隠居生活から舞い戻る「シルバーヘアの起業家たち」資金力も武器にスタートアップ合戦に堂々参戦中

Share
Tweet

2年前に公開されて話題になった『マイ・インターン』という映画。若き女性CEOのファッションサイト会社に、ロバート・デニーロ演じる70歳のおじいちゃんがシニアインターンとしてやって来た…、というハートフルストーリーらしいが(未見)。“シニアがインターン”という部分に、新しさを感じた人が多いはず。しかし近年、映画の世界ではなく現実に、インターンよりずっとずっと上のポジションに自ら挑戦するシニアたちが増加中だという。彼らは、「シニア・スタートアップ起業家」だ。

shutterstock_436164259

リタイア後、第二のキャリアを目指す「シニア起業家」たち

 スタートアップの起業家と聞いて、シェアオフィスに棲息していそうな黒縁メガネのテックサビーくんや、仕事もプライベートも充実なインスタのフェミニスト&バリキャリさんを思い浮かべるかもしれない。だがここ最近、スタートアップの起業家に目立ってきているのはシルバーヘアー、らしい。

 英国際金融グループBarclays(バークレイズ)の調べによると、英国内で中小企業を経営する65歳以上の数は10年前に比べ、現在140パーセント増し。また55歳以上が経営する会社は、2015年度の英国経済に70億ポンド(約1兆円)貢献したという。さらに自営業従事者のおよそ72パーセントが50歳以上。アントレプレナー(entrepreneur、起業家)を文字ってて“olderpreneur(オールダープレナー)”なる造語さえ現れた。

 3、40年、心身を仕事に打ち込んできたシニアたち。退職後の先に広がるのは悠々自適な快適ライフ…のはずが「もういっちょ、仕事やってみまっか」。数十年の勤労が残した貯蓄やこれから入ってくる年金、とミレニアルズにはない資金力もある。

3
Clem Onojeghuo

子どもを育てあげ54歳で「雑誌創刊」60歳、隠居生活から再びメディア業界へ

 シニアたちのスタートアップは、分野もアートやヘルスケア、教育、不動産などさまざま。近頃は、マリファナビジネスに着手する年配起業家が急増と話題にもなっているが。実際に“リタイア知らず”のシニアたちがはじめたスタートアップをみてみよう。

・5児を育て上げたスーパーママ社長(54)、ビューティー雑誌創刊
ビューティーブランドを立ち上げ、現役時代は美容業界の第一線を走ってきた。子どもを育て上げ、後は有閑マダム生活…ではなく、なんと雑誌の編集長に就任。ビューティー雑誌を発刊し、メディアを通した美容・健康の啓蒙活動に忙しい。

・元ジャーナリストのテックサビー(60代)、メディアコンサルで第二の業界人生
ジャーナリストとしてのキャリアを終え隠居生活をはじめていたが、地元の地方自治体からメディアコンサルティングの仕事を依頼されたのをきっかけに、再びメディア業界人の血が騒いだ。いまではメディアコンサルとして“テックサビー”な部分を活かしつつ、第二のキャリアに勤しむ。

・成功の鍵は前職からの貯蓄。ユニーク旅行会社で儲かるおじさん(62)
60歳になるおじさん二人にあったのは画期的なアイデアと“資金”。“世界各地のローカルツアーガイドと旅行客をマッチさせるウェブトラベルサービスを、2,500万円ほどの開業資金からスタート。2016年には世界中で4万2000のツアーを成立させたという。

・元女教授(56)、サルサバンドのマネージャーへと劇的ビフォーアフター
元大学教授の女性が退職金ではじめたのは、キューバサルサバンドのマネージャー業。リタイア後にサルサを習う、ではなく、興味のあったサルサでビジネスをはじめてしまった。

 そのほかにも、ビジネス初着手がスマホアプリビジネス、というおじさん(58)や54歳で富裕層向け旅行会社を立ち上げたおばさん、とあげればキリがないのでこのへんで…。30年以上の人事経験からビジネスコーチに転職なんて成功例もあった。

「ミレニアルズに関係ない話」でもない

1
Photo by Jeff Sheldon

 初老にさしかかってから立ち上げるスタートアップ。一見するとミレニアルズたちにとって「私たちにあんまり関係ないじゃん」かもしれないが、それが考えようによっては関係あるんだな。

 たとえばの話、ミレニアルズとシニアのスタートアップ共同経営。ミレニアルズがお腹にいた頃から(あるいはこの世に生まれていない頃から)シニアが培ってきた現場経験と豊富な知識と、ミレニアルズたちの卓越したテックスキルにヴィジュアルセンスなどいまどきの感性を掛け算したら…そのビジネスチャンスは広がりそうだ。アイデアはあっても資金力のないミレニアルズも多いし、資金とアイデアはあっても実働はちょっと、というシニアもいるだろう。

2
Photo by Dan Dimmock

 現に、日本でも伝統工芸技術をもつ年配の熟練職人と若者のコラボ(たとえば、漆塗りコーヒータンブラー伊勢型紙の技術を泊まりながら学べるゲストハウス)は各地で起きはじめているし、医療・介護分野でのロボットやアプリ、高齢者のためのオンラインショッピングサイトなどシニア向けサービスを提供するミレニアル起業家のスタートアップも増えてきた。高齢者のニーズや声を取り入れるため、シニア当人がアドバイザーとして事業に関わることもできる。反対に、アナログなシニア起業家にミレニアルズがテックアドバイザーやSNSマーケターとして加わることも可能だ。ミレニアル起業家による“シニア対象起業ワークショップ”やシニア起業家に対する“ミレニアルエンジェル投資家”も現れたりしてもおかしくない。

「年齢なんてただの数字でしょ」を有言実行するシニア・ビジネスピープル。シェアオフィスやカフェでパソコンを並べ、25歳と65歳がビジネスアイデアを語り合っているなんて光景も珍しいことでなくなっていくのかも。

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load