「走るために生きる。与え合うために走る」ベトナム山岳地帯を走り抜けるバイク集団のチャリティロード〈2000キロを越えて届ける愛と物資〉

ホーチミン郊外の、活動基地へ。取材のあとは「ベトナムらしく、最後はメンバーとの飲み会になりました」(ライター談)。
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ベトナムの険しい山道を、オールドベスパの集団が走り抜ける。翼の生えたヘルメットを被るドクロがトレードマークのバイクチーム、スローガンは〈Live to Ride, Ride to Share.(走るために、生きる。与え合うために、走る)〉。
「Psychotramps 13(サイコトランプス・サーティーン)」、ツーリング姿はさながら「ヘルズ・エンジェルス・ミーツ・さらば青春の光」。しかし彼らは、己の満足のためだけには走らない。貧困エリアの子どもたちに本や文具、衣服やおもちゃなどを届けるために、走り屋独自のやり方を貫く慈善事業団体でもあるのだ。

Live to Ride, Ride to Share。ロックなアティチュードと善を積んで走行中

 メンバーは全員バイカー、ロック好きでタトゥーの入った強面たち。「Psychotramps 13(サイコトランプス・サーティーン)」は、2013年、ベトナムの貧しい子どもたちを支援する目的で結成されたベトナムのチャリティ団体だ。
 オリジナルTシャツなどのアパレル商品販売、チャリティオークション、ベトナムのメジャーシーンで活躍する有名ロックバンドが出演する動員数5,000人以上のロックフェス「ROCK’N’SHARE(ロックンシェア)」など活動の幅は広い。フェスの開催であげた収益は、すべて子どもたちへ。

 そして、物資の寄付方法に、走り屋の腕を鳴らす。本や文具、衣服やおもちゃなどの物資を積んで、カスタムした60〜70年代のオールドベスパを自ら運転し、キャンプをしながら険しい山道をツーリング。寄付金や支援物資を自分たちの手で、ベトナム貧困地域の学校へ走り、子どもたちのもとへ届けるのだ。

 そんなイカつくてハートのでかい集団の先頭を走る男が、リーダーのチャン・チュン・リン氏。口元には、まるでサルバドール・ダリのように、両端の毛先がピンと跳ねた口髭が蓄えられている。今回HEAPSでは、ベトナム南部最大の商都・ホーチミン市街から少し離れた郊外にあるチームの秘密基地を訪問し、リン氏に取材をこぎつけることに。大きなガレージを改装したオープンエアーの空間にはカフェ、ヘルメットショップ、バイクのパーツショップ、バイクのリペアルームが併設され、中心エリアにはパーティスペース。リン氏の好きなものをすべて詰めこんで、彼の人柄をそのまま反映したような空間が広がっていた。


Trần Trung Lĩnh(以下、L):最高のロケーションでしょ? 僕の大好きな場所なんだ。併設されているのは、僕のブラザーが作っているバイクのヘルメットショップだよ。さ、ビールどうぞ!

H:ありがとうございます。ビールで喉を潤しながら、はじめましょうか。

L:これは、チームメンバーが作っているビーフジャーキー。どうぞ!

H:おいしいですね!(本当においしい)では、今度こそ、はじめます(笑)。チームは2013年に13人のメンバーで結成されました。ツーリング中に見かけた子どもたちの姿が、きっかけとなったそうですね。

L:このチームを結成する以前は、よく一人でバイクツーリングに出かけていたんだ。ある日、ただの観光目的でベトナム中部の山道をバイクで走っていたんだけど、道中で子どもたちを見かけて。その子たちは炎天下なのに帽子もかぶらず、太陽に照らされ熱くなった地面の上をサンダルも履かずに歩いていてね。それは明らかに貧困によるものだとわかって。その光景をみて、ふとバイクを止めて考えてしまったんだよ。その夜には、このチャリティグループの結成を考えていた。自分がたのしむためだけにバイクを走らせるのではなく、貧しい子どもたちへの支援にもなるように走らせたい、と。1度きりでなく、継続的な支援を目的に。


