「退屈なミーティングだった」
「大切な内容だったはずなのに、なんだか記憶があやふや」
「あのパワポのグラフ、なんのデータだったっけ?」
そんな経験、誰にでもあるだろう。それを解決してくれる、“会議室のクリエイター集団”がいる。ミーティングやセミナー、そこで語られるアイデアや重要な要素を抜き出し、“言葉と絵に”落とし込む集団「ImageThink」。自らを「グラフィック・レコーダー」、つまり「ビジュアル記録者」と名乗る彼らは、話し手の言葉に耳を澄ませ、ビジュアル化する。いわば言葉をイラストにしていく“同時通訳者”だ。
“そのプレゼン、忘れられない”を演出
「ビジュアルがあると、ないのと比べ、30%以上記憶に残るという調べがあります」
そう話すのは、ImageThinkのファウンダーの一人、ヘザー・ウィレムス。もう一人のファウンダーであるノラ・ハーリングとは、ファシリテーターで教師という、共通のバックグラウンドがあった。ファシリテーターとは、会議やミーティングなどで議事進行を務める人のこと。常に中立の立場で、参加者の状況をつぶさに観察し、心の動きを読んで進行をコントロールし、「場」をつくりあげる。「問題解決」や「合意形成」に導くプロだ。生徒一人ひとりを見ながらクラスをまとめる教師としても、同じスキルを磨いてきた。
聞き上手は話上手というが、ヘザーとノラは、現在は絵を描くことで大いに語る。
言葉を書く、絵を描く。ビジュアル化すると、聴覚に頼って理解しようとした話を、視覚でも捉えることができる。話を「聞く」だけではなく「見る」。五感のうちの二つの感覚を刺激してアイデアを刷り込むから記憶に残る。ビジュアル化することとは、総括することであり、簡略化し明瞭化することだ。だからこそ、要点を正しく伝えることを目的にするプレゼンテーションやセミナーで、ImageThinkのグラフィック・レコーダーたちは重宝される。
万国共通語。音楽、数字、そして「イラスト」
スピーカーの話を聞いて要点をまとめながら書く・描く。
少なくとも「よく聞き」「要点を捉えてまとめ」「言葉を書く」「絵を描く」という四つのスキルを同時に行う作業だ。一体どうやるの、と聞けば「訓練よ」と笑うヘザー。
ImageThinkでは、グラフィック・レコーダーの養成講座も開校。仕事の性質上、絵が描ける人の参加が多いようだが、「いかにビジュアルを使うか」「いかにアイデアをマップ化するか(まとめるか)」「積極的に聞く(Active Listening)とは」など、記憶に残る・刺さるプレゼンテーションをするためのスキルを学ぶという点で、ビジネスマンをはじめ、万人に有意義なクラスと評判だそう。
コミュニケーションの基本は、まず、よく聞くこと。よく聞くからこそ理解が生まれる。その上で、自分の意見を簡潔に明瞭に伝える。相互理解で大切な「聞く」に特化するプロフェッショナルであるグラフィック・レコーダーたちは、どこか知的で懐が深い。音楽や数学が「ユニバーサル・ランゲージ(万国共通語)」であるように、イラストもまた国や言葉の壁を超えて万人に通じるツールだ。
http://https://www.youtube.com/watch?v=PzUkJXRs6G4
言葉そのもののインパクトもとらえ、文字としてビジュアル化するグラフィック・デザイナーにとって、英語以外の言語環境で同じサービスをすることには難しさを感じるとよく耳にするが、世界で最も影響力のある言語といっていい「英語」が第一言語である彼らは強い。
今年3月のIT界のパリ・コレ、SXSWでも、ImageThinkは各プレゼンテーションの会場に、「グラフィック・レコーダー」として参加し、聴衆の注目を浴びていた。中には、最前列に陣取りプレゼンターの話に耳を立てながらも、目線は“彼女らが描くホワイトボード”という者も多くいた。イラストという強みも持ち合わせていることはもちろん、何よりも「よく聴き、理解に努める」という行為そのものを大切に実践し続けているからこそ、彼女らのファシリテーションはわたしたちの心を引き付けてやまないのかもしれない。
ImageThink
imagethink.net
Photographer: Tokio Kuniyoshi
Writer: Kei Itaya