愛称“フィリー”。ペンシルベニア州の州都「フィラデルフィア」のことだ。あのだだっ広い米国内で人口第5位を誇る街。でありながら、ニューヨークやロサンゼルスに比べ影が薄い。ぶっちゃけ、フィリーと聞いて先に浮かぶのはスーパーで普通に売っている“フィラデルフィアクリームチーズ”だし、筆者の住むニューヨークから車で1時間半ほどの距離にも関わらず「中西部の方だっけ?」なんてバカな勘違いをきめたこともある。“すごく気になる都市”ではなかった。
そんなことをほざいていると「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」とひと蹴り入れてきそうなのが生まれてこのかたフィリー住まい、作家で編集者のケイティ。外の人からは「あんまりピンとこない」と言われがちな地元を本気でレペゼン、自身の“フィリー愛”を叙情的に綴ったジン『BONER 4EVER』をリリース。タイトルの由来は、フィリー在住なら誰でも知っている(逆にフィリー在住でないとまったくわからない)街の有名なグラフィティだそう。Boner(ボナー)と4ever(フォーエバー)という二人のアーティストの別々のタギングからなり、くっつけて読めば「Boner 4 ever(ボナー・フォーエバー、傑作は永遠に)」。
生粋のフィリーっ子の作者がジンを綴ったのは、2年前のこと。「夫婦でフィリー生活をスタート。はじめてこの街に住む旦那目線で、改めてフィリーを見つめ直した」。街の探索で出会ったローカル民(インディーフィルムフェスティバルを主催するピンク髪のパンクおじさん)とのやりとりやドライブ中での1コマなど、ジンに並ぶのは変哲もないフィリーに広がるただの日常だ。そこには、フィリーといえばな「フィリーチーズステーキ」も筆者の好きなアメリカ最古のビール「イングリング」、映画『ロッキー』でスタローンが駆けあがる階段“ロッキーステップ”もない。生まれてこのかたフィリーに身を置く作者が見つけた、いつもの街の魅力だけが散りばめられている。
ここでやっぱり聞いておきたい。地元っ子だけが知ってるおすすめスポット。「ライブに行くってなったら、ローカルに根ざした映画館兼ライブハウスのPhilaMOCA(フィラモカ)。その昔、ここは霊廟(れいびょう、死者を祀る施設)でもあったの。ちなみに昨年日本のパンクバンドをそこで見たわ。昔ながらの建物が美しい植民地時代のエリア、あとフィリーっ子が大好きなプレッツェルの名を冠したプレッツェルパークも外せないわね」
昨年、筆者は日帰りでフィリーに足を運んでみた。オフィスビルが立ち並び交通機関も充実、と大都市然とするなか、DIYミュージックシーンに植民地時代の名残が残る昔ながらの街並みなど、新旧が混同した歴史的にも文化的にも素晴らしい街だった。フィリーは「私が死ぬまで愛す街」とケイティさん。“すごく気になる都市ではない”との無礼な発言、失礼しました。
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All images via Katie Haegele
Text by Shimpei Nakagawa, editorial assistant: Tomomi Inoue
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine