藻と地元職人の伝統技術で誕生〈汚水をキレイにするタイル〉。深刻なインドではじまる、地域主導の「汚水問題解決」

イチョウの葉っぱのような緑のタイル。ここに汚水を流すと、そこをツラツラ流れるだけで、その水はきれいに浄化されるという。
Share
Tweet

「藻(も)」。海底でゆらゆら揺れるユルいアイツをあなどるなかれ。バイオ燃料やエイジングケアコスメにも化けるとして近年その能力が大注目だが、「汚水問題」解決にも一役買う模様。世界の汚水問題を浄化してくれる“タイル”に変身するという。

80パーセント汚染のインド水問題、藻のタイルが解決?

 少し前の話になるが、3月22日は「世界水の日」だった。キレイで安全な水を使えることの重要性について考えようと、国連が定めた日。その背景には、世界の約8億4000万人がきれいで安全な飲料水へアクセスできていないという問題がある。

 とくにインドの汚染水問題は深刻だ。人口約13億人のこの国では、下水整備が進んでいないことから、汚水が池や川などに直に流入、約80パーセントの地表水*が汚染されている恐れがあるという。病原菌や化学物質がウヨウヨする水が人々の口に入ることも珍しくなく、汚染水が原因で毎年約20万人が死亡
 なかでも水質汚染が顕著なのが、ヒンドゥー教徒が聖なる川としてあがめるガンジス川だ。家庭から流される生活排水やゴミ、工業廃水などで水は汚され、基準値に対し5~13倍の大腸菌が検出されるという異常事態。もう、沐浴どころの話ではない。問題解決のため、2015年、インドではモディ首相がガンジス川浄化プロジェクトを公言。30億ドル(約3200億円)をかけ、18年はじめまでにガンジス川の水質を改善し、4億人に飲料水を提供すると推進していたが、達成できなかったようだ。蛇口をひねるだけで飲み水が出るという生活の裏には、大掛かりな設備投資や予算、国ぐるみでの注力があってのことだとわかるだろう。

*河川、湖沼、貯水池などの地表に存在する水。

 しかし、この概念を覆すかのような画期的な代替案を生み出したのが、ロンドン大学のデザイナーとエンジニアのチーム。汚水をろ過し浄水にしてくれる「藻でできたタイル」を開発した。

陶器の都市で、地元の伝統技術と素材で職人たちと製造


ブルックリンのデザイン研究所「A / D / O」主催、都市での水のアクセス代替案を募るコンペ「ウォーター・フューチャーズ」で、
35ヵ国から集まった2,000を超えるプロジェクトのなかからファイナリストとして選出された。

 これが噂の、藻でできたタイル「Indus(インダス)」だ。イチョウの葉のようなデザインで、タイルの表面は、藻類を含んだゼリー状のハイドロゲルでコーティングされている。生物の持つ分解能力を利用して汚染浄化をはかる「バイオレメディエーション」という科学的プロセスを使用。このタイルを、工場などの壁にペタリと貼り、工場の屋上に貯留された廃水タンクから汚水を流す。すると、タイルの溝を通過した汚水の有害物質が、藻の膜に引っかかり分解され、ろ過されるという仕組みだ。つまり、壁にタイルを貼り、そこを汚染がツラツラと通過するだけで、水がキレイになる。

 藻の微生物がもつ化学物質の分解能力を利用し、自然の力だけで汚染浄化を図る。実験では、人体にとって有害なカドミウム(イタイイタイ病の原因となった汚染物質)の濃度を、45分以内に10倍下げることに成功した。

Indus – Water Futures Design Challenge, A/D/O from Shneel Malik on Vimeo.

 現在は、プロトタイプ開発の初期段階。この開発には、インドの職人も一役買っている。陶器の都市として有名なクルジャで、地元の陶器職人たちと協同して、伝統技術と地元産の粘土を用いて製造した。30センチ×30センチのタイルを1枚つくるのにかかる費用は、5ドルから7ドル(約540〜760円)。タイルの型に粘土を詰めて製造するため、作業効率もグッドだ。今後、大量生産をする際には生産コストも削減できると開発チームは推測している。

 インドの汚水問題のために開発されたインダスだが、「さまざまの地域や大陸でも適応できると考えています。たとえば、砂利、ラテライト、石、さらには廃棄材料を素材として(藻のタイルを)作ることもできますね」。


 汚水問題を抱える他の地域でも、その土地の素材と技術をつかって応用できる。海に大量に浮かぶ「藻」と、地域由来の「素材」、現地の「技術」と「市民の手」を使って、水質浄化タイルを大量生産。国家予算をかけての排水システム構築や浄水施設建設といった莫大な時間と資金がかかる計画よりも先に、地域主導で水の浄化に向け動く。藻の豊かな繁殖力と人間の手で、きれいな水を自力で流す蛇口がひらきはじめている。

—————
Image credits: Bio-ID, University College London, UK & A/D/O, New York.
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

安息日のブランチも、同性愛への考えも各々の価値観。ユダヤ教女性2人組がインスタから発信する、現代のユダヤ教の本質

※(取材・執筆は2020年夏となります。当時コロナ禍以降、社会の根本的な価値観が変わりゆく予感のなかで、HEAPS編集部では宗教の現在地についての探究を進めていました) ユダヤ教には「ラビ」と呼ばれる指導者がいる。律法(…

「自分を僧侶だと名乗ったことはない。ただ僧侶たちと一緒に暮らした」米ミュージシャン・ヒンドゥー教徒の神秘な道

※(取材・執筆は2020年夏となります。当時コロナ禍以降、社会の根本的な価値観が変わりゆく予感のなかで、HEAPS編集部では宗教の現在地についての探究を進めていました) 国内のみならず世界中でもツアーをおこない、スポティ…

「礼拝は“義務”ではなく“神と会話できる機会”」インドネシアから独に渡ったムスリム、異国の地で再確認した神への愛

世界のムスリム人口は約18億人。イスラム教といえば中東のイメージが強いが、実はムスリム(イスラム教信者)が人口の過半数を占める世界最大の国は、インドネシアだ。さまざまな宗教が入り混じるなか、イスラム教を信仰する国民は約8…
All articles loaded
No more articles to load