移動する若者たちへ、“引越し前提”の家具シリーズ。「組み立て・解体・車で運ぶ」を考えてデザインしたベッド、机、椅子

「“安かったから捨ててもいい”ではなく」運んで使い続ける家具シリーズ。
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もしもベッドや机や椅子が、簡単に組み立て・解体し放題だったら。進学につき、転職につき、あるいは気分転換などなど、さまざまな理由で人は引越しをする。現代の若者たちは、親世代と比べてより多くの引越しをするといわれている(引越し業者を使わずに、車など自力で)。身軽に動ける“引越し盛り”の若者のためにデザインされた家具一式がおもしろい。組み立て解体が何度でもでき、車のトランクに収まるようにデザインされている。簡単に解体して運べ、また簡単に組み立てられるこの利点、引越し以外でも役に立ちそうだ。

繰り返す「引越し」。1往復で、車で運べる家具を

 定住しない若者に向けた”引越し前提”の家具シリーズがドイツ・ハンブルク発の「Kulturkonfekt(クルターコンフェクト)」だ。ドイツ・ハンブルクを拠点とするデザイナーのアイリーン・クリューガーが、“移動する若者”に向けて「安くても長く使える」を軸に考案したもの。

 ドイツの若手デザイナーによる若者向けの家具ということで、同国の背景を見てみると、都市部の家賃高騰により引越しする人の数は毎年増加傾向にある。なかでも18歳から29歳に特に多いという。学生ローンなどの借金返済により一軒家の購入が難しかったり、転職率が高かったりなどの事情が、若者の度重なる引越しに関係しているというのは国を問わずにいわれている話(米国では近年、若者は2年に1度は引越すという調べがある)。



Image via Eileen Krüger

 近年の引越し増加において近年問題となっているのが、「低価格の家具の使い捨て」だ。購入の手軽さといえば北欧家具メーカー「IKEA(イケア)」だが、同社の最高サステナビリティ責任者は「消費者は“低価格の商品=使い捨て”の認識を持っている」と話しており、「家具下取り・還元サービス」を開始して積極的にこの使い捨て問題解決に取り組んでいる(下取りの92パーセントを再販など結果を出している)。 
 ここにもう一つのアプローチ、「じゃあ、最初から“引越し前提”の家具があってもいいですよね」というのが、今回の家具シリーズだ。簡単に解体して車に積むことができるため、何度移動しようとも使う意思があればずっと連れ立って引越しができる。「“安かったから捨ててもいい”ではなく、“長く使える家具”として、考案しました」と、クルターコンフェクトの考案者アイリーン氏。プロダクトのコンセプトが評価されて、今年3月には持続可能な製品を賞する「ザ・グリーン・プロダクト・アワード2020」に選出されている。

 考案したのは、机、椅子、ベッドフレーム、ハンガーラック(カスタマイズ可能)の4種類。これらはすべて組み立て式で、解体すればすべてが一度にステーションワゴン(70×100cm)のトランクにすっぽり収まるよう設計されている。一度で運べ、往復は不要だ。



@studioeileenkrueger

 組み立てに工具も必要なく、パイプ同士をスポッとはめ込みその上に木製の板を乗せるだけ。説明書不要の手軽さなので、必要ないと思えばサクッと解体し収納することで部屋を広く使える。

 組み立て・解体・持ち運びが簡単となれば、引越し以外の場面でも重宝されそうだ。たとえば病院でベッドが不足した際や、災害時の避難所などにも一度に多くを運べ、また撤去も簡単。組み立てと解体が何度でもでき、コンパクトにして一度で多く運べるこの家具は、さまざまな場面での使い道がありそうだ。



@studioeileenkrueger

 家具の紹介はここまでだが、最後に「引越しにまつわるとびきりの二人」を紹介したい。一人は、クルターコンフェクトが生まれたドイツより。『エリーゼのために』で有名な作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。もう一人は日本から、『冨嶽三十六景』で有名な絵師の葛飾北斎。なんと彼ら、生涯でそれぞれ79回、93回、人生を通して引越しを繰り返してきた引越し魔。北斎に関しては、描いた絵が気に入らなければそのまま床にポイポイ捨てていたため、足の踏場がなくなれば引越しを繰り返していたそうな(もっとすごい引越し魔を知っていたら、ぜひ教えて欲しい)。

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Text by Ayano Mori, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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