「我々は、ユーザーに“ある権利”を取り戻します」
オンラインショッピングで注文しようとしたら、あれ、ここ使ったことあったっけ? 知らぬうちに自分の情報が登録されていた。覚えのないサイトからメールマガジンが山ほど届く。個人がオンライン上に氾濫する各々の個人情報を管理しきれなくなったいま、とあるスタートアップがある代行サービスを開始した。それは、自分の個人情報を持っている企業を把握すること・そして、忘れさせること。
「個人がオンラインでのプライバシーの権利にアクセスしやすくなり、自分たちのデータを管理しやすくするテクノロジーを提供します」
「1人につき400社にデジタルフットプリント。そのうち8割は、使っていないものです」
近年浸透している「デジタルフットプリント」とは、インターネットを利用したさいに残る記録や履歴のこと。まさに、デジタル上に残したフットプリント(足跡)だ。作成したアカウント情報、ソーシャルメディアでのメッセージの投稿、電子メールの送受信、ウェブページの閲覧履歴などが含まれる。このデジタルフットプリントをきちんと把握・管理することへの行動は、まだ浸透していない。
あるリサーチによると、米国人の60パーセント以上が、個人データを収集されない日はないと感じ、80パーセント以上が、会社や政府が個人データを収集していくことに対して無力さを感じている(ピューリサーチセンター、2019年)。企業に吸い取られていく個人データへの危機感は感じるものの、どうしたらいいかわからない現代人は多いよう。そもそも、「どの企業やサイトに自分の情報を登録したか」を把握することすら不可能だと思っていた。
「1人につき、400社ほどに“デジタルフットプリント”を残しています。しかし、その80パーセントはもう使用されていないもの。削除していいものなんです」。いかに多くの不要なサービスにデジタルフットプリントを残しているかを危惧するのは、2019年に英国ロンドンで誕生した「Mine(マイン)」。現代生活につきものの“個人データの流出”を、個々人が自分の意思で食い止める手助けをしてくれるスタートアップだ。
(出典:Mine Official Website)
ミッションは「ユーザーがインターネットからの恩恵を受けつつ、個人データの扱われ方を知り、どうするべきか判断できる規範を作ること」。自身のEメールアカウントから、個人データの流出状況を分析してくれる。わずか数分で、自分がこれまでにどのサイトに個人情報を登録してきたのか、が一覧になって出てくる(すっかり忘れていたものの方が多かった)。
実際の使い方を見てみよう。
1、PCやスマホから、マインのウェブサイトへアクセス。「Get Starterd(スタート)」をクリックし、「どの企業が自分の個人データを持っているか知りたい」を選択。「自分が自分のデータをどれくらいコントロールできていると思うか」を記入する自己評価シートも忘れずに。
2、自分のメールアカウント(グーグルかマイクロソフト)と連携させる。マインが、スキャニングを開始。
3、結果発表。「(銀行口座やクレジットカード情報など)財務データを保持している企業」「ID情報を保持している企業」「自分のオンラインでの行動を把握している企業」「SNSのデータを保持している企業」などのカテゴリーごとに、自分のデータをもっている企業がアイコンで一覧表示される。
4、各企業のアイコンをクリックし、この先も彼らのサービスを「利用する」「利用しない」かを選択。利用しないを選んだ企業には「私のデータを削除してほしい」というリクエストをマイン文面にし、メールでの連絡を代行。
これまで、18万件のデータ回収リクエストを送ってきたという。
「自分のデータは自分に帰属し、コントロールできる」
「自分のデータは自分でコントロールしよう」。近年、欧米ではこの動きが活発だ。欧州では、2016年に「EU一般データ保護規則(以下、GDPR)」が発効。欧州連合のすべての個人に、個人データをコントロールする権利を取りもどすことを目的に、情報保護が強化されるような取り組みがおこなわれている。また、ユーザーがオンラインサービスに各々の個人情報の削除を要求する権利を「忘れられる権利」と呼び、本来は誰もが持っていた当たり前の権利を改めて現代人に思い出させた。
さらに、アップルやフェイスブック、グーグルなどテック大企業の本社があるカリフォルニア州では、今年1月より、消費者プライバシー法令を施行。州民に、どのような個人データが収集、利用、共有、販売されたのかを知り、個人データの削除を要求したり、販売を拒否する権利があたえられた。
「日常的に利用するアプリやオンラインプラットフォームが、どれほど個人のプライバシーに侵入してくるか、気にせずにはいられない時代に突入しています」。マインの創立者でCEOのリンゲル氏は話す。「だからこそ、私たちは、『どの企業が自分の個人データを保持してもいい』か、そして『そのデータがどのように使用されるのか』を個人個人がコントロールできるような方法を提供したいのです。データ所有権の未来をこれから切り拓いていきます」
自分のことは自分で管理する。自分のデータは自分に所有権がある。そんな当たり前のことが、ネット時代に実践されていないことに、はじめて気づく。マインは、そんな“忘れられた意識”を、再度、現代人へと取りもどす手助けをする。
Eye Catch Image by Midori Hongo
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine