「ちょっと高くても環境にいいもの」とは異なる。9000円のカミソリ、ラグジュアリーなリサイクル日用品から考えたこと

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

エコなプロダクトを選ぶ。そして、選ぶ人を選ぶエコなプロダクトも、少なくない。「ちょっと高くても地球環境にいいものを選ぶ」と「高いお金を出して地球環境にいいものを選ぶ」は、似て非なるもの。
ファッショナブルでクールで、そしていま、ラグジュアリーへ。地球環境に考慮したケア用品を買える・使えるということはひとつのステータスともなりえ、いまさらにその幅を広げつつある。3000円の歯ブラシ、7000円のヘアブラシを販売するリサイクルプロダクトから「エコを買う」の現在地をみてみたい。

ゼロが一つ多い。“リサイクル”の価格帯、どこまでも

 たとえばインスタグラム上の「#recycle」のタグ付け投稿は1,000万件以上にのぼる。それ以外も含めて、環境保護の「エコ」で「環境にやさしい」に関する投稿は増え続けている。正しい理解を促す教育的なポストもあれば、よりエコなものを消費しようと行動を促すものまで。「自分のことだけでなく、他者にもいいものを」を消費をすることは、社会に属するいち個人としての行動様式の一つ、そんな向きに急速に進む。ゆえ(マーケティング重視も含めて)エコなプロダクトはとにかく増え、地球環境にいいものを選ぶことがクールでファッショナブルなものとなった近年、意識的であること、実際に行動していることは、使う・身に纏うもので示される。それは「ファンです」をTシャツを着て伝えるのと同じだろう。いま、日用品はとても雄弁だ。

「環境配慮」は考慮すべき前提、「リサイクル素材」もデフォルトに。新興メーカーはもとより、大手ブランドもサステナブルな素材を積極的に使用する。今回取り上げるロンドン発のスタートアップ、HANDLE(ハンドル)が展開する「リサイクル素材のカミソリ」や「リサイクル素材の歯ブラシ」も、特に目新しいものではない。が、驚くことは別にある。それは「価格」だ。ゼロが1つ多い。


消費者は、美容製品が入っていた空のプラスチック容器をHANDLEが提供する専用のリサイクル袋に詰め、パートナー企業に郵送するか、
もしくは近くの提携サロンに設置してある専用のリサイクルボックスに入れる。

「使用済みの美容製品の容器は、ゴミではなく再利用できる原材料だ」をモットーに掲げるHANDLEは、シャンプーやボディローションなどの美容製品が入っていたプラスチックの空容器を回収しリサイクル、カミソリや手鏡、ヘアブラシなどパーソナルケア製品への「ハンドル部分(柄の部分)」の素材として生まれかわらせる。美容業界で発生した廃プラスチックをリサイクルし、再び美容プロダクトへ。「美容業界のなかでプラスチックが循環する仕組み」をつくろうとする取り組みは、確かに新しく興味深い。そして同時にこうも思う。「これは、すごく小さな輪の中で循環するのでは?」。歯ブラシ、20ポンド(約3,000円)。ヘアブラシ、45ポンド(約7,000円)。T字カミソリ、60ポンド(約9,300円、刃を交換し繰り返し利用可)。れっきとした高級品だ。

「ブランドとパッケージは高級感があり、かつサステイナビリティに重点をおいたものでなければなりませんでした」と創設者は話している。ここでブランディングとビジュアルアイデンティティを手掛けるのは、ロンドンの有名クリエイティブスタジオ「IYA Studio(アイユーオールスタジオ)」。シンプルで洗練されたデザインを得意としているIYA Studioは、これまでに人気アウトドアブランド「Gramicci」のブランドブックや、北欧の雑貨ストア「HAY」のカタログデザイン、 ロンドンのキッズウェアブランド「Wynken」の ブランディングなどを手がけてた実力派。ここまで端的にしていいかはわからないが、つまりはいままでにない高級なリサイクル品をつくりました、ということだ。

 興味深いのは、『生産プロセスが環境配慮であること』が高級品が高級品たる理由の一つである、といえること。HANDLEがたんに「実力派スタジオにかっこいい歯ブラシと剃刀の持ち手を作ってもらいました」ではとりたてて話題にならなかったと思う。ここでの1番の説得性は「美容製品から生まれる廃棄品のプラスチックを使っていて(しかもそれは初の取り組みで)」「その廃棄品をスタイリッシュに仕上げた」こと。環境にいいものにはお金を出します、の、ちょっと出すとめっちゃ出すって、結構違うと思う。



ラグジュアリーの枠にも重なりゆくリサイクル

 近年のほかのリサイクル品をみても、新品よりもリサイクルであることが「高い」の理由になってはいた。たとえば、岸に流れつくビーチサンダルを集め粉砕したものを材料とした1,300円ほどのビーチサンダルや、海洋プラスチックゴミを減らすために作られた1,000円ほどの竹歯ブラシなど、その価格には特殊な生産工程や小ロットゆえの工程、チャリティなどの寄付などが反映されることも多い。それを「自分はそこにお金を出せるから、環境に配慮した消費をしたい」人にとって、納得のできる値段だと思う。かつ、リサイクルのものによっては使い捨てでなく長く使うことによって、サステナブルにも経済的にも貢献することができる。HANDLEの価格帯は、ここをぽんと越えてきた。素晴らしいデザイナーによる(かつ環境配慮な)なにか1点モノ、というわけでもなく、日用品で、だ。

 リサイクル由来のものを使うことは、環境に配慮していることが伝わり、モノによっては経済的な余裕やその人のフィランソロピーをも伝える。日用品は、環境視点とともにどこまで雄弁になっていくのだろうか。

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All Images via HANDLE
Text by HEAPS and Ayumi Sugiura
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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