「現地に残るのは500円」旅行者が“ローカル旅”で使ったお金はどこへ行く?経済も絡むサステナブルツーリズム

「自分は本当に現地にお金を落としたのか?」「その店は、本当に現地の人が運営しているのか?」ローカル旅の落とし穴。

「観光本に載っている定番の観光スポットより僻地に行きたい」「ローカルの人と触れ合って、同じことがしたい」欲、それから「社会貢献」欲などもあいまって発展途上国の“ローカル旅行”は人気だ。それなのに、「旅行客が使った1万円のうち、現地に残るのはたったの500円程度」という問題はいまだ残る。「本当の意味で、現地のコミュニティに関わるってなんなのか?」を考えるサステナブル・ツーリズムが、観光業界で顕著になっている。

小さな村にも旅人がいる時代。なのに、現地の村やコミュニティが潤わないのはなぜ?

 世界は旅人で溢れかえっている。世界の海外旅行者数は2010年頃から右肩上がりで、2017年には13億2,200万人に到達。今年もさらに約5パーセント増が予想されている(国連世界観光機関調べ)。その旅行ブームの最中、再び注目を集めているのがサステナブル・ツーリズムだ。サステナブル・ツーリズムの概念*は80年代に提唱されたもので、決して新しいものではない。ただ、以前は「観光地と環境にマイナスにならない旅をしましょう」と環境と景観の保護に寄っていたものが、近年は「観光」と「ボランティア」を組み合わせ、いかに効果的な貢献に繋げるかに焦点をあてている。16年にAirbnbが、体験に軸を置いた社会貢献体験(Social Impact Experience)プログラムをはじめたことが日本でも話題になったが、この頃を境に、社会貢献に注力する旅行関連のビジネスや非営利団体が増えている。

*観光客の増加に伴って生じる観光地の過度な商業化や環境悪化、文化継承の阻害を避け、観光地本来の姿を求めていこうとする概念。

「旅」と「慈善活動」をセットにした現代の「サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」。近年、物質の時代から心や精神の時代へパラダイムシフトが起きているといわれているが、この業態も時代の精神性を表したものの一つだ。旅行した土地をより深く知ることができ、また、地元の人々と手を取り合うことで有意義な交流ができるとあって、その需要を伸ばしている。

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Photo by Harvey Enrile

 注目を集めはじめた15、16年頃はまだ、一人でも多くの人が「旅行先でボランティアに参加するだけ、世界には援助を求めている人がたくさんいることを知るだけでも、十分に意味がある」。それだけで一歩前進という段階だった。だが、蓋を開けてみると、慈善活動に興味をもつ旅行客の数は増えたものの、旅先の現地の人たちの生活状況は、あまり改善されていないことが浮き彫りに。背景にあるのは「旅行客が現地で使ったお金の多くは、現地に止まらず、外に流出している」という問題だ。冒頭で述べた通り「旅行客が使った1万円のうち、現地に残るのはたったの500円分程度」といった問題がいまだ残る。
 そこでいま、特に重要視されているのが旅先の「経済の改善」「旅行者が使ったお金は、どこにいくのか」。この一歩踏み込んだ追求が重要だという。

外らの“ビジネス上手”を防いで現地に必ずお金がまわる

 では、現地にお金を残すにはどうすれば良いのか。

「地元の人が運営する企業や団体にお金を落とすこと」。ローカルの店でご飯を食べ、お土産を買い、現地の人が運営する宿に泊まる—、そういったことなら「やっていますよ」という人も多いかもしれない。しかし、従業員は現地の人だが、オーナーは別(主に先進国の人)というケースは少なくない。実際、私もメキシコの山岳地帯の小さな村の露店で、伝統工芸品だと思って買ったアクセサリーが、実はヨーロッパ系のヒッピートラベラーが作ったものだったり。「本当に現地の人が運営しているかどうか」はパッと見ではわかりにくいのだ。
 そこで、たとえばヨルダン観光局は、観光客のサステイナブル・ツーリズムをサポートするためのマップを作成し、今年春よりウェブサイトで公開している。マップに掲載されているのは、「ベドウィンのキャンプ施設」「伝統の織物を作る女性グループ」「砂漠ツアー」など、確実に地元の人たちが運営するものを厳選して掲載している。
 

