「もうテックカンパニーにはここから出てってほしい…」。
ここ数年、こんな声が住民から相次ぐ。場所はサンフランシスコ、物価が高騰中のエリアだ。いまやニューヨークや他の都市を差し置いて全米イチ家賃がお高い。
なぜいまその物価の歴史的高騰を見せているのか。その理由の一つ(であり大部分)は、「テック系企業の参入」だ。それゆえ、
・絶えず国内外からテック系人材が大量に流入する
・特に若手は都心のサンフランシスコに住みたがる
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人件費・家賃・物価は高騰。もともとの住民からしたらとんでもない迷惑…。しかしながら、失業率の低下と最低賃金の底上げという側面もある。
じゃあ百害あっても、まあ一利くらいあるんじゃないの? と思った筆者は浅はかだった。
参入しているのはテック系、つまりテックに明るくない人にはなーんの得もない。確かにエンジニア(もしくはデザイナー等)の養成学校も比例して増えているが、学費は3ヶ月程度のコースで約150万円。医者を目指すより高い。無料のワークショップに参加するにも「ラップトップはご持参ください」とくる。つまり、もともとエンジニアのエの字もない人(もしくはお金に余裕のない人)はお呼びでないんですよ状態である。
かっこいいテック系カンパニーが連なる裏通りには低賃金所得者が所狭しと住む(サンフランシスコの賃金のギャップはいまではルワンダ以上だとか)。
物価を上げるだけ上げて、自分たちはいい暮らし。元よりの住民にウン害あって一利なし、とくれば恨みごとの一つや二つは言いたくなる。
その状況を変えようと試みるのが、非営利テックトレーニング団体「Techtonica(テックトニカ)」だ。そのカリキュラム内容は、ソフトウェアエンジニアリングにはじまり、プロジェクトマネジメント、データ分析、 UI/UX design等、実践的なものが6ヶ月間に渡りみっちりと鍛えられる。カリキュラム内容は基本的に他のテック系スクールと変わらない。何が違うのか?
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まず、「学費無料」。学校にみっちり通っている間は生活補助金も支給される。それから、募集する対象者。優先されるのは地元低所得者層の女性たちやノンバイナリージェンダー(女性・男性どちらにも分類されない人)だ。もちろん、ラップトップも提供される。
プログラム終了後は、プログラムのスポンサーとなるテック企業への就職も斡旋するという。
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テックトニカだけではまだまだ小さな変化しか起こせないが、テックカンパニー参入の恩恵を地元の人々が受けられる兆しが、ほんの少しだが差し込みはじめた。社会的に最も弱者とされる低所得者の女性たちに、というのは重要だろう。
これまで「高い教育水準を受けた者のみ良し」とされてきた均質な人材ばかりのテック産業にも、「低所得者層の女性」という新たな風が吹き込む。変化が激しく先読みの難しいテック業界にも多様性はあって然るべき。少しずつ、win-winの関係に向かってほしい。
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詳しくはコチラから。
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Text by HEAPS, editorial assistant: Shimpei Nakagawa