「こっちの仕事の方がストレスフリーでいいんだよね」。ダイナーでワークブーツを履いた“ブルーカラー”の彼(白人)は、そう呟いた。元々、マンハッタンのミッドタウンで家具デザインの会社に勤めていた彼が、久しぶりに会うとブルックリンの工事現場に転職していた。
「ブルーカラー(blue-collar、青い襟)」。青い作業服、つまり生産現場仕事をこなす肉体労働者のこと。日本では“ガテン系”といわれる人たちだ。仕事内容は「3D(Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demanding=過酷な)」と敬遠されがちな職だが、昨今あえてその道に進むアメリカの若者が増加中というニュースを目にした。しかも、大学進学のチャンスを蹴る者までいるらしい。
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「ブルーカラー」になりたいミレニアルズ。気になる理由は?
電気技師や大工、配管工、整備工、修理工、工事現場作業員。ワークブーツに作業着姿で汗を垂らすブルーカラー職は、アメリカでは“ワーキングクラス(労働者階級)の仕事”とされてきた。
トランプ大統領の支持層として白人労働者階級が注目されたが、米国の労働者階級人口は全体のおよそ3分の2を占める。そのワーキングクラスがブルーカラー職に就く、というのがこれまでの概念だった。だが実際のところ、大学進学のチャンスがある高校生、または大卒のミレニアルズには進んでブルーカラーになる者も増えてきているというのだ。
大きな理由のひとつとしては、現代の若者にとって「大学進学・一般企業に就職」が、必ずしも現実的かつ希望に満ち溢れたものでなくなってしまったこと。そこにはまず高額な学費があげられる。借金をしてまで大学に通う必要があるのか?ローンを完済するのに何年かかるのか?高卒の数が増加している一方で、4年制大学への進学率がここ数年で3パーセントほど下がっている。
グリーンエコロジー産業でも引っ張りだこ
そして何よりも、いま「現場仕事の需要が高く、稼ぎもいい」。
建設業や修理業など、アメリカにはベテラン職人や半熟練工の雇用口は多い。2022年までに大工職は24パーセント、2017年末までに600の半熟練工職は5パーセントの成長率が予想(米国労働省調べ)。
ベビーブーム世代(50〜60歳代)の熟練工たちがリタイアしていくなか、ミレニアル世代へ現場職のチャンスが回ってきている。だが実際、彼らの数が足りてない。
その結果、若手のブルーカラー人材は重宝され、熟練工となると年収9万ドル(約1020万円)と大卒のホワイトカラーより高給取りなことも。さらに、雇用保障や福利厚生は、時としてホワイトカラーよりも条件がよかったりするのだ。
そして、“次世代の成長株”グリーンエネルギー産業。風力や水力発電所のメンテナンスや太陽電池の修理にスキルを持った現場技術者は常に必須で、今後5年で成長する職種は風力タービン(風力発電に使用される風車)のテクニシャンだとされる。
近い将来確実に拡大するエコロジー業界には、エコ・コンシャスでテクノロジーも得意なミレニアルズの力が必要なのだ。
名門大学からのオファー蹴って「技師見習い」
ブルーカラー職を希望する若者が多いことを目の当たりにし、企業も育成に力を入れ、高卒でも参加可能な見習いプログラムを提供しはじめている。
某大手電力会社で電気技師の見習いプログラムに参加しているのは、高校を卒業したばかりのある女性(18)。高校の成績は抜群で出願した大学すべてから合格通知が届いたのに、すべて蹴ったのだという。
プログラム参加費用は年間2400ドル(約27万円)。授業料が年間4万ドル(約450万円)の大学に比べれば格安だ。卒業生の90パーセントがここで就職可能で、基本給は年間5万8000ドル(約657万円)だから大学ではなくこちらを選んだという。
ニューヨークで蒸気管取り付け作業員として働く男性(20)も同じ。高校の成績はオールAで、有名大学から奨学金のオファーがあったにも関わらず、選んだのは作業員見習い。経験を積んだいまでは、時給110ドル(約1万2000円)になったという。
ニューヨーク市では配管工の訓練プログラムに月1000人の応募がくる。その中に大卒生がいることもよくあるそうだ。
日本のガテンも人材不足
日本でも数年前、“ガテン系男子”や引越し業者の“引越し男子”、配達員の“佐川男子”、さらには“土木系女子(ドボジョ)”なんてフレーズも生まれたが、実際のところ現場職の「人材不足」は深刻だ。特に建設業界は2020年の東京オリンピックを控え雇用は増出、賃金も上昇しているのだが。
やはり「現場仕事=3K(汚い、キツい、危険)」というイメージがこびりついているからか、就活生はみんなホワイトカラー職志望。50代以降の従業員がこれから引退していく一方で、ミレニアルズ世代の人数が減り続けている。仕事はあるのに、人が見つからない。そんな厳しい現状から外国人労働者を雇うことも少なくない。
現代に、戦前のプロレタリア文学『蟹工船』の労働者像はもはやない。生産現場のハイテク化やオートメーション化などテクノロジーの発達とともに現場職のイメージもずいぶん変わってきている。
“いい大学に行ったから将来安泰”は、もう通用しないとわかっているから、「高卒はブルーカラー・大卒はホワイトカラー」のステレオタイプを壊して考えるのは当たり前なのだろう。世間体や既存の固定概念をひと蹴りし、自分にとって何が一番大事なのかを追求する。シンプルな世代観だ。
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Eye Catch Image via Giuseppe Milo
Text by Risa Akita