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Photo by Wei Pan

 また、現地を潤わすことができるのは、お金だけでなく労働力もだ。昨年秋には、ツアー会社Collette(コレット)がはじめた、旅の半分ずつの時間を、観光と、果物の収穫や孤児院で子どもの世話をするなどのボランティアにあてる「インパクト・トラベル・ツアーズ」を開始。南米やアフリカ大陸のラグジュアリーツアーを専門とするandBeyond(アンドビヨンド)も、今年より同様のプログラムを初めている。
Audley Travel(オードリー・トラベル)Scott Dunn(スコットダン)といった、少し前に注目を集めたラグジュアリー系の「オーダーメイドの旅」を提供する旅行店も、チャリティ活動WE Charity(ウィーチャリティ)のプログラムと提携し、やや路線変更を図っている。ホテルブッキングサイトKind Traveler(カインド・トラベラー)の、1,000円程度を寄付するとラグジュアリーホテルに割引価格で泊まれるサービスも人気だ。これらはサステナブル・トラベルに興味を持つミレニアルズ世代を取り込む目論見だといわれている。

 ソーシャル・インパクトに特化した旅行会社Giving Way(ギビング・ウェイ)は、ボランティアをしたい人とプログラムを提供する地元の人を直接つなぐ、中抜き旅行ビジネスを展開。着実に事業を拡大している。ミドルマン(代理店や中間業者)を排除することで参加費を安くし「海外ボランティアをもっと身近に」を実現する。現在、彼らは世界115ヶ国、1,900以上のボランティアグループと提携しているが、それらはすべて政府や海外企業ではなく、地元のコミュニティが運営しているものだ。厳選しているのは、地域の人々を巻き込まずして、地域の保全と観光の両立は難しいから。言い換えれば、現地や現地のローカルビジネスを利用して、上手にお金を稼せごうとする“外からのビジネス上手”が入ってくるのを防ぐ意味もある。

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Photo by Baby qb

エコだけじゃない。次のサステナブル・ツーリズム

「旅行先で使ったお金がどこにいくのか」。この追求は、企業や団体だけでなく、消費者である旅行者一人ひとりにも求められることだという。というのも、サステナブル・ツーリズムを謳う団体が増えているのは、消費者のニーズが高まっているから。つまりは“売れ筋商品”だからであり、「すべてのサステナブル・ツーリズム団体が、ソーシャル・インパクトを徹底しているとは限らない」。そう話すのは、発展途上国の地元の人たちが観光業からしっかりとベネフィットを得られるようにサポートするThe Travel Foundation(トラベル・ファンデーション)。社会貢献プログラムに「ただ参加して満足」ではなく、申し込む前に、そこにはどんなインパクトがあるのかを確認し、もし、明記されていなければ、「このプログラムのソーシャル・インパクトについて教えてください」と聞く。その質問に答えられるかどうかが、その団体が本物かどうかをみわける指標になるそうだ。

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Photo by Ingo Hamm

 賢い消費者が増えると世界が変わる、といわれているが、それは観光産業も例外ではない。賢い旅行者が増えれば、世界はより良いものに変わる。こういった動きを見ていると、ホスピタリティの意味が、ボトムアップでより大きなものに変化しているように思う。顧客に最高のサービスを提供することだけではなく、旅先の現地のコミュニティにとって有益な活動や貢献をすることも含まれる。

「とりあえず、旅先で慈善活動を体験して、みんなにシェア」。それだけでも意味があった初期段階から「本当に旅先のコミュニティのためになる方法を考える」一歩踏み込んだ段階へ。観光業界にもファッションや医療業界と同等の「透明性」が求められる時代が到来している。

Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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