DJパーティーや大型音楽フェスティバルでもっとも消費されるものといったら…ビール? それも確かに正解だが、大正解は「電力」だ。
DJミキサーから巨大なサウンドシステム。絶え間なくステージを照らす照明に、会場を盛り上げる装飾のライト。たとえば、英国で5日間にわたって開催される大型フェス(グラストンベリー)での消費電力は3万メガワットにまでのぼる…あまりピンとこないかもしれない。「ある英国の一つの都市全体が、5日間で消費するのと同じ電力量」と聞けば、3万メガワットの凄まじさがわかるだろう。
パーティーで大量に使われる電力を「自然の力でまかなえはしないか?」。近年こういった試みは増えているが、これを20年前からスタートしている元祖的存在がいる。彼らが使うのは、〈ソーラーパネル〉。そして、〈ペダルを踏んで、こいだぶんだけ電気に変換する自転車発電機〉。
パーティーの終わりは、太陽の力、そして自転車をこぐ“レイバー”の体力とやる気を使い切ったとき、だ。
太陽と人に頼る、20年続く“ソーラーレイブ・パーティー”
「自然志向のパーティーにて、化学燃料を一切使用しない、再生可能エネルギーのみで稼働するサウンドシステムを作ってみたい」。
これがいまから20年ほど前の1999年のアイデアだということに、まず驚く。当時、再生可能エネルギーに対する人々の意識は、現在に比べてだいぶ低く、欧州でもいまのように重要視はされていなかった。そんななか「デザインは、社会貢献へのツール」だと考えはじめていたスイスの環境デザイナー/アクティビストのセドリック・カーレスは、自身のアイデアのもとに「ソーラー・サウンド・システム」を創立。ソーラーパワーと自転車発電でレイブパーティーをしよう、という団体で、そのミッションは、一に、「イベントや音楽フェスで、可能な限り二酸化炭素排出量を抑えること」。二に、「みんなに再生可能エネルギーについて知識をもってもらい、実現可能だということを示すこと」。そして、「自然の力と人の力でパーティーが夜通しできるように、自転車発電機を作りました」。
彼らが独自に開発したのが「移動式・ソーラーレイブパーティーシステム」だ。DJブースにソーラーパネルを搭載し、そこに自転車発電機を接続。太陽の光とともに、パーティーの参加者がこの自転車をこいで発電してパーティーに必要な電力をまかなう。
このシステム1台で50人から500人規模のパーティーに対応可能。「小さなストリートパーティーから、大型フェス、結婚式、ビーチや山、屋上、クラブまで、さまざまなタイプの環境やスペースでパーティー済みですよ」。ソーラー・サウンド・システムの初期からのメンバー、ルーベンスはそう話す。これまで、パリやマルセイユ、ベルリン、スペインのバスク地方、テルアビブ、香港にも支部をおき、世界の10ヶ国以上で、“ソーラーレイブ”を開催してきた。
現在の活動を聞くと、「ある日には学校にて子どもたちに再生可能エネルギーについて教え、翌日には、テック企業のカクテルパーティー、その次の日には、アート展覧会のオープニングで音楽をかけている、といった具合です」。
1分漕げば、1分延長
太陽の恵みとレイバーたちの力技で成り立つパーティー。快晴の日は、日が沈むまで何時間でもパーティー続行可能。日が沈んだ夜は、ひたすら自転車のペダルをこいで発電する。
「参加者は、自転車をこぐことで、再生可能エネルギーがどうやって生成されるのかを身をもって理解できます」。
太陽光と自転車で発電された再生可能エネルギーは、ターンテーブルやミキサー、ラップトップ、CDJ、マイク、スピーカー、その他機材を動かす電力となる。パーティー続行可能時間は「サウンドシステムの規模や流す音楽の種類、太陽光の量、参加者のこぐモチベーションによって変わってはきます。2〜3時間は問題ないですし、3日続けることもできるでしょう」。
1分こぐと、1分システムを稼働させる電力が作れる仕組み。つまり「2人が1分間ペダルをこいだら、2分間音楽を流せる電力をチャージできる」ということ。けっこう地道な作業だ。「参加者に、ダンスする代わりに『自転車をこいでください』とは強制しません。でも、こぐのがおもしろいと感じ、みんな自然とこいでくれます」。
パーティーがスタートしてすぐは、みんな自転車の存在があまり理解できない様子。そして、2、3分経つと仕組みを理解し、「1時間後には、踊っている参加者と自転車をこいでいる参加者の不思議な交流が見受けられます」。
ルーベンスにとって思い出深かったのは、2015年にパリでおこなわれた第21回気候変動枠組条約締約国会議のアフターパーティー。英人気DJのマット・ブラックをゲストに迎え、日の入りから日の出までぶっ通しの大規模なものだった。パーティーが終わりに近くにつれ、だんだんと電力が足りなくなってしまった。「すると、どこからともなく参加者が自転車発電に列をなして、2〜5分のペダルこぎリレーをはじめました。そのおかげで、朝までパーティーをすることができて」。
さて、屋外でのパーティーで雨が降ったときはどうだろう。システム全体を覆い、自転車発電だけを続けるという。「もちろん大雨のときは無理ですが。それに、大雨のなか踊りたい参加者はあまりいないと思います。太陽を浴びて踊りたいでしょうから」。それでも、防水加工をほどこしたシステムも開発中だ。
「私たちのシステムは、自然と文化に貢献する道具」
ヨーロッパのDJやレコードレーベルのみならず、企業や団体もソーラー・サウンド・システムを支援しはじめている。香港支部でのパーティーでは、化粧品メーカーのラッシュや、ロレアル・アジア、世界自然保護基金などの企業や団体が提携した。
「アーティストやレーベル、企業の方から、オンライン、あるいは実際のイベントを通して、私たちにアプローチしてきます。ドイツと香港の支部をつくったときも、『設立したい』との連絡をもらったんです」。今後、日本や米国にも支部をおきたいとルーベンスは話す(日本でもやりたいというみなさん、連絡をくださいとのこと。ヒープスにメールをもらうのでも大丈夫、繋ぎます)。
開催都市にはそれぞれパーティーにも特徴がある。たとえば「テルアビブの参加者は、ディープなベースサウンドをもった巨大なサウンドシステムを好みます。なので、サブウーファー(超低音域のみを再生するスピーカー)を取りいれるように。パリでは、小さな規模のイベントが好まれます」。
2016年には、太陽光で稼働するウェブラジオ番組「Radio3S」も開局。ライブストリーミングなどを24時間おこなう。
DJとレイバー、自然の力、そしてサウンドシステムが手を繋ぐ「唯一無二」な関係性。「私たちのシステムは、自然と文化に貢献する道具です。地球の資源を搾取するのではなく、みんなが発するエネルギーで稼働し、母なる地球を祝福する。新しいカルチャーを作っているとさえ思います」。
また創立者セドリックは、「電力削減を“快楽”な瞬間にしたいと考えています」。一時期は、発電すると振動するセックストイを自転車発電機に仕掛けようとしたこともあるとか。「エコロジカルな考えが、快楽と愛とセックスと結びつく。これが未来です」
今年には独自のレーベルも開設。過去20年のあいだに彼らのパーティーでプレイしてきたアーティストたちのコンピレーションアルバムを制作中。
1枚売れるごとに、アマゾンの熱帯雨林に木が1本植えられる。
“社会的なエネルギー”こそ、原動力
再生可能エネルギーでフェスティバルをおこなうアイデアや事例は、世界で増えてきている。フェスやパーティーがエココンシャスになり、再生可能エネルギーで稼働していくのを見るのはうれしいと前置きしたうえで、一つ気をつけなければいけないことがあるという。それは、生成した電力を蓄えておくバッテリーが、有害廃棄物となるということ。大きなステージであればあるほど、使用済みバッテリーの環境への悪影響が懸念される、とルーベンス。「ポルトガルで開催される大型フェス、ブーム・フェスティバルには、環境エネルギー関連会社と提携することをアドバイスしました」。
未来のエコロジカルなフェスの手本となるように、ソーラーレイブフェスでは、自然のエネルギーと人のエネルギー、そして、環境を真剣に思うエネルギーを最大限に掛け合わせる。「エコロジーへの関心と参加、これらが融合されたいわば“社会的なエネルギー”が原動力になっているんです」
Interview with Cédric Carles and Rubens Ben of Solar Sound System
All images via Solar Sound System
Eyecatch Graphic by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine