労働運動についてチャットし、ハッシュタグで結束する若き労働者たち〈#MeToo世代の労働組合ムーブメント〉

この世代にかかれば〈労働運動〉もガラリと変わる。もちろんお得意のハッシュタグ・SNS・デジタルツールを駆使して、だ。
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「古臭い」「怖そう」「対立」「賃金値上げ」「ストライキ、デモ、メーデー」。

これら負のイメージに塗りかためられているものといったら、「労働組合」だ。労働者の権利や労働条件を守るため、労働者と会社の間に立つ労働者の連帯組織のこと。近年、労働組合に加入する若者人口が増加中、さらにデモ参加にも積極的なデジタル世代が、昔堅気な労働組合をお得意のSNSにハッシュタグを使いながらガラリと変えていると聞く。

労働組合にこぞって参加する「ミレニアルズ」

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 その昔、昭和時代のサザエさんの漫画のなかで、ストやデモを起こす労働者の姿があった。労働者の権利、労働環境向上のために団結し立ち上がろうと闘争心に燃える「労働組合(ユニオン)」の現在は、数十年前に比べて勢力を弱めている。

 世の働く人口のどれだけが労働組合員なのか(組織率)をみると顕著だ。“超過酷労働大国”と呼ばれる日本では、労働組合活動が合法化された直後の1940代後半にピークをむかえ、50パーセントを上回った年も。二人に一人が組合員、単純に考えればデスクのお隣さんやお向かいさんが組合員、なんてこともあったかもしれない。高度経済成長期には35パーセント前後を保つが70年代以降に下降を続け、2017年は17.1パーセントに。世界最大経済大国・米国でも、組織率は右肩下がりだ。黄金期の50年代中期には35パーセント80年代中期に差し掛かると20パーセント、2017年は10.7パーセントまで減少。

「労働組合員になって自分たちの権利を守るぞ!」などというのは過去の昔の話になりつつあった*…のだが、ここにきて米国では近年、“労働組合にこぞって入会する者たち”が目立っている。昨年米国では前年と比べ新規組合員が約26万2,000人上昇。その4人に3人が35歳以下、つまりミレニアル世代だ。なぜ、彼らはいま労働組合に入りたがるのか? そして、萎み気味の労働組合を若者たちはどう活気づけているのか。

*組織率の低下理由として、日本の場合は「不景気の影響で労働組合の発言力が弱まったこと」や「非正規雇用の増加」、「プライベートな時間を削ってまで組合活動はしたくない」、米国の場合は「グローバル化により組合員の仕事が海外に流失」や「生産のオートメーション化で労働者の一部がいなくなったこと」が背景にあるとされている。

“デモ”に抵抗なし、#Metoo世代の労働組合。ホワイトカラー、女性、テック系も団結

「いい給料に、終身雇用、そして退職後の年金。それは昔の話ですね」。そう話すのは、30歳のラリー・ウィリアムス・ジュニア。ミレニアルズの労働組合ムーブメントを“テック”で支える若者のひとり(彼の画期的な働きについてはあとで詳しく紹介)。

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Image via Larry Williams Jr.、ラリー・ウィリアムス・ジュニア。

 もはや3人に1人が非正規雇用といわれるようにワークスタイルや雇用はずいぶんと多様化し、それは「ミレニアルズの労働環境が数十年前の安定したものではなくなった」ということでもある。時代の流れによる若者の雇用への不安、労働権利への関心が、労働組合に入りたがる若者の増加の大きな要因だといえる。またポリティカルコレクトであることに常に気をつけているミレニアルズたちが特に重きをおく性別の平等・人種の平等は「労働組合の基本的な主軸にあります」。多種多様な個人の平等にセンシティブな若者たちが重視する平等を守ってくれる、と労働組合に親近感を抱くという見解だ。

