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  • Aug 4, 2018

ギャング支配の禁酒法時代〈もぐり酒場〉の小話。政治家・警察はズブズブ、男女は入り混じって酒を飲む—Gの黒雑学

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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、十五話目。

***

前回は「ギャングの素顔」というテーマで、アメリカンギャングスターミュージアムの館長さんに、実際に彼が関与したホンモノのギャングたちの素について教えてもらった。今回は「禁酒法時代」について。もぐり酒場と警察の癒着や、酒を飲みたい欲求ゆえ生まれた文化など、ギャングが牛耳った禁酒法時代のあまり知られていない小話を披露しよう。

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▶︎1話目から読む

#015「禁酒法時代。もぐり酒場では、矛盾と賄賂が横行し、あらゆる人間が入り混じる」

ギャングと政治家、市民が交差した「スピークイージー」

 数年前からニューヨークでは「スピークイージー」というのが流行っている。まあ簡単にいうと、バーの一種だ。古臭いアンティークの置物がこれ見よがしに鎮座していたり、店内はほんのりキャンドルなんかで照らされちゃっていたり、入るときに合言葉を言わなければならなかったり。蝶ネクタイにヒゲのヒップスター(死語)のテンプレみたいなバーテンダーが13ドルのカクテルなんかを恭しく出してくれたりする、いわば“お洒落の塊”たちが塊になって週末の夜を過ごすところだ。

 なんでもレトロ、穴場、マイナーならカッコいいみたいなトレンド感満載の最近のスピークイージーブームには正直辟易する。だからではないが、今回は本物のスピークイージー(もぐり酒場)の話をしよう。もぐり酒場とは、禁酒法時代(1920-1933年)に密かにできた隠れ酒場である。禁酒法とは文字通り、酒の製造、販売、輸送を禁じた法律のこと。別名ボルステッド法。米国建国に貢献した潔癖なピューリタン(清教徒)たちが、酒大好きアイルランド移民やイタリア系移民たちの酒癖の悪さに見かねて議会に訴えたことがきっかけで制定されたといわれている。

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 酒を全面禁止! と言ったところで世の中から酒が消えることはない。ニューヨークには当時、推定10万軒のもぐり酒場が存在。肉屋の裏口を入り口にした「シャイブズ・プレイス(アメリカンギャングスターミュージアム隣に現存する酒場の旧名)」や、警察のガサ入れに備えて、ボタンを押すと棚が上下逆さまになり、酒のボトルが下水に繋がるダストシュートに落ちて捨てられる画期的なシステムを生み出した「21クラブ」など、酒飲みと酒売りたちは知恵を絞った。

 そして、禁酒法という制約の裏でぶくぶくと肥えていたのが「ギャング」たちだ。カナダのウィスキーやイングランドのジンやライの密輸、密造酒の製造・販売、そしてもぐり酒場の経営までを牛耳り、儲けに儲けた。シカゴのアル・カポネや、カナダからの酒の密輸を手がけていたデトロイトのパープルギャング、ニューヨークのロングアイランド沖やバハマで密売酒の運搬をさばいていた“禁酒法時代のクイーン”ガートルード・リスゴーなど。

「ほぼすべてのもぐり酒場がギャングによって営まれていました。禁酒法時代において、アルコールが絡む飲食ビジネスをするには、ギャングと関わる必要がある。シャイブズ・プレイスもドイツ系の犯罪カルテルと繋がっていました」

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 経営側にもいたギャングだが、お客としてももぐり酒場に出入りしていた。「カポネ行きつけの店があったのですが、そこには政治家たちの姿もありました。政界とも繋がっていたいカポネにとって、もぐり酒場は出会いの場だったのです」

 酒を禁ずる政府側の人間たちも、こっそりもぐり酒場に通っていた“矛盾”にも衝撃だ。「もぐり酒場にも階級がありました。ワーキングクラスの酒場に、富裕層のスピークイージー。シャイブズ・プレイスにはアッパーミドルクラスのお金のある客や市議会員たちも出入りしてました」

 もぐり酒場に関することで、もう一つ“矛盾”が存在する。警察ともぐり酒場の間にあった“賄賂”だ。捜査官の中には、6本の酒瓶を見つけるごとに3ドル(現在の約39ドル、4,200円くらい)をせしめ、“見なかったこと”にしてやる者もいた。「ウォルドルフ=アストリア(NYの老舗高級ホテル)のもぐり酒場も警察のガサ入れにあったのですが、私の考えでは、彼らは自分たちを例外だ格別だと信じ警察に賄賂を渡さなかったからだと思います」

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 黒い汁しか出てこない禁酒法時代のもぐり酒場だが、新たな文化を生むことにも貢献した。ギャングや政治家たちに混じってキセルを片手にグラスを傾け、ミニスカートの脚を組み大口をあけて歓談していたボブカットのモダンな女たちフラッパーガールも登場。「禁酒法時代より以前に、男女が公共の場で盃を酌み交わすことは一般的ではありませんでした。あったとしても男のサロンにいた娼婦だけでしたから」。つまり禁酒法時代から「男女が入り混じる飲酒文化」がはじまったのだ。「私の祖父母の話も、ある晩もぐり酒場に出かけたのですが、警察のガサ入れにかち合ってしまい、一晩中店内に隠れて、翌朝帰ってきたそうです」。さらにもぐり酒場はこんな“貢献”も。「禁酒法は、アメリカを自由にしたといえます。酒場で生演奏されたジャズの弾き手は黒人でした」。酒を禁ずるという品行方正で厳粛な制約があったことで、さまざまな人種や性別を巻き込んだ開放的な文化が生まれたとは皮肉な話だろう。

 次回は、引き続き「禁酒法時代の小話」。現代のバーで夜な夜な登場する“あのカクテル”の誕生秘話や、政府も加担していた(?)大スキャンダル、また禁酒法時代に引っ張りだこだった意外な職種について明らかにしよう。

▶︎▶︎#016「カクテル文化が栄えた禁酒法時代。政府と密造者のいたちごっこ、密売酒の裏で活躍した◯◯者」

Interview with Lorcan Otway

☾☾禁酒法時代スラング・クイズ☾☾

“カクテル”誕生秘話の前にスラング・クイズ。
答え合わせは次回。いくつわかるかな?

★Moon Shine(ムーンシャイン)
1. 密造酒
2. ソフトドリンク
3. 水

♦︎Zozzled(ザザルド)
1. タバコを吸う
2. 酔っ払っている
3. ジャズを聞きに行く

♥︎Jelly Beans(ジェリー・ビーンズ)
1. フラッパーのボーイフレンド
2. フラッパーのパトロン
3. ギャングの愛人

♣︎Foot juice(フット・ジュース)
1. 安いビール
2. 安いワイン
3. 安いウィスキー

♠︎jag juice(ジャグ・ジュース)
1. アップルジュース
2. 蜂蜜酒
3. ハードリカー

***

重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Museum Photos by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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