リーダーのチャン・チュン・リン氏。

H:そうして、友人を中心に13人のメンバーを集めて結成。

L:僕のようなバイク乗りは、タトゥーをして、大きなバイクに乗って、(ベトナムでは)一般的に貧しさとは縁のないお金持ちと思われている節があるんだけど、貧困の環境におかれている子たちを見かけるたびに心が痛んでいたんだ。僕も3人の子どもの父親だから、道中に見かけた子どもたちのことも他人の子どものように思えないし、彼らに対してなにかをするべきだ、ある種の責任をもつべきだ、そう考えるようになったんだ。それで、より多くの子どもたちを援助するには、グループとして明確な方向性をもって進む仕組みが必要だと思って。

H:オリジナルメンバーは、どんな人たちでした?

L:僕が最も年長で、普段は画家、ペインター、アーティストとして活動しているんだ。最初の13人はもともと仲がいい友だち同士。当時はみんな、20代から30代くらいかな。バイクが好きでロックが好きで、同じ趣味を持った仲間たちで結成したんだよ。

H:13人で結成したから「13」という数字をチーム名に。

L:僕は「13」という数字が大好き。13は不吉な数字とされているけど、他の人の不運な出来事も(ここでは貧しい環境に置かれた子どもたちの状況を指す)、僕たち13人で幸運なものに変えることができる。それを証明したという数字だから。ちなみに、チームのロゴのドクロマーク下にある6つの星は、結成してからの年月を意味している。


H:結成から6年が経過し、メンバーはいまでは40人以上。みんな本職とのかけ持ちですか?

L:普段は、映像作家やデザイナー、建築家、一般的なサラリーマン、バイクのリペアマンなど、さまざまな業界でそれぞれ働いている。職業も年齢もバラバラだけど、僕らにはある共通点があるんだ。それは「アーティスティックで芸術的な心を持っている」「バイクが大好きで、バイクで走り回るのが大好き」ということ。

H:グループでの活動の役割分担は、どのようにしているのでしょう。

L:それぞれのメンバーの特性を見て決めている。たとえば映像を撮影・編集できるメンバーは、チームの宣伝用の映像を作ったり、デザイナーだったらグッズのデザインをしたり、宣伝用の印刷物を作ったり。マーケティングが得意なメンバーはグッズをインターネット販売をしたり、運営するロックフェスの企画とか宣伝も。メンバーそれぞれが役割をもってグループを運営させているんだ。

H:強力なチームワークだ。メンバーになるための条件はありますか?

L:バイクの運転がうまいこと。険しい山道や悪路を走ることもあるから、これは必須条件。志を高く持ってチーム内の仕事に取り組むこと、まっとうな理由もなしにチームの仕事を休むなんてことはしないこと。つまりは“Brotherfood(兄弟愛)”の心を持って、チームのために尽くすことができるか、だね。
あとは、ライフスキルの高さかな。ツーリング中はテントをはって野宿しなければならないから、過酷な環境に耐えられるライフスキルは重要だね。

H:人間的な強さ、生命力と精神力が重要。いまでは続々と増えている新しいメンバー、応募が多いですか? リクルートもする?

L:リクルートしたメンバーもいるし、チームが有名になるにつれて志願する人も多くなった。どちらにしても、新しいメンバーを迎えるときは、みんなで同じ時間をゆっくり共有するようにしている。新メンバーのパーソナリティが僕らにあっているか、強い意志を持っているかどうかを知りたいんだ。晴れてグループへの加入を認められた新メンバーにユニフォームを渡すときは、決まってこう伝える。「このユニフォームを着るからには、サイコトランプス・サーティーンのメンバーと、子どもたちのために責任ある行動をとり、チーム全体のために献身的に行動しなければならない」って。

アメリカとオーストラリアにも1人ずつメンバーがいるんだけど、そのうちの1人とは、僕たちがベトナムをツーリング中に寄ったガソリンステーションでたまたま出会ったんだ。お互い意気投合しちゃって、そのまま僕らのツーリングに合流(笑)。そのままメンバーになった、ということもあったな。


H:バイカーとして、典型的なカルチャーイメージのリンさん、そしてみなさん。時には、やっていることよりも強面な印象が受け取られがちなこともある?

L:ほとんどのメンバーにはタトゥーが入っていて、見た目もイカツい。普通の人からしたら変な服も着ているしね。正直、寄付に訪れた地域の子どもたちも最初はビックリしたようなそぶりを見せる。それはそうだよね、子どもたちは僕らみたいな変わった大人たちを初めて見るんだから。でも、子どもたちの前でも自分たちのタトゥーを隠したりしない。ちょっと困惑させちゃうかもしれないけど。

H:スローガンの「Live to Ride, Ride to Share(走るために生き、与え合うために走る)」。ロックなアティチュードと慈善の精神は、自然に同居しているということですね。

L:見た目はまったく関係ない。大人たちも、「なんてクレイジーなやつらだ!」って思っているかもしれないけど、僕たちがどういう行動をしているのかを知ってもらえば、僕たちの本質を理解してもらえると思っている。一般的にタトゥーが怖いイメージなのであれば、別にそのままで構わないし、僕らは周りを気にせず自分たちが着たい服を着たいし、そんな僕らのエゴもキープし続けるつもり。

H:ところで、ツーリングのバイクは古いベスパで統一されている。

L:初期はメンバーそれぞれ自分のバイクに乗ってツーリングしていた。だけど、なかには排気量の大きなバイクもあって、騒音がすごい。村を訪れるにはうるさすぎるんだ。そこで、チームのバイクを(排気量も少なくうるさくない)古いベスパに統一したんだ。見た目もキュートだし、子どもたちにとっても親近感を持ってもらいやすいかなと思って。


H:古いベスパといえば、イギリスのモッズカルチャーを描いた映画『さらば青春の光』が浮かびます。そういった海外のバイクカルチャーの影響はありますか?

L:いまはインターネットがあるから、そういった海外のバイクカルチャーもよく知っているし、特に日本のバイクカルチャーがとても好きだけど、特に影響は受けていないかな。しいて言うなら、僕の父が青春時代を過ごした60〜70年代のサイゴンの人々が乗っていた、すてきなオールドベスパのノスタルジックな雰囲気から受けた影響が大きいかもしれない。あの懐かしい、古き良きサイゴンの世界観が好きなんだ。

H:“東洋のパリ”と呼ばれた旧サイゴン(現ホーチミン市)の当時の写真や映像を見ると、独特のすてきな雰囲気がありますよね。さて、バイクをオールドベスパに統一する他、チーム内で決まっているルールは?

L:ツーリング中の隊列が決まっている。リーダーの僕が先頭を走り、その後を運転のうまいメンバーが2番、3番手の位置で走る。あとは、運転技術と役割に応じてポジショニングして隊列を組んで走るんだ。ツーリングの様子を記録するためのカメラマンを後ろに乗せることもある。
すべてのメンバーは車間距離を一定に保ち、隊列を乱さないように走らなくてはならない。もし隊列をくずしたりしたら、そのメンバーには罰金が課せられる。その罰金はパーティの酒代になるんだけどね。

H:笑。みなさんが訪れている子どもたちについて、知りたい。ベトナムは驚異的な経済成長*を続けていますが、地方ではまだインフラの未整備や貧富の差が課題として残っている。寄付や支援を必要とするベトナムの子どもたちの現状はどんなものなんだろう。学校には通えているのでしょうか?

L:近年では、山奥の地域でもベトナム政府による学校の建設や施設の整備は確実に進んでいる印象。でも、村に学校ができても、山岳地帯では「子どもは学校に行って学ぶ必要がない」と考えている子どもの親たちが非常に多いんだ。子どもたちには家で働いてほしいと思っている。だから山岳地帯の学校教師たちは、村の家々を回って親たち子どもたちを学校に通わせるよう、説得しつづけているという状況がある。

*ベトナムの実質国内総生産(GDP)は、ここ2、3年で7パーセント前後をキープしている。


H:なるほど。ツーリングルートや支援の内容を決めるにあたって、それら地域がその時に本当に必要としているものを把握する必要がありますよね。そのあたりはどうやって?

L:メンバーに貧困地域の学校で教師として働いている人がいるんだ。彼がこれらの地域の学校や施設をまず調査し、状況を把握して不足している物資や施設を確認する。そのうえで僕らがなにをできるかを計画するんだ。たとえば、学校や施設の水質が良くない場合は水質浄化システムの修繕したり新規で取りつけたり、食べ物が不衛生な状況に置かれている場合は、調理施設の補修をしたりする。

H:徹底していますね。教科書やノート、文具、衣服などの物資の他に、水や食べ物などの供給施設の整備もしている。なおさら入念なプランが必要だ。

L:1回のツーリングの調査と計画で、だいたい4、5ヶ月くらいはかかってしまうかな。地域が必要としている物資や施設は本当に多岐に渡るんだけど、それとは別に、つねに子どもたちの心も満たせればと思っている。だから、主に生活インフラの修繕が目的のツーリングでも、子どもたちのためのおもちゃやコミックブックなどの物資は、欠かさず持っていくようにしているよ。

H:1回のツーリングではどのくらいの距離を走って、年に何回くらいしていますか? 支援物資は、各々のバイクに積んで?

L:大規模なツーリングは1回おこなうと、約1週間程度の旅になる。距離にして約1500キロから2000キロ。現在では1年で2回くらいかな。悪路が多いなかで活動当初より運ぶ物資が増えているから、これは危ないと思って並走して物資を運搬してくれるトラックのチャーターを探したんだ。でも、なかなか見つからなくて。進んで悪路を走ってくれるトラック運転手なんてそうそういない。

H:ですね…。

L:でもね、幸運なことにチームの趣旨に賛同してくれるトラック運転手とようやく出会ったんだ。いまはツーリングのたびに運搬してくれている。運転技術がすばらしくて、そんなところ走れる? という悪路も持ち前のテクニックでなんなく進んでくれる。

H:物理的にもしんどそうな旅ですが、一番の醍醐味はなんですか。

L:やっぱり、訪れた施設や学校の子どもたちの笑顔を直接見ることができる。これに尽きるよ。

H:強面バイカー集団ゆえ、子どもたちに少し怖い印象をあたえてしまうこともある、とのことでした。どのように距離を縮めていく?

L:子どもたちはもともと人なつっこくて、到着した僕らのもとに駆けつけてくれるんだ。最初からあまり大きな距離感はないと思うな。もちろん初対面で少し驚かれたりもするけど、ともに時間を過ごせばすぐに仲良しになる。子どもたちから、歌のプレゼントをもらったりしてね。大人たちも同じ。実物の僕らをみたらすこしびっくりするけれど、一緒に時間を過ごせばすぐに打ち解けるし、好意的に接してくれる。僕らが帰る日には料理を振るまってくれて、送別会まで開いてくれるんだよ。


H:子どもたち、みなさんの訪問をたのしみにしているんですね。これまでに何ヶ所くらいの学校や施設に?

L:6年間で50ヶ所以上の学校や施設を回ったよ。

H:これまで一番よろこばれたものは?

L:浄水システムや調理場の修理や設置は長期的に見て大切なんだけれど、子どもたち自身はすぐにはその変化に気づかない。彼らにとってもっとわかりやすいもの、たとえば(児童養護施設などの)寝室を改修したり、図書室を整備したときには、よろこんでくれたね。あとは、やっぱり、都市部の子どもたちなら簡単に手に入れているようなキャンディやおもちゃ、コミックブック。子どもの好奇心は、都市部だろうと山岳地帯だろうと変わらない。とてもよろこんでくれるんだ。

H:印象に残っている一期一会なエピソードはありますか?

L:あるツーリングのときのこと。学校に向かっている途中、大雨にふられちゃって。あらかじめ到着時間を伝えていたけど、到着がかなり大幅に遅れてしまった。それにもかかわらず子どもたちは、僕たちをずっと待ってくれていて。遅れて到着した僕らに、子どもたちが自分たちの家庭で収穫したサトウキビとかジャガイモをプレゼントしてくれたんだよ。

H:それは感慨無量だ。メンバー同士での “チャリティロードの思い出”は?

L:ツーリング中のエピソードはたくさんあるけど、一番笑えたのがこれ。チームの広報全般や印刷物デザイン、宣伝用ムービーを担当しているメンバーがいるんだ。その日も大きなカメラ機材を抱えながらツーリングの様子を撮影していた。歩道からツーリングの様子を撮影していたんだけど、うっかり全員がその撮影のことを忘れてしまっていて、機材を抱えた彼を置き去りにしてしまったたんだ。
メンバーの一人が「あ! おいてきちゃった!」と気づいて引き返すと、彼は歩道の縁石に大量の機材とともにぽつねんと腰掛けていたらしくて。
彼は怒る様子もなくそのまま迎えのバイクに乗って合流したんだけど、体の大きな彼が縁石に一人っきりで腰掛けて迎えを待つ様子がとてもおかしくて、いまでもみんなの大切なエピソードの一つ。

H:引き返せる距離でよかったです(笑)。リンさんたちは自らを“Happy Trader(ハッピー・トレーダー、幸せ取引人)”と呼んでいる。子どもと“幸せ”を交換しているということですね。

L:いつもメンバーにこう言うんだ。「僕たちは世界で最も収益性の高い“Happy Trader”だ」と。僕たちは子どもたちに、お金で買うことのできる支援物資を贈る。そのお返しに、子どもたちは僕たちに、物資の金銭的な価値以上の幸福感や感謝の気持ちを返してくれるから。

H:だから、give(与える)ではなく、与え合う(to share)なのか。

L:それに、僕たちと子どもたちには精神的な共通点があると思っていて。それはお互い、とてもワイルドにたくましく生きているという部分。山で暮らして自然に囲まれ生活している子どもたちも、悪路をバイクで駆けぬける僕たちも、非常にワイルドでたくましく人生を切り拓いていけると思っている。それが僕たちと子どもたちとの共通点だね。

H:子どもたちとhappyを交換するための活動。このツーリングの活動部分を支える重要な収益源も自分たちでおこなっているのがみなさんのすごいところです。それが、ホーチミン市を中心にさまざまな都市で開催しているロックフェス「ロックンシェア」。

L:最初は、帽子やTシャツなどのグッズの売り上げのみで、活動資金を補ってきたんだ。そのやり方を2年ほど続けてみたんだけど、収益性が本当に悪いうえに、時間がかかる。短期間で、大きな資金をつくることのできるものを模索したときに考えついたのが、「ロックフェス」の開催だった。僕の友人にはベトナムトップクラスのロックバンドのメンバーもいるし、なにしろ僕自身もロックを演奏するプレイヤーなんだ。なぜそれまでロックフェスの開催を思いつかなかったのか! という感じだったよ。

H:専門分野ですね。フェスが成長し続けているのもすごいです。いまではベトナム最大規模のロックフェスに。

L:初回の2016年の開催は数百人ほどの動員だったけど、諦めずに改善を続けて、2019年には5,000人以上を動員するフェスに成長させた。出演するバンドからもファンからも大切にされている、ベトナムの最大規模のロックフェスになった。

H:僕も、2019年の夏にホアルースタジアム(ホーチミン市内)で開催されたフェスに参加しましたが、すごい熱気でした。出演バンドはすべてベトナムのロックバンドでしたが、どのようにバンドを選定しているのでしょう。

L:もちろん僕らの目的に賛同してくれる友だちバンドも出演するけど、バンド側自ら出演を希望して連絡してくることも多い。選定するときにフォーカスするのは、2つの条件。1つめはバンドのスキル。有能なバンドであること。2つめはフェスの目的に賛同してくれること。つまりノーギャラで参加できるのか、という点。出演バンドの選定はとても大切にしている。なにしろフェスの成功を左右する重大な要素だからね。

H:フェスの企画・運営も、バイカーみんな一丸となって?

