Airbnbの“もう一歩先”の工夫。「キレイな部屋写真」だけで終わらなかった彼らのフォト・ディレクション

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さかのぼること2009年。いまや宿泊施設の貸し借りを行うワールドワイド・プラットフォームとして、破竹の勢いが止まらないAirbnb(エアビーアンドビー)だが、「どういうわけか、ニューヨークだけ宿泊者数が伸び悩んでいたんだ」。

そこで、創始者の一人、元デザイナーのポールはニューヨークへ視察に。あらためて、ニューヨークシティのリスティングを40件ほど確認してみると、彼はあることに気づいた。

「掲載されている部屋のリスティング写真がひどい」。

 Airbnbといえば、写真の”手入れ”でグロースハックを成功させた好例として取り上げられることが多い。「リスティングの写真」に資金を投入し、質を格段にアップしてユーザーを急増させ、またシェアしたくなる写真で自発的なクチコミを狙った(大成功した)。

 話をニューヨークに戻そう。当時、ホストたちの多くがサイトにアップしていた写真は、いまほど進化していなかったスマホのカメラで撮ったモノばかり。「こんな写真じゃ、誰も泊まりたいと思わなかったのも無理はない」

 ポールはまず、5000ドル相当(約55万円)の高性能カメラをレンタルし、ホストたちの家を訪ねた。「サイトにアップする写真を撮らせてください」。それまで掲載されていたアマチュア写真を削除し、高性能カメラで撮った高画質写真に置きかえた。すると、数週間後には、収入利益が倍増。「過去8ヶ月で、こんなに収益性改善がみられたのははじめて」。これを機に、ウェブサイトの「ビジュアル(写真)」の効果の大きさに気づいたという。
 
 Airbnbのウェブサイトでニューヨーク>ロケーションを選択すると、エリアの紹介ページが閲覧でき、そこには絵になる日常を切り取ったクオリティの高い写真が並ぶ。部屋の写真の質をあげるだけではなく、「街の写真」にも力を入れたのだ。

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Carroll Gardens, New York Photo by Jacob Krupnick

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DUMBO, New York Photo by Jacob Krupnick

「このエリアに住む人たちは、この街でこんな生活を楽しんでいますよ」というストーリー性あるビジュアルで、見る人たちの「この街に行ってみたい!」という好奇心を刺激。イイ感じに興味を煽ったところで「このエリアには、こんなお部屋がありますよ」と紹介する。

 ユーザーの獲得に成功し続けているエアビーが力を入れるエリア写真のディレクションはどんなものなのか? 実際に写真を撮ったフォトグラファーたちに、Airbnbからの依頼内容を聞いてみた。

HEAPS(以下、H)もう5年近く前の話になるかと思うのですが、あなたのところへAirbnbから、ニューヨークの街の写真を撮る「ネイバーフッド・プロジェクト」の依頼がきた経緯を教えてください。

Jacob(以下、J):
僕は、写真だけでなく映像作品も作っているのですが、2012年の作品(『Gril Walk』)が、Airbnbの当時のマーケティング担当者の目にとまったようです。
同作品は、ダンサーたちがニューヨークの街を舞台にフリースタイルで踊りながら物語を紡いでいくダンスフィルムなのですが、「Airbnb用に、あの映画みたいにニューヨークの街や人をカッコよく魅力的に撮って欲しい」といった依頼がきました。

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Carroll Gardens, New York Photos by Jacob Krupnick

Kenn(以下、K):
僕は、その当時に仕事していたスタートアップ(「NabeWise」)とのつながりがきっかけです。いまはAirbnbに買収されているカンパニーなんです。
双方に関わる人のつながりで、僕の仕事を気に入ってくれた方が、「ネイバーフッド・プロジェクト」に推薦してくださった感じですね。

H:「ネイバーフッド・プロジェクト」の依頼内容、実際はどんなものだったんでしょう。

J:
ニューヨークって「ミッドタウン」「イーストビレッジ」「ハーレム」と、エリアの名前ごとに分けてみると約60もあるんですよ。
AirBnBから要求されたのは、「各エリア独特の魅力や空気感、そこに住む人たちの生活風景など、見る人たちに『この街に行ってみたい!』と思わせる写真を、各エリアごと約40枚ずつ欲しい」ということでした。

僕はブルックリンを中心に、約20エリアを担当しました。その他の撮影しきれなかったエリアは、知り合いのフォトグラファー数人に僕から依頼しました。 
 
K:
僕は、マンハッタンエリアを中心に担当しました。
ニューヨークは24エリア、あとボストンも13エリア撮影しました。「(AirBnBの)利用者数を増やしたい」というクライアントの目的は明確でしたし、「観光ブックのような写真ではないものを!」という依頼からどういった素材が求められているのかはすぐに分かりました。
僕自身も長年マンハッタンに住んでいる、いちニューヨーカーなので「あなたの感覚で好きに撮ってください」と、内容はフレキシブルでしたよ。

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DUMBO, New York Photos by Jacob Krupnick

H:Airbnbは、ホストたちに「無料であなたの部屋写真をプロのフォトグラファーが撮りにいきます」というサービスを提供しているようですが、ホストの部屋写真も撮影されたのでしょうか?

J & K:
いいえ。僕たちが担当したのは、「ネイバーフッド・プロジェクト」のみ、つまり街の写真のみです。

H:なるほど。部屋の写真は「ネイバーフッド・プロジェクト」とはまた別の契約なんですね。
フォトグラファーとして「ネイバーフッド・プロジェクト」に携わった感想をお聞かせください。

J:
とても楽しかったですよ。約1ヶ月間、天気の良い日と時間を狙って、毎日のようにブルックリンを自転車で駆けまわりました。確か夏の暑い時期で、いろんなカフェに寄ってアイスコーヒーを飲んだ記憶があります。
結果として、宿泊者数も伸びたそうで、企業のお役に立てたことはとても嬉しいです。ただ、フリーランスとして一つ欲をいえば、まぁ、当時のAirbnbはまだ、そこまで大きな会社ではなかったんですよ。だから、報酬額もみなさんが思っているほど、高額なものではなかった。
なので、有名大企業に成長したいまのAirBnBとまた何かお仕事ができたら嬉しいですね(笑)。

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Carroll Gardens, New York Photo by Jacob Krupnick

K:
長年住んでよく知っている街とはいえ、ニューヨークは常に変化しています。このプロジェクトに携わったことで知れた新しい魅力はたくさんありました。自分もワクワクできる仕事ってやっぱり楽しいいです。撮影したのは、もう4、5年前になりますが、いまでもAirBnBのサイトをきっかけに「同じようなイメージ素材が欲しい」など、新規の仕事の話が舞い込んだりします。
ありがたいですね!Airbnbからまた別の国やエリアの撮影依頼がいただけたら、迷わず引き受けますよ!

※1ドル110円で換算

Jacob Krupnick(ジェイコブ・クルプニック)
Kenn Tam(ケン・タム)

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Text by Chiyo Yamauchi

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