ポートランド発、パパによるパパのための“専業主夫”の店。「俺たちらしい上質な“主夫生活”」を実現

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「この店がなかったら私たちの結婚生活は続いてなかったわ!」。そうありがたがられる店がポートランドにある。店の名前は「Seahorses PDX(シーホーシーズ)」。シーホースとはタツノオトシゴのことで、オスがお腹の中で赤ちゃんを育て出産する生き物。

そのシーホースがシンボルのここは、「専業主夫」の店。主夫による、主夫と子どもとその家族を幸せにするジャッジメントフリーの新しいコミュニティスペースだ。

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オムツを持ち歩く、男のためのバッグが売れている?

 オーナーのDon Hudson(ドン・ハドソン)。4人の子供の父親で、4年半の専業主夫経験あり。創業は2015年、当時は「怪しい店扱いされたこともあった」というが、いまではポートランドの「ベスト・キッズ・ショップ」にも選ばれ、遠方から人が足を運ぶほどの人気店だ。

 ブレストフィーディング(母乳育児)用のブラの代わりに、ここには、パパとお揃いで着れるカーハートのキッズウエアが置いてある。中でも売れ筋は、バラエティに富んだダイパーバッグ。イカついタトゥーが入った男の腕にも合うカモフラージュ柄のバッグや、トート型よりメッセンジャーバッグを好む人のためには機能性バッチリな「TIMBUK2(ティンバックツー)」、また、最近イクメン界で話題の、広げるとオムツ替えスペースができる効率性とファッション性を兼ね備えたリュック型のバッグ「The Paperclip(ザ・ペーパークリップ)」など。
 ドン曰く「たかがバッグ、されどバッグ」。奥さんから借りました風のダイパーバッグではなく、「自分で選んだ自分に合ったバッグを持つことが、主夫としての自信につながったりするんです」

他人の褒め言葉に傷つく。「俺たちは、この子の育て親だ!」

 子育ての世界やマーケットは、米国でも女性中心に築かれてきた。「女性にとってベストな子育てグッズが、男性にとっても使いやすいとは限らないというのを身を以て経験してきました」とドン。彼自身の、自分にとっての「あったらよかったな」をカタチにしたのが同店だという。

Seahorses - Don Hudson in Store

 ドンは現在、2歳、3歳(今春4歳)、6歳、25歳、2男2女の子供の父親だ。専業主夫になることを決めたのは二人目の子を授かった時。「その頃、妻が婦人科腫瘍医の研修を終えて、年収が僕の2倍になったんだ。当時、僕はというと、エレベーターの設置・修理工。家族を養うためにやっていたけれど、一歩間違えれば命を失いかねないとても危険な仕事でね。妻と話し合った結果、ベビーシッターを雇うコストも考えると、共働きより僕が仕事を辞めて主夫になるのが最良の選択ではないか、ということになったんだ」。また、ドンの「誰かに預けるより、自分が子育てに参加したい」という願望にもかなっていた。
 
 日々、我が子の成長に寄り添える幸せを嚙みしめ、子育てのやりがいと手応えを感じていた一方で、一歩外に出るとそれらは「挫かれることが多かった」。

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 日中、子供を連れて買い物をしていると、よく「今日は奥さんからお使いでも頼まれたんですか?」「奥さんのためにベビーシッターなんて感心だわ」と声をかけられた。毎日子どもにご飯をつくって食べさせて、オムツを替えているのは僕なのに、「奥さんのお使い? ベビーシッター? 褒め言葉なのかもしれないが、屈辱的だった。僕が女性だったら、誰も何もそんなことは言わないだろう。一人前の主夫として認められていない気がした」と振り返る。 
 そんな外出時の苦い経験から、徐々にドンは、余計なことを言われずに気軽に子供服やおもちゃが選べるショップや溜まり溜まった不満や不安を語りやすいコミュニティ、「ちょっと俺、子どものオムツを替えてくる」と言っても誰も妙な反応をしない「居心地のよい子育て環境を、夢みるようになった」。こうして、「Seahorses(シーホーシーズ)は生まれたんだよ」。

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「パパ会」でママも子どももハッピー

「Seahorses(シーホーシーズ)」には、子どもを遊ばせられるプレイスペースやカフェスペースを併設。子育てを頑張る親を労うために、コーヒーは無料で提供している。
 定期的に開催しているワークショップも大好評だ。とりわけ人気なのは、月イチで開催している子育てに関するカウンセラーを招いての「パパ会」と「赤ちゃんとのコミュニケーション講座」。ママたちが近所の公園で知り合うように、パパたちはここで知り合いコミュニティを築いている。
 とはいえ、女人禁制な雰囲気はない。子育てを頑張る旦那やパートナーへのプレゼントをここで買う人も多く、また「この店がなかったら私たちの結婚生活は続いてなかったわ!」と、働く女性からのサポートも厚い。
 住みたい街全米No.1に選ばれてきたポートランドは、トップダウン ではなくボトムアップで市民が街づくりを語り、その中心を担ってきたことで知られる。欲しいものがないなら作ってしまえ!なD.I.Y.精神が根づく「エコで、リベラルで、自分らしさを追求できる街」。同店からは、そんなポートランドらしさがにじむ。サードウェーブコーヒーやモノづくりの話に比べるとやや「フォトジェニックさ」に欠ける所帯染みた話かもしれないが、これもポートランドらしい「上質な暮らし」のなのではないかと思う。

とあるウェブサービスで、誰でもシェフになれる。週末の「シェフ男子」急増中。

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Photos Via
Text by Chiyo Yamauchi

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