「妊娠しようとがんばること—それは、ときに複雑で、ストレスフルで、想像していたよりロマンチックなものではありません。私たちは、その現実を理解しています。だから、女性たちがたどる妊娠までの行程を支援したいのです」
妊娠に励む女性たちへ、必要なものをまとめて毎月届けるサブスクリプションサービスのスタートアップ「Natalist(ナタリスト)」が登場した。この“女性”には、さまざまな女性たちが含まれている。LGBTQカップルや、独身のまま妊娠を希望する選択的シングルマザーたち。現代のライフスタイルにおけるさまざまな女性に向けて、妊活のフェミテックも絶え間なく進化中だ。
「妊活に必要なものを一箱にまとめて、毎月届けます」
朝活、就活、婚活など、〇〇活が現代人のライフスタイルに取り込まれている。妊娠・出産を実現するために、妊娠についての知識を身につけ、体調管理をおこない、出産を見据えた人生設計をする「妊活」も、現代女性がおこなう活動の一つ。
しかし、妊活にはもれなくストレスというものがついてくる。「本当に子どもを授かることができるのか」という先が見えない不安や、義務化するセックスへのプレッシャー、不妊となればそれに伴う検査や治療などの経済的な負担。日本では、約90パーセントの女性が「妊活中にストレスを感じたことがある」と回答したり(2014年)、英国でのあるアンケートによると、困難な妊活を経験した女性の52パーセントが、「自分に欠陥があり、女性としての自信を失った」と回答。台湾でのある調査では、不妊に悩む40パーセントの調査対象者が、鬱や不安症を患っていると診断されたという結果もある。
「妊活中、つねに“赤ちゃん”のイメージが脳裏にはりついていて」と話すのは、自身も妊活でストレスを感じていた一人であり、女性関連のヘルススタートアップを複数手がけてきたハレ・テッコ氏。妊娠検査薬など妊活プロダクトのパッケージにある赤ちゃんのビジュアルイメージや、ベビーブルー、ベビーピンクの色合いに、精神的に追いつめられた経験についても触れている。そのストレスフルな妊活女性を救おうと、昨年、妊活応援キットのサブスクリプションサービス「Natalist(ナタリスト)」をスタートした。婦人科医監修のもと、妊娠検査薬や排卵検査薬、妊婦用ビタミン剤、「はじめての妊娠」についてのハンドブックや子育てプランブックなどの教育本を詰めたボックスを、妊活期から出産前の時期まで毎月届ける(いつでもキャンセル可能)。
妊活にはなにが必要? どこで買えばいいの? どのプロダクトが安全なの? といった妊活ビギナーが抱える疑問を一気に解消してくれるこのボックス。ビジュアルも、“妊娠”・“不妊”・“赤ちゃん”などのキーワードも連想させないような、ニュートラルな淡いカラーにシンプルなグラフィックが特徴的だ。妊活女性の不安やプレッシャーを煽ってしまうこともある赤ちゃんのイメージは無くし、現代女性のライフスタイルに自然と溶け込むような見た目となっている。
LGBTQカップル、選択的シングルマザーも。“妊娠”はさまざまな形で
妊活に励むのは男女のヘテロカップルだけではない。LGBTQのカップルや、仕事や生活に忙しく、結婚やパートナーなしで独身のまま子どもをつくりたい“選択的シングルマザー”もいる。近年では、テキサス発のスタートアップ「モジーベイビー」が、LGBTQカップルや選択的シングルマザーを含めた女性たちを対象にシリンジ法*を用いた「自宅での人工受精キット」を提供。ヘテロ女性だけでない、さまざまな母親の形を支援する動きは活発になっているといえる。
*マスターベーションによって採取された精液を注射器(シリンジ)に入れて、膣内に注入する方法。
ナタリストもLGBTQカップルや、シングルマザーにも向けたスタートアップの一つ。妊活応援ボックスのアイテムの一つ、子育てプランブックには、ヘテロカップルにくわえ「LGBTQ+カップル」版と「独身女性」版を用意。インスタグラムでは、ナタリストの“インクルーシブさ”が一目瞭然。LGBTQカップルが寄り添う写真や、男女平等の日には“ジェンダー平等”を祝福するポスト、また選択的シングルマザーとして活動するアクティビスト女性の啓蒙ポストでフィードが賑やかだ。
ビジュアルは現代のライフスタイルに溶け込む自然体で、定期購買という現代人の買い物の仕方にも寄り添ったサービスに。そして、多様なジェンダーカップルや、自らの意志でシングルマザーとなる女性の存在も見逃さない。ナタリストは、ジェンダーを自由に行き来する現代カップルの形や、現代女性のライフチョイスに対する価値観を尊重し、現代に生きる“すべての女性”の妊活をサポートしている。
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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine