではこれと同じ、お湯ドバッと手法のインスタントコーヒーも人気らしい。ちなみに、上述のワッフルのようなパッケージの場合、直射日光とお湯を避けた常温保存であれば、約2ヶ月は持つそうだ。

Evoware - Bioplastic for Energy bar
ラーメンのかやくもこういうのに入れたり?

 目下の課題は「プラスチックに比べると、まだまだ製造コストがかかる」こと。ただ、これについては「いまはまだスタートアップだが、資金が集まり、製造規模を拡大し、生産量を増やすことができればそのぶんコストは抑えられる」と話す。
   
 日本ではお菓子の過剰包装などが指摘されているが、中には「なくてもいいけれど、あれはあれで、衛生的だし、あった方がいいかな」というものもある。まずはそういうものから、プラスチック製の個包装ではなく、この海苔包装に置き換える。それだけでも、使い捨て経済から、資源の賢い利用を基盤とした経済へのスモールステップになるのではないか。

Interview with Evoware

All images via Evoware
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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