アート界のヒエラルキーにわり込んだのはこの男。ブルックリンの廃駅跡で勝手にゲリラアート展示会

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強気のギャラリー、へり下るアーティストたち…。アート界のヒエラルキー構造に、とあるアーティストが、ペッと唾をはきかけた。
Phil America(フィル・アメリカ)と名乗る男が、4月のある日に、ブルックリンの地下にある立ち入り禁止の廃駅に忍び込み、ゲリラエキシビジョンを開催。その様子を捉えた写真は、「よくそんな場所、見つけたなぁ」と人々を驚かせ、インターネットを通して瞬く間に広がった。 

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「アート界の既存のシステムには乗っからねぇ」?

 ニューヨークの地下鉄廃駅に忍び込むというのは、走行中の電車から線路に飛び降り、真っ暗の中、感電しないよう線路をまたぎ、無数のネズミが駆け回る不衛生で異臭が漂うトンネルの中を散策ということ。

 クレイジーな話には耐性のあるニューヨーカーたちも、さすがにこの行為には「よく(そんな場所)見つけたなぁ」「よく(捕まらずに)やり遂げたなぁ」と反応を示した。

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「1平方メートルたりとも無駄にできない」と、“時は金なり”ならぬ”スペースは金なり”の地価高騰が続く地上。NYのような大都市にあるギャラリースペースの賃料は、多くのアーティストにとって「無駄に高すぎる」。無名のアーティストにとって、経済的なサポートはもちろん、物流、資材調達など様々なアート界の支援なくして、展示会を開催するのは「極めて厳しい」と、“犯人”は主張する。
 俺はそんな拝金主義の「アート界の既存のシステムには乗っからねぇ」という姿勢で、地下の広大な放置スペースを世に公表し、「こんな場所を発見したので、勝手にDIYで展示会をしました」というリスクをとった皮肉。つかみはよかった。

 だが、調べてみると、違和感をおぼえる点が多い。まず、これだけ大胆な違法行為をしておきながら、犯人は覆面ではない。顔出しでメディアのインタビューに答えている。それで捕まっていない、というのはなんとも不思議だ。

あれ、今風のハンサムじゃないですか。

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 そもそもこの男「1983年米国生まれ、肩書きは、アーティスト/アクティビスト/ライターで、過去には途上国のスラムや山奥に住み込み、アートを通して、社会的な課題を浮き彫りにし問題提起をしてきた活動家」だと、しっかり自己アピールをしている。また、TED Talksに出演したこともあり、「貧困とは何か、ヒューマニティとは何か」を力説するなど、国際的評価の高まりとともにUN(国際連合)をはじめとする大組織、企業とコラボレーションするなど、活動の幅を広げている様子。 
 メインストリームへアンチテーゼを示しているのかと思いきや、しっかり大組織とコラボレーションしているという事実にも、違和感を感じずにはいられない。

 また、無駄に「ハンサム」であることにも触れておきたい。世界の秘境や苦境がお好みらしいが、悲しいかな、スラムに行っても森に行っても浮いている。素っ裸になってもまだ浮いている。決して拭うことのできない、ウルルン滞在記感…。人を外見で判断してはいけないが、見た目と行動がマッチしない違和感たるや。どこよりも、小洒落たカフェやガラス張りのギャラリーがしっくりくるのに、あえて小汚い地下廃駅を選ぶってのも「なんだかな」と思うのは、私がこじれているからか?

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もしや答え、用意してた? 意地悪な質問にも即答するスマートさ

 次に、ゲリラアート展示会、メインストリームアート界へのアンチテーゼ、など「アート、アート」という割に、展示したアートそのものがどうも即席に思えてならない点。 

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10枚の旗が飾られた地下展示会。国旗にも見える旗は、一枚ずつよく見てみると「銃」の形が。それぞれ、コロンバイン高校銃乱射事件をはじめ、過去に起こった銃撃事件の追悼の意味が込められているのだそう。

 作品のテーマは「米国の銃規制」。それは大きな社会問題であることは間違いないのだが、
それと、ニューヨーク地下鉄廃駅との関連性がまったくみえない。
 
 そこで、単刀直入に本人に聞いてみた。「作品のテーマが銃撃事件であることと、ニューヨークの地下鉄廃駅とどう関係しているのか(ぶっちゃけ、関係なくね?)」と。
 
すると、彼は下記のように即答。

「白壁に囲まれたギャラリーでは何を展示しても、なぜ、そのアート作品をそのギャラリーに展示するのか、という疑問は生まれない。つまり、アート作品とギャラリーという展示スペースの間に特別な関係性などなくてもいいってこと。同様に、今回は一風変わった場所が『ギャラリー』になっただけで、アート作品そのものと廃駅に、深い関係性がなくても、問題はないと思う」。

 さらに、「でも、せっかく作品を展示しても、不便かつ、違法スペースじゃ、誰も見にこれない。それは多くの人にみてもらえなくて結構ってこと?(自己満か?)」とたたみかけると、こう返す。

「誰もに開かれた、という意味の『アクセサビリティ』という点は、アート界が抱える大きな問題。たくさんの人々が、ギャラリーの入場料、オープン時間、立地など様々な理由でアートに触れることができずにいる。一方で、僕の「ギャラリー」は、辿りつくのは難しいかもしれないが、不可能ではない。24時間いつでも誰にでも無料で開かれているしね」

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ー情報をメディアにリークしたのは誰?

「(僕のような)アーバンエクスプローラーたちだと思うよ」

ー今回のゲリラ行為の目的は?

「今回に限らず、いつも意識しているのはアートを通して、社会へ問題提起をすること。人々の間に新たな会話が生まれるきっかけ作りをしたい」

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政治家みたいなアーティストもいるもので。

 これは、私の憶測にすぎないが、彼は最初からメディアに取り上げられることを予測、いや、ひょっとしたら期待して行為に及んだのではないか、と感じている。「どうすれば、注目されるか」や「注目されたら、どう答えれば良いか」が、しっかり計算されているように見受けられるからだ。本人も「ニューヨークではすでに、ありとあらゆるゲリラアートが試されているので、今までにない新しいことがやりたかった」と言っている。

 仮に、目立ちたかっただけ、だとしても、彼を蔑むというのは違う気がする。目立つことにはしっかり成功しているのだから。そんな“アート”が存在するのもまたニューヨーク。「どんな手を使ってでも…」という野心や功名心が、これほど似合う街はない。

Phil America

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All Images Via Phil America
Text by Chiyo Yamauchi

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