火山学者の探検と測定による“気候変動を知るデータ”。現実的な目を育てる、客観的で間接的な気候危機へのアプローチ

気候にまつわる話を、自然にもっとも近いところから客観的に見つめる火山学者の話。
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「クライメート(climate)」が「気候」を示すだけのワードにとどまらず、「気候変動への取り組み」や「気候危機への対策」「環境問題への意識」までのニュアンスを含むようになった昨今。

気候変動と人権問題が関わっているという考えから、クライメート・ジャスティス(気候正義)という言葉も浸透し、論理的・感情的な意見を巻き込みながら「人の行為がどのように気候変動に加担し、また人のどんな行動が改善に繋がるのか」ということが日々話されている。

気候危機に対する活動は、人為的な部分へのアプローチだけではもちろんない。たとえば火山学者は、自然活動からデータを引き出し蓄積し、観察し、考える。まずは「気候変動をより的確に捉える」ために、どのようなファクトがあるのかを自然の動きから測定し、検証している。

一人の火山学者の働き

「ぼくは気候変動アクティビストではありません。科学者です」。気候変動へと立ちむかうヒーローのようには描いてほしくない。その日、取材の画面に現れた火山学者イヴ・ムサラム(Yves Moussallam)からは、そんな気持ちが伝わってきた。フランス系レバノン人のムサラムは、現在、コロンビア大学(ニューヨーク)の地球環境科学部に所属し、地球の気候に影響をあたえうる火山活動を研究している。

 火山活動の研究では、いったいなにをしているのだろう。それは、活火山から放出されたガスとエアロゾル(空気中に漂う微細な粒子)を測定し、数値化することだ。それがどう気候と関係しているのだろう。それは、ガスとエアロゾルは、大気の温度を下げる冷却効果がある*ということ。だが、火山噴火によって生まれるこの冷却効果により地球温暖化がおさえられる、なんていう単純な話ではない。

 ムサラムの研究は、気候変動の解決の糸口を探るものではなく、活火山のガスとエアロゾルのデータを計測し、気候を専門に研究する科学者へと提供、地球の気候をシミュレーションする気候モデルなどの開発に役立ててもらおうというものだ。


Image via Yves Moussallam

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 火山噴火と気温の低下はすでに研究結果からわかっていることで、たとえば、1783年に起こったアイスランドのラキ山噴火は冷害を引きおこし、欧州で飢餓を、そして日本では天明の大飢饉を発生させ、1991年のフィリピン・ピナトゥボ山の噴火は、地球全体の平均気温を0.5度ほど低下させたといわれる。また今年1月にはトンガで大規模噴火があり、気候への影響はどれほどなのかとニュースでたびたび取りあげられた(専門家によると、「影響は限定的」とのこと)。

*大噴火により成層圏に硫酸塩エアロゾルが放出され、生成された雲が太陽光を反射させ気温を下げるという仕組み。ただし、黒色炭素など、太陽からの放射を吸収し気温を上げるエアロゾルもあるなど、温暖化への影響は測定できない。 

  活火山からガスやエアロゾルの放出量を測定することはこれまでも多くの研究者によっておこなわれていたことだが、ムサラムの凄みは、その研究フィールドにある。環太平洋火山帯(太平洋の周囲を取りまく火山帯)を中心に、メラネシア沿いやインドネシア、チリ、コスタリカ、エチオピア、南極などにある前人未到の火山帯をこれまで探検してきた。

「日本やイタリアの火山のデータはもうすでにあります。ガスの放出レベルがわかれば、火山の特徴がわかり、冷却効果のことがもっとわかる」。

すごく寒い火山、すごく熱い溶岩湖

 専門的な火山と気候の話のあいだに、少し箸休めを。誰も踏みいれたことのない活火山に近づくムサラムは、活火山と物理的な距離が近くなればなるほど「エモーショナルになる」という。爆発を直近で感じ、地面が揺れる。「チリの火山では、近づくにつれ、『ドーン』『ドーン』と大きな音で轟音がするんです。興奮します」。

 幼いころから登山に情熱をかたむけ、アルプスやコルシカ島の山など、欧州の山々を登っていた。火山に興味を持ち、研究するようになってからは、計測のために現地に足を運ぶ日々。チリ、ペルー、エクアドルにある火山は2、3日がかりで登る。


Image via Yves Moussallam

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「南アメリカの火山は標高が高く風も強いためとても寒いです」。地表に流出した溶岩が、くぼ地や火口にたまった「溶岩湖」がある火山もある。バヌアツにある溶岩湖はとりわけ美しいという。「近くにいくと、熱を感じます。巨大な溶岩湖が溶岩を吐きだしつづけている光景を何時間も何時間も眺めてしまうんです」。最近は、アイスランドの火山を訪れた。「火山によって毎回違う体験ができる。無事に帰還しないと、という意志を持って、データを収集し、下山する。迅速に動かなければなりません」。なにも活動が起こっていないだろうと推測したある火山では、実際は活性のマグマ溜りがあることを示唆するガス放出量が認められたりと研究フィールドには予測不可能が当たり前だ。

 火山学者たちのグループ「Trail By Fire」の主宰も務め、グループでの探索も実施。パンデミック後は、探検もしばらくお休みし、時にはドローンを使用して遠隔から研究を進めている。

間接的に気候への理解へ貢献する

「火山が私たちを救ってくれるなんてことはありません。噴火の寒冷化により飢饉が発生するなど、社会や経済が危機に陥ることもあります」と、火山活動のもつ冷却効果が気候変動の解決になるという単純な話ではないことを念おす。「もし明日、火山の大噴火が起これば気候に影響はありますが、私たち人間が化石燃料を使いつづける限り気候は温暖化する一方です」。

 むしろ、冷却効果により、観測上のデータから実際の温暖化(気温の上昇)が隠されてしまっているかもしれないという点も指摘する。ムサラムによると、たとえば、2008年から12年の温暖化の予測と観測に不一致が見受けられた。火山噴火は、小規模なものも含めると毎年起こっているという。それらの火山噴火の冷却効果が無視されていると、このような誤差が出る可能性もあるということだ。

 ここで、ムサラムのような火山学者がリスクを冒して集めてきたデータによって、科学者たちは火山活動を考慮することで、誤差を減らし、より正確な未来の気候シュミレーション(気候モデル*)を考えていくことが可能になる。

*気候モデルとは、大気や海洋などにおいて起こる現象を基礎的な物理の法則をベースに定式化し、コンピューター上で地球の気候をシミュレーションするもの。

「気候モデルは、地球温暖化の予測に使用されることもあります。どこの地域が深刻な砂漠化が進むのか、どこの地域が高い、あるいは低い湿度を記録するのかなど、気候がどのように変わっていくのか予測を知ることができる。そしてそれによりどのように社会が適応すべきなのかを考えることができる。たとえば、温室効果ガス削減など政府機関が政策を決める際にも、未来の予測を参考にします」。

 より正確な気候モデルがより的確な気候対策へと繋がり、気候の未来にどんなプラスを生みだすことを期待して、ムサラムたちはデータを集め続ける。


©Rolex/Stefan Walter

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 昨年のCOP26も例に漏れず、世界的な気候変動に関するマーチやスピーチでは「もう私たちには残された時間はありません」と、感情のナラティブを促進する向きを強めている。その同じ時流において、同じように地球が少しでも良い方向へ向かうように、しかしながら客観的に、人為ではなく自然活動に目を向けながら、現実的な目を持つナラティブを着実に積み上げていることを知ったうえで、私たちが考えられることもある。

「感情に駆られるべきではないと思います。ぼく自身は、気候変動アクティビストではなく、科学者です。研究現場に行き、測定をし、測定を理解しようとし、仮説を立て、もう一度研究現場に戻り、その仮説があっているのか試験をする。このような科学的なプロセスをおこなっているのです」

Interview with Yves Moussallam


©Rolex/Stefan Walter

Eyecatch Image: ©Rolex/Stefan Walter
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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