3Dプリントで〈カスタマイズ薬〉0.2錠でいい薬・1.8錠欲しい薬たちを調合。“わたしの服用量”をカプセル剤1つに

「患者は千差万別です。なのに、なぜみんな同じ薬を飲んでいるのですか?」次なる3Dプリントは「一人ひとりにあわせたパーソナライズのカプセル剤」だ。
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「3Dプリント」と「パーソナライズ」。テクノロジー社会と現代の価値観を汲む、21世紀を表すキーワードだ。3Dプリンターで建てられる火星の家に、 アディダスの3Dプリントスニーカー。個々の好みやライフスタイルにあわせたカスタマイズサービスは湯水のごとくあふれ、旅からスーツ、ペットフード、女性のヘルスケアまでパーソナライズ。

そんな時代を表す二大キーワードが一つにつまったプロダクトが、また一つ米国で登場した。それは「3Dプリントの薬」。個々の患者に必要な薬と量が1つのカプセルに集約、3Dプリンターで大量に生成される。

出された薬をちゃんと飲んでいる人の方が少ない?「大人1回2錠・1日3回」の限界

 引き出しの奥から「飲み残しの薬」が出てきた経験、一度や二度はあるだろう。複数の疾患を持ち、さまざまな薬を服用している患者は少なくない。どの薬をいつ飲んだか、その日のうちにどれをあと何回飲めばいいのかを忘れてしまうのは日常茶飯だ。  
  
 3Dプリントの薬の話に入る前に、米国周辺での薬の消費に関してを調べてみると、こんな数字がでている。患者に分配された錠剤の使用率は41パーセントで、患者の86パーセントは、処方されたすべての薬を飲みきっていないことが判明カナダ、2013年)。米国の6割の家庭の引き出しには、飲み残しの薬がある。薬の飲み残しは「もったいない」では済まされないのが怖いところだ。さらに、高齢者の55パーセントは薬の服用ルールを守りきれていない。また、てんかん患者を対象とした調査では、71パーセントの患者が処方された薬を飲み忘れた経験があると回答し、そのうち45パーセントは飲み忘れたあとに発作が起きたという。

 こういった一人ひとりの飲み忘れや飲み残しにる「残薬問題」が年々話題になっているが、薬の副作用問題も深刻化している。毎年、米国の高齢者20万人が薬の副作用が原因で入院。副作用の原因の一つには、市販の医薬の飲み方が間違っていることや適切な量の服用ができていないことが考えられている。
 同じ疾患をもつ患者でも、年齢や性別、体重、病状、生活習慣などによって適切な服用量は異なるため、量産された薬の「大人1回2錠・1日3回」が必ずしもあっているわけではなかった。「市販の薬が50mgと100mgしかなかった場合、医師は1錠か、2錠処方するしかなかった。でも、その患者の正確な、服用量が65mgだったら?」

「一人ひとりの患者は、千差万別です。なのに、なぜみんな同じ薬を飲んでいるのですか?」。そう問いかけたのが、サンフランシスコのスタートアップMultiplyLabs(マルティプライ・ラボス)だ。各患者が1日に必要とする薬を1つのカプセル剤にまとめた、“3Dプリント製カプセル剤”をつくる。「米国の3人に1人の患者は、4つ以上の異なる薬を処方されています。でも、これからは、一度に複数の薬を飲む必要がもうありません。すべての処方薬が詰まったカプセルを1日に1回飲めばいいのです」。

 3Dプリント製カプセル剤がつくられるまでの仕組みを説明しよう。患者は、いつも通りかかりつけの医師の診察を受ける。医師から患者の処方箋を受とった薬局は、マルティプライ・ラボスにそのまま処方箋をデジタルデータとして送付。マルティプライ・ラボスの工場では、送られてきた処方箋のデータ通りにロボットアームが1つのカプセルに処方薬をまとめ、3Dプリンターで複製していく。プリンターは8時間の稼働で、1万錠を生成することが可能。寸分の狂いもなく、複数の患者が必要とする薬を一つのカプセルへと調合する。

「処方箋を受けとってから、2、3分のうちにその患者にパーソナライズされたカプセル剤をつくることができます。まさに、オンデマンドですね」と創立者のフレッド氏。プリントされたカプセルは一つひとつパッケージされ、患者のもとに郵送される。

「向こう5、10年で、すべての処方薬はパーソナライズされたものになるでしょう」

 3Dプリント薬の研究・開発は進んでいる。2015年、米食品医薬品局が世界で初めて、3Dプリント技術を用いて製造した抗てんかん薬を認可。大学機関のなかは、コンピューターのアルゴリズムを駆使し、患者の個人データをもとに薬をカスタマイズ・デザインする技術を共同研究しているものもある。そのなかでも、マルティプライ・ラボスの3Dプリント薬が、現時点で頭一つ抜きんでている理由。それはやはり、3Dプリントされた複数の薬を“たった1つのカプセル”にまとめ、患者が複数の薬を飲む体力的な負担をもおさえている点といえるだろう。

「患者一人ひとりの民族や年齢、体重、性別、ライフスタイルはそれぞれ違いますから。向こう5年、10年で、すべての処方薬はパーソナライズされたものになるでしょう。わたしたちは、次世代の薬の作り手です」。

 江戸時代の庶民は薬が必要になると、薬を配合する成薬店に行き、自分の薬を医師に調合してもらったという。21世紀の“成薬店”は、ロボットアームと3Dプリンターの最先端テクノロジーで、多様な患者一人ひとりのライフスタイルと健康を支えていく。

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All images via MultiplyLabs
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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