“お小遣い稼ぎの副業”は、ミレニアル世代にはもう昔の話のようだ。
「次世代の副業は『サイド・ハッスル(side hustle)』」。最近のミレニアルズは、サイドジョブ(side job)と呼ばれていた副業のことを「サイド・ハッスル」と呼ぶらしい。SNSには「#sidehustle」のハッシュタグが存在し、「サイド・ハッスルのビジネスアイデア◯選」なんて記事もザクザクあるなど、サイド・ハッスル人気は顕著だ。そのサイド・ハッスル、従来の“副業”と何が違うのか?
Image via Sara Rolin
空き時間を見つけて好きなことを「ハッスル(頑張る)」
ミレニアル世代で盛り上がるサイド・ハッスル。ただ単にサイドジョブの言い回しが変わっただけでしょ、は間違いだ。
これまでの副業のイメージといえば、アフィリエイトやFXなど、なんだかちょっといかがわしい…ものや、家事の合間を縫って主婦がする内職、アフターファイブに会社に黙って“夜のお仕事”など、あまり声を大にしては言えない、本業の収入を支える“お金稼ぎ”のイメージが先行していた。
それでは、サイドハッスルはお金稼ぎを目的としない? いや、プラスの収入は目的の一つではあるが、これまでと違うのは副業を「趣味や好きなこと、情熱を注ぐもの」にすることだ。ネットのおかげもあり、時間や場所に制限されることなくパソコン一台から新しいこと、やってみたい仕事をスタート。まずは「ハッスル(頑張る)」しているミレニアルズの例をみてみよう。
Image via Blake Wisz
・PR系企業でフルタイムで働いていた女性(31歳)の場合
趣味の陶芸をブランド化し、作品をネットで販売。「仕事後の時間を使って、陶芸制作。それにブランドを立ち上げるにあたって、本業での経験が役に立った。フルタイムワークがあれば食いっぱぐれもないし」。ちなみに、現在はこの副業が本業になったのだとか。
・某企業のマーケティング部門で働く女性(22歳)の場合
ローカルコミュニティで、古着の委託販売を行う週末ポップアップマーケットを昨年立ち上げた。「収入だけでなく、本業で普段出会うことのない地元コミュニティの人たちとの出会いはとても大きな魅力」とのこと。
・広告代理店で働く男性(25歳)の場合
日中は大手広告代理店でバリバリ仕事をこなし、仕事後や週末にヒップホップグループでの音楽活動に勤しむ。その筋では結構、ファンも多いグループらしい。
他にも、ライフスタイルブログの運営や、ネットラジオの運営、趣味で育てたハーブのネット販売。グラフィックデザイナーやヨガ講師など手に職がある人は、空き時間で独自のネットワークを駆使してのビジネスなどそのやり方はさまざまだ。
ミレニアルズにとって“副業”は当たり前?
彼らにとって、副業はもはや珍しいことでもなければ、一昔前にあった“副業はこっそりひた隠し”のネガティブイメージすらない。
米世論調査会社ハリス・ポールが昨年、3200人のフルタイムワーカーに対して行った調査では、18歳〜24歳の39パーセント、25歳〜34歳では44パーセントが「副業をしている」と回答。その一つ上の世代、35歳〜44歳は29パーセントだったことをみれば、ミレニアルにとって副業は、週末のアボカドトーストや休暇のグランピングと同程度に身近なことなのかもしれない。
Image via Brad Neathery
ミレニアルズの多くはリーマンショックによる就職難や解雇を経験していることも、“副業しておく”、つまり仕事は一つに絞らない、という価値観の背景にあるだろう。さらに、近年ミレニアルズの社会問題になっているのが大学の学生ローン。「一つの会社に終身雇用」の概念が毛頭なく、一社に依存するリスクも肌で経験、いつ返済できるのか検討もつかない多額の学生ローンも抱える世代にとって、収入源を複数持つことは至極当然のことなのだ。
企業も副業OKな傾向に
サイド・ハッスルがミレニアルズを惹きつける最大の理由は「お金には替えられない“プラスα”を得られる」から。それは、単調な毎日の中での刺激や充実感だったり、本業で出会うことのない人々や企業との繋がりだったり。消費よりも経験を重視する世代だから、闇雲な収入増よりも心理的な利益を優先するのも、自然な選択だろう。セルフプロデュースが必須の現代において、本業とは別に「こんなこともできるんです」と自分のキャリアを多角的にみせることも、当然視野に入れているだろう。
Image via rawpixel.com
日本に目を向けてみると、“マイナンバーによる副業バレ”のようなトピックが持ち上がる一方で、ロート製薬は昨年から「社員の副業解禁制度」を導入。あまり知られていないが、日産や富士通、花王なども社員の副業を以前から認めているなど、「社員のフリーランス化」は着実に進んでいる。もはや本業はステータスとお金、副業は情熱、なんていうのも一つのワークバランスになるだろう。現代で賢く(楽しく)働くために、いまから考えを巡らせておいて損はない。
—————
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine