正体不明のアーティスト、バンクシーの映画が日本で公開中。3年前、HEAPS編集部はリアルタイムでバンクシーを追っていた!
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正体不明のアーティスト、バンクシーを題材にした映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク(Banksy Does New York)』が今年3月26日より日本で公開されている。
そのストーリーの主軸は、2013年10月1日より突如はじまった「ニューヨーク展示」(ネタバレではありません)。
展示は、毎日1点ニューヨーク各地の路上に作品を残し、場所を明かさず公式サイトに投稿するというもの。
その作品を求め、大量の人々がニューヨーク中を駆け回り翻弄されまくったのだ。
ストリートとインターネット上にバンクシーとバンクシー作品を追う人々が溢れ、まさに「宝さがし状態」。


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そしてその当時である3年前、HEAPS編集部はリアルタイムでバンクシーを追っていたのだった、そういえば。
2013年当時の記事を公開しようと思う。

Who is Banksy? ところでバンクシーって、誰?

正体不明のアーティスト。世界各地でゲリラ的に作品を描くことで知られている。作品そのものによる批評性が高く、オークションでは驚くほどの高値がつく。

ブラッド・ピットやアンジェリーナ・ジョリー、キアヌ・リーブス、ジュード・ロウ、クリスティーナ・アギレラなど、セレブにも彼のファンは多い。
2010年にはドキュメンタリー映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を初監督し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

2 0 1 3 年 10 月 1 日 
Catch Banksy in NYC
バンクシーを追え!


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Photo by carnagenyc

 作品がこんなに有名なのに、いまだ「覆面」というのが面白い。本名、年齢など謎だらけのイギリスのストリートアーティスト、バンクシー。政治体制や社会構造など現代社会の病巣を、ブラックユーモアをピリリと効かして描く彼の社会風刺グラフィティは、オークションに賭けられれば何百万円にもなる。その一方で、アート素人でもまるでお笑い芸人の有吉弘行を見てクスっと楽しむ感覚で鑑賞できるシンプルで分かりやすい表現は、強烈なインパクトとなって脳裏に焼き付く。それはひとえに「切り取り方の上手さ」あってこそだろう。

 世界各地に出没しては、ゲリラ的に描くスタイルを貫き、2005年には、MoMAやメトロポリタン美術館など、世界各国の有名美術館のひとけのない部屋に自作を無断で展示したことも。しばらくの間、誰にも気づかれないまま放置されていたことが話題となった。そんな活動から「芸術テロリスト」とも呼ばれ、素性を明かさない彼の作品と存在は、アート界を超えて社会的にも注目を集めている。


“Hello, New York. I’ll hold exhibition there for a month in October .
Where? Well, I don’t know!!”
“わたくし、この度10月に、ニューヨークで1ヶ月ほど展覧会を行います。場所は分かりません”

 今年10月、ハロウィンに負けず劣らずニューヨークの街を湧かせたのは「バンクシー」だった。連日、街を舞台に作品を公開していったプロジェクト「Better Out Than In(ベター・アウト・ザン・イン)」。その名の通り、バンクシーは「中」より「外」にこだわり、街をキャンバス、いや、もはや自分のギャラリーに見立て、神出鬼没のバンクシー・エクシビジョンを行った。その様子は世界中のメディアで広く取り上げられ、グラフィティシーンが台頭した時代を彷彿とせるプリミティブでラフな衝動性は、ファンだけでなく、それまで「バンクシーって誰?」という人々をも惹きつけた。作品を一目見ようと、インターネット、特にツイッター上は、発見情報やらガセやらで連日大騒ぎ。「あそこにあった!ここにあったぞ!」とネット情報を手がかりに、スマートフォン片手に街中を探し回るファンたちの姿はまるで宝探しを楽しんでいるかにも見えた。普段は静かな住宅街でも「バンクシー」の一声で、現場は黒山の人だかりとなったほどだ。


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Photo by carnagenyc

噛みつく市長
グラフィティは芸術か、ただの落書きか

 市民が盛り上がり見せる一方、当時の市長、ブルームバーグ氏は「他人の所有物や公共物を汚す行為を、私は芸術だとは思わない。たとえ芸術だったとしても法律違反であることにかわりはない」と露骨に嫌悪感を示したことも話題に。
 ちなみに、バンクシーの出身国、イギリスでは彼のグラフィティは芸術と認められ、たとえ公共物に描かれたものでも、世論の支持により、消されずに市民権を得たものもある。それは本人が望んでいたことかどうかは分からないが、一方で、グラフィティの発祥地であるニューヨーク市で受けたこの対応——。
 その翌日、バンクシーは自身のウェブサイトに「Get Banksy! NYPD hunts artist(バンクシーをつかまえろ!NYPDがアーティスト追跡)」と報じたニューヨーク・ポスト紙の一面写真に、「I don’t read what I believe in the papers(私が信じていることは、新聞には何も書かれていない)」というキャプションを添えて反応した。

上書きされたり、消されたり
グラフィティの刹那

 グラフィティに詳しい人であれば、上書き(オーバー)されたり、数時間のうちに撤去されるというのは「ま、当然」な話しなのかもしれない。しかもバンクシーほどにもなれば、当然アンチも多く、なおさらだろう。
 しかし、筆者のような、情報を耳にしてから「じゃ、週末にでもちょっと見に行ってみようか」と吞気なスタンスで構えていた“にわかファン”は、そんなことが起こるとはつゆ知らずであった。

 たとえば、10月24日に発表されたHell’s Kitchenにあるクラブのシャッターに描かれた作品。私はその2日後、ツイッターのローケーション情報を頼りに出向いてみたが、既に真新しいシャッターにすり替えられていて、見ることができず撃沈した。
 事に気づけたのは、しばらくそのクラブの周りをウロチョロして数分経ってから。というもの黒山の人だかりが出来ていた他の作品とはうって変わって人影も少なく、どのシャッターなのか分からなかったからだ。それらしきものを見つけ「確か、このシャッターのはずなのに」と友人と話していると、ただの通行人に見えた人、いや人々が話しかけてくるではないか。「バンクシー探してる?」。なんだ、みんな何食わぬ顔をして、お目当ては一緒だったのか、と一瞬のハニカミタイムを共有すると、皆、同じ不完全燃焼感を背中に漂わせながら、別々に去っていった。私もその場を後にし、最寄り駅へと向かっている途中、一眼レフらしきカメラを下げた人々と何度かすれ違ったが、「多分、バンクシー目当てだろうな」と思いながらも「ないよ」とはあえて言わなかった。


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Photo by carnagenyc

 中には、半日かけて別の州から見に来た人も少なくないという。せっかく見に行っても24時間もたたないうちに、他のアーティストに上書きされていたり、消されてしまう刹那。また、作品を隠して「見たけりゃ、金払え!」と勝手に商売を始めるものまで現れた。この「いつでも見れるわけではない」というレア感と、「警察が捜査に乗り出すかも」という緊張感が、さらに人々の注目を煽ることとなった。

 言いたいこと、伝えたいことがあるからグラフィティを描き続けているというバンクシー。「楽しいからやる」。1ヶ月間、彼は「やる」と宣言し、やりきった。もちろん、その活動には賛否両論ある。だが、正体を明かさず「作品」一本で勝負するストリートアーティストの生き様、生命力、そして、どんな危険を犯してでも「伝えたい」という情熱は、人々の胸を打つものがあったのではないか。現代社会にメッセージを放ち続けるアート界の熱きアクティビスト。
 ニューヨークを去った彼の胸にはいま、一体、どんな思いが沸々としているのだろう——。

***

【あとがき。あれから3年、改めて考えてみた】
 
NY”らしさ”は、ただ消えゆく運命なのか。2013年、グラフィティのメッカ「5ポインツ」の解体決定は、NY発祥のグラフィティ文化の終焉を想起させる大きな出来事だった。だが、多くのニューヨーカーは「またか」と、どこか諦めていたように思う。

そんな時、あのバンクシーがニューヨークへやってきたのだった。奇しくも、それは解体決定から実行までの一ヶ月間。彼は捕まるかもしれない危険と隣合わせの中で、予告通り作品を残した。そのリスクをとった行動に、忘れかけてたグラフィティへの想いを喚起させられた市民は少なくない。
彼の作品はもう残っていない。しかし「メッカが消えても、文化は終わない、終わらせたくない」という危機感は、ニューヨーカーの間で確実に広がっている。

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Text by Chiyo Yamauchi

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