「ここでは、電気供給は太陽でまかなえます」
「ソーラービレッジ」。ずらりとならんだソーラーパネルが一斉に空を仰ぎ、村の電気供給は基本、太陽がまかなってくれる。なんだかジョージ・オーウェルや星新一のSF小説に出てきそうな、非常に近未来的な響きのするビレッジだが。いまや現実となっている。
今年1月、英・ウェールズのとある田舎町にソーラービレッジが誕生した。“エコ集落”とも喩えられているこのビレッジ、一体どんなところだ?
電気代わずか10分の1!太陽光だけで稼働する家
石やレンガ造りの家々が立ち並ぶ田舎町に、ひときわ目を引く家がある。ソーラービレッジ「ペンター・ソーラー(Pentre Solar)」にある6戸の2階建て一軒家だ。素材には温かみのある木材、屋根には敷きつめられたソーラーパネル。
「タイ・ソーラー(Tŷ Solar)」と名づけられた家たちは(ウェールズ語でTŷは“家”の意)、太陽光のみで稼働する“エコなソーラーハウス”である。
ソーラービレッジに住むことができる者はラッキーだ。なぜなら電気代が破格に安いから。
一般的な年間平均電気代1500ポンド(約21万円)に比べ、ソーラーハウスはおよそ200ポンド(約2万8000円)と、従来の料金の13パーセントですんでしまうという。この13パーセントというのは、太陽が沈んでからの時間帯、つまり夜の生活に必要な電気の料金だ。太陽がでている時間帯の電気供給は、すべて太陽がまかなってくれているということになる。
「食うか、暖か」。“燃料貧乏”という社会問題
燃料貧乏(Fuel Poverty)。聞きなれない言葉だが、エネルギー高の近年のイギリスで広がる新たな貧困層で、「収入の10パーセント超が燃料費(電気代など)にあてられている」「燃料費を払うと貧困ラインを下まわる」ことを指している。子だくさんで電気使用量も多い低所得者世帯が陥りやすく、「食うか、暖まるか」まで追いつめられている。
「ソーラーエネルギーがイギリスの、その“燃料貧乏”を解決できると思ったのです」。ソーラービレッジの開発を手がけたスタートアップ「West Solar(ウエスト・ソーラー)」CEOのグレン・ピーターズ(Glen Peters)はこう話す。
「ソーラーハウスなら、エネルギーコスト削減が可能です。浮いた電気代は、食費などにまわせる」
電気自動車も、村のみんなでシェア
一見、一般的な一軒家と変わらないソーラーハウス、実はすべて“南向き”に建てられている。
家の稼働エネルギーのおよそ80パーセントは窓から漏れる直射日光から。家全体は、すきま風が入らない構造で、壁には厚さ28センチの“リサイクル新聞紙”でできた断熱材、窓も南向きに設置・熱を逃さないよう3層になっている。晴れた日中は冬でもポカポカ、暖房いらずだ。
残りの20パーセントは、屋根に備えられたソーラーパネルで発電された電気エネルギー。これが台所の冷蔵庫やコンロ、洗濯機などの稼働に使用されている。家の電球もLEDを導入しているので省エネ対策はバッチリ。
と、ここで聞こえてきそうなのは「晴れの日はいいけど、雨や曇りの日は発電されないのでは」。これも、心配無用。晴天の日に比べ、雨や曇りの日は発電量こそ少なくなるものの、決してゼロになることはないそうだ。事実、年間の電気使用量よりも発電量の方が多い。
現在、ソーラービレッジの4戸にすでに入居者がいる。小さな子どものいる家族やリタイアした老夫婦などの世帯だ。
「みなさんからいい反応をもらっています。特に好評なのは、村に1台ある共有の電気自動車です」
6世帯に1台ある電気自動車は、村のみんなでシェア。充電もソーラーパネルで発電されたエネルギーで。高いガソリン価格が重くのさばる家計には、やさしい試みだ。
「サステナブル・シェア・地産地消」の新エコ・コミュニティ形成?
電気代が格安、それでいて寒い日もポカポカの家。ソーラービレッジに住んでみたいと思う人も少なくないはず。
グレンは入居者を選ぶ基準として、家賃の支払い能力があるかどうかにくわえて、大事な点をあげた。それは「サステナビリティについてきちんと理解し、この家の存在ありがたみがわかる人です」。
家を支える木材は、地元の谷から採ってきたカラマツやベイマツ。輸入ものでなく、あくまでもローカル資源活用を心がけている。家の建設には地元民を雇用。
つまり、ソーラービレッジでは、地元の資源と労働を適用し、創出された経済的利益を外に出さず、地元コミュニティにとどめておけるのだ。
個々にソーラーハウスを建てるのではなく、「ソーラービレッジ」という一種のコミュニティとしてローカルのモノ・人とともに形成する。
コミュニティとしての機能はまだ、とのことだが、人と人の繋がりや地域の輪が見えるこのプロジェクトは、今後「サステナブル&シェア&地産地消」という新しいエココミュニティ・スタイルを、低所得者層に提案することができる。
ヒッピー村ではない。世界への普及も目指す
サステナビリティを考える人が集まれば、サステナブルなビジネスアイデアやライフスタイルが生まれる。
たとえば、格安のソーラービレッジ民宿や、タダで泊まる代わりに労働で助け合うようなシェアリングコミュニティ、あまったエネルギーのリサイクル・シェア、すでに日本で実施されている農業と発電をかけ合わせたソーラーシェアリング。発展途上国の暮らしや経済を助けることも期待できるだろう。
「まずはこの先10年で、英国内に1000戸ソーラーハウスをつくり、ビレッジを拡大していきたい」とグレンは野望を明かす。
「ソーラービレッジは決して“ヒッピー村”ではありません。もっと社会の主流にして普及させていきたいです」。ヒッピーの桃源郷やアウトサイダーの”隠れ蓑(みの)”にというわけではなく、「低所得世帯が寒さに震えずに生活できるようになること」。現実的な目標だ。
「それから、ご存知ですか? 太陽の光を浴びると人はハッピーになるのですよ。自然光が差し込むソーラーハウスはあなたを幸せにします」。
原点に、最も原始的な太陽あり。科学の力でどの人間にも平等に与えられる“自然の恵”、太陽光を還元するソーラービレッジは、文字どおり暖かい村へと育つことが期待できそうだ。
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All images via Western Solar
Text by Risa Akita
Edited by HEAPS Magazine