L:フェスに関する仕事を、企画・制作・SNSマーケティングなどに部門わけして、メンバーの強みに応じてメンバーにアサインする。メンバーが部門リーダーとなって、さらにそこに数百人のボランティアが参加して運営していくんだ。
フェスの目的はもちろん寄付のための資金調達なんだけど、もう一つ大切な目的がある。それは「チームメンバー全員で純粋にロックをたのしむ」こと。悲しいことに、僕たちがこのフェスを開催するまでは、ベトナムでは大規模なスタジアム級ロックコンサートはあまり開催されなくなっていた。僕らは全員ベトナムのロックシーンが盛りあがることを望んでいるし、純粋な気持ちでこのフェスをたのしんでいる。なにしろ僕らは全員がロックファンだからね。

H:フェス参戦者も、音楽をたのしむ人も入れば、チャリティに貢献したいと思う人どちらもいるですか?

L:多くのお客さんは、「フェスを通してサイコトランプス・サーティーンの慈善活動に参加したい」「ロックフェスをたのしみたい」という両方の気持ちを持っていると思う。僕たちオーガナイザーや出演バンドは一切ギャラを受けとらず、チケットの収益はすべて子どもたちのために、というフェスの目的を理解し賛同してくれていて。お客さんから「チケット代が安すぎる、もっと貢献したいからチケット代は高くてもいいよ」という意見もあるほどなんだ(前売りは、200,000ベトナムドン。日本円で約1,000円)。それからね、フェスの最後に「ゴミをそのままにせずに拾って帰ってね」とアナウンスするんだけど、ほとんどのキッズはみんなゴミ拾いをしてから帰ってくれるよ。

H:ベトナムのキッズは、みなさんチームが取り組んでいるような社会問題に対しても関心が高いんでしょうか?

L:社会問題に対する意識は非常に高いと思う。個人単位でも僕らのようなチームでも、貧困に直面する子どもたちや地域に対して助けの手を差し伸べるようなやさしさが、北から南まで社会全体に根づいている国なんだと感じる。



H:次回の開催は、2020年9月にホーチミン市で予定しているとのこと(2020年3月取材の時点)。次はどんなフェスになりそうですか?

L:チームも結成7年目を迎えるので、いままで以上にバラエティに富んだ出演者をブッキングする予定だよ。いままでの出演者はメインストリーム寄りのロックバンドが多かったんだけど、次回はヘビメタ系、ラップ系、インディーズシーンで活躍するバンドまで、さまざまなジャンルを組みあわせる。フェスのタイトルを“第2章(Chapter 2)”と名づけたんだけど、まさに「ロックンシェア」の新しい章になると思うな。海外バンドを招聘して、さらに規模を拡大させたい。個人的に日本のカルチャーやバンドが大好きだから、日本のバンドもぜひ呼んでみたいよ!

H:ロックなアチュードを持つバイカーチームとして、一種のアウトサイダー的なスタイルで慈善事業をおこなっているサイコトランプス・サーティン。今後のマイルストーンを教えてください。

L:まだ僕たちの支援が届いていない地域やベトナムの隅から隅まで可能な限りツーリングに行って、チャリティを継続すること。他人を助ける、ということは自分自身を助けることを意味する。毎日の積み重ねで誰かに対して善行をすると、その善行はいつか必ず自分の元に戻ってくると信じているんだ。

Interview with Trần Trung Lĩnh of Psychotramps 13





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All Official Photos via Psychotramps 13
All Interview Photos by Dat Tran
Text by Kento Nakatoki
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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