「さらに最近の若い世代は〈#Occupy〉に〈#BlackLivesMatter〉〈#MeToo〉などの社会運動やデモにも積極的に参加している。ただ黙って座って変化を待つ、ということはしないのです」。経済格差や高い失業率などに不満を持った民の抗議運動 「ウォール街を占拠せよ(#Occupy)」、黒人への暴力に反対するキャンペーン「黒人の命も大切(#BlackLivesMatter)」、そして日本にも波紋を呼んだセクハラ・性暴力体験をシェアする「ミー・トゥー(#MeToo)」。それに、反トランプのデモ「ウーマンズマーチ(#womensmarch)」など、確かにここ10年ほどで若者たちが主導する社会運動は活発だ。パーティーに参加するようにデモに参加し、間違っていると思ったら団結して声をあげる。「まさにその核にあるのは、労働組合運動です」。社会的デモに抵抗ないミレニアル世代は、労働の不平等や問題解決に向けて団結する労働組合にも抵抗が少ないのだ。

「労働組合=ブルーカラー」はもう古い

 ミレニアル層が幅を利かせはじめた労働組合。彼らの登場によってその組織構造にも変化が見られるという。「米国の従来の労働組合において、組織のトップに立つリーダーは“年配の白人男性”が基本でした。しかしいまでは、たとえば米国看護組合のメンバーの大半は女性で、リーダーも女性。地方公務員組合連合には黒人メンバーが多い。僕はこの前まである組合の総長を勤めていたのですが、僕が初めての黒人の総長でした。いまの総長は南アジア系女性です。トランスジェンダーやゲイのメンバーもいます
 さらに、労働組合といえば建設労働者や工場労働者などブルーカラーワーカーたちのイメージが否めなかった。しかし、“襟の色”ももう関係ないようだ。今年1月には、経営側に不満を持った米大手新聞社ロサンゼルス・タイムズの記者292人のうち248人が全米新聞労働組合への加入に投票。136年間労働組合がなかった同社に、記者たちの歓喜の声があがった。
 また、米ビジネス誌ファストカンパニーも今年6月、およそ40人の社員が東部全米脚本家組合に加入したことを発表した。ジャーナリストたちに加え、テック系も団結。シリコンバレーには、テック業界で働く者たちが労働問題に取り組むボランティアベースの団体もある。「僕も元ウェブデベロッパーなのでわかります。テック系スタートアップの社員は長時間労働で、何百時間も働くことに期待され搾取されている。チームプロジェクトがない限り一人でコーディングばかりしている彼らに、集団のメンタリティはなかったのです

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Image via Larry Williams Jr.

「#」に「労働組合版SNS」。デジタル世代は、体制をどう変える?

 ここである例をあげよう。労働組合に入っている従業員Aさんがいる。Aさんは病気になった家族の看病のため休暇をとりたいと会社に申し出た。しかし会社側は休暇を認めない。

「この場合、従来では、Aさんは組合のリーダーに相談し、組合の代表が会社に交渉する。つまり他の組合員はその問題に関与しない縦型で、いわば〈ビジネス型〉でした」。しかし、近年では形態が違うという。「近年主流なのは〈オーガナイズ型〉です。まずAさんは同僚Bさん(同じ組合員)に相談する。AとBは一緒に組合のリーダーに状況を説明し、他の組合員たちを巻き込んで、問題を一緒に考える。そして、組合の代表が会社に交渉するのです」。つまり、昔の構造では一人の組合員の問題をリーダーが解決をしようとするが、いまの構造では一人の組合員の問題を組合全体で考えるべきこととし、みんなで解決しようというわけだ。「労働組合は民主的に機能しなければという考えです。権利について組合員を教育し、公正のために力を合わせ、労働問題の全体像を理解していこうとします」。オーガナイズ型は、何事も“共有”して“コミュニティ”を形成し、横に“繋がる”ことに重きをおくミレニアルズに適っているといえよう。

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 今年3月、ウェストバージニア州の2つの教職員組合が協力し、給料引き上げを要求するストライキを決行した。この時、2つの組合を繋いだのが「#」だった。彼らはスト遂行前にソーシャルメディアで「#55strong」というハッシュタグを使用し、自分たちの直面する問題をシェアしてサイバー上で一致団結。さらに他州の教員組合も、ソーシャルメディアやハッシュタグを活用し抗議運動をおこなったりと、ソーシャルメディアと労働組合活動は相性が良い

 労働組合を探す方法もデジタル化している。「これまでは、労働組合に入ろうと思ったら電話帳を引っ張り出し、そこにリストされた組合に片っ端から電話を50件くらいかける、なんてことが一般的でした。でもいまでは、若者たちは僕たちのような“デジタルプラットフォーム”を通じて入りたい組合を見つけています」。ラリーが立ち上げたのが、労働組合と労働者を繋げるオンラインプラットフォーム「Unionbase(ユニオンベース)」。ここでは、ユニオンベースが認定した労働組合が登録されており、労働者は自分たちの職種や居住地に合わせて組合を探すことができる。また各組合のアカウントでは、メンバー同士が投稿できる他、ダイレクトメッセージやグループチャットもできる。

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ユニオンベースの実際のアカウントページ。

スラックみたいな感じです。やりとりをプライベートにできるので、部外者を寄せつける心配もない。というのも、ハッシュタグはパブリックなので、時には労働運動を阻止しようという者たちの目にも入る。プライベートページを作れるフェイスブックもありますが、データ流失や偽の組合アカウントなどの問題もあります。だからユニオンベースは安全なツールなのです」

日本やカナダ、欧州の労働組合前線

 ラリーが立ち上げたユニオンベースには、日本の労働組合(日本初の外国籍の代表による多民族・多国籍合同労組「全国一般東京ゼネラルユニオン」)からもすでにリーチがあったという。

 日本でも「働き方」がいつになく渦中の問題となっている。日本の代名詞といっても過言ではない「残業問題」に「過労死」。仕事のやりとりもショートメッセージやアプリを使うようになったことから、休日や深夜帯にも仕事の連絡が飛び交う。対症療法的な働き方改革によって、業務量は同じなのに残業を減らせと言われ、終わっていない仕事を自宅に持ち帰らざるをえない「時短ハラスメント」など、ワークスタイルに関する問題は日常茶飯に転がっている。

「新卒採用、終身雇用」は崩れ、派遣やフリーランス、副業者が増加するなか、昨年には国内初のフリーランスを対象にした保険ができるなど、雇用の形態に関わらず働く人の権利を守ろうといる動きもみえる。昨年、東京ディズニーランドの運営会社「オリエンタルランド」は約2万人の非正規従業員を労働組合に加入させたり、ある大手金融機関では1万2,000人の契約社員が正社員と同じ労働組合に加入できるようにするなど、非正規社員の労働組合加入も活発だ。NTT労働組合は、組合員を対象にSNS機能がついたコミュニティサイトを開設している。

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 他国に目を向けてみると、北欧の労働組合組織率が圧倒的に高い。スウェーデン、デンマーク、フィンランドは65パーセント、アイスランドに至っては労働人口の92パーセントが組合員だ。ラリーが注目するのは、米国の隣国カナダ。幅広い業種の労働者30万人を代表する労働組合は、ユニオンベースにも登録されている。世界規模では、米国やアジア、中東にネットワークを広げる縫製工場労働者を支援する国際的な団体も存在する。

 ここまでデジタル世代が牽引する労働組合ムーブメントをみてきた。今後はユニオンベースのアプリ版も開発しようとするラリーは、労働組合の将来についてこう話す。「労働組合業界はまだまだアナログです。しかし新しい組合員がテックサビーな若者なので、業界も彼らの基準に合わせていく必要があります。今後はブロックチェーンや契約内容の改ざんや不正が非常に難しい『スマートコントラクト(自動契約システム)』も活用されるのではないでしょうか」

Interview with Larry Williams Jr.

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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