「有名人」「セレブリティ」の代表格といったら、映画雑誌に並ぶレオナルド・ディカプリオに、アンジェリーナ・ジョリー。MTVで歌い踊るブリトニー・スピアーズであり、学校の教室で話題になるバック・ストリート・ボーイズ…だった。
いまや、SNS全盛期に育った「Z世代」にとっての“有名人”は、ユーチューバーにインスタグラマー、動画アプリのインフルエンサーだ。「自分にとっての“フェイマス(有名人)”」をもつ彼らのアクセスが集中する、〈次世代のスター名鑑〉がある。
TikTokスターに、ユーチューバー。ネットセレブ情報を網羅“Z世代版ウィキペディア”
テレビや雑誌に出ずとも、SNSなどにて人気を博すネットセレブが続々と登場する時代になった。いままでは、本屋に並ぶゴシップ誌の表紙を飾るハリウッドセレブや、CMに出演するTVスターなど、エンタメ社会が選んだタレントが“有名人”。しかし、カルチャーを消費するチャンネルが、テレビや映画、雑誌を飛びこえ無限に広がる現代の“有名人”には、名前や顔を見て「誰もがわかる」「必ずウィキペディアに載っている」が通用しない。特に2000年から10年のあいだに生まれたデジタルネイティブ「Z世代」にとっての“有名人”の幅はだいぶ広くなったように思う。“いまの自分にとっての有名人”を持つのが、Z世代だ。
そのZ世代に向けたセレブ情報サイトが、2012年にロサンゼルスで誕生した「Famous Birthdays(フェイマス・バースデーズ)」だ。15秒動画SNS「TikTok(ティックトック)」の有名人やユーチューバー、ブログ型SNS「Tumblr(タンブラー)」の人気者、ネットフリックス番組の出演者といったネットセレブを中心に、15万人のプロフィールを掲載。サイト創設者であるエヴァンは、このサイトを「Z世代版ウィキペディア」と呼ぶ。
(出典:Famous Birthdays Official Website)
中身をクリックしてみよう。トップページには「今日が誕生日のセレブ」が並んでいるのだが、まぁ「誰これ」状態。Hannah Rylee(ハナ・リー、17歳)はティックトック・スターらしく、Jade Pettyjohn(ジェイド・ペティジョン、19歳)は、TVドラマ女優。Nick Mara(ニック・マーラ、22歳)はボーイズグループのダンサー…。それに、チャンネル登録者数1,040万人、ポジティブキャラと大きなリボンがトレードマークのユーチューバー、ジョジョ・シワ(16歳)や、“ネクスト・ジャスティン・ビーバー”との呼び声高い歌手のジェイコブ・サートリウス(17歳)。7歳のころからどんなラップもカバーするとユーチューブで人気のラッパー、マティー・ビー(16歳)もいる。Z世代のラップ好き、ユーチューバー好きは「あ〜、知ってる!」。でも、一般的には「聞いたことない…」な、新世代のスターばかりだ。
Z世代にとってフェイマス・バースデーズは“バイブル”だそうで、ある14歳曰く「最近の重要な人たちについて、知りたいことをすべて教えてくれる」。サイト内には「人気ランキンング」があり、各セレブのプロフィールにあるブーストボタン(いいね)をクリックすることで、その人気ランキングに貢献できる。「〇〇(自分がファンのインスタグラマーやティックトックのスター)のページにいって、ブーストボタンを押してね!」とツイートするティーンもいるそうだ。また、自分たちのSNSのプロフィールに自身のフェイマス・バースデーズのリンクを貼ったり、自分のプロフィールがサイトにない場合、自ら掲載願いを出すネットセレブもいるのだという。「ウィキペディアに掲載されていなかった彼らにとって、フェイマス・バースデーズに掲載されるのは、うれしいことなんです」。
各プロフィールには、写真と名前、肩書き、誕生日、出生地、星座といった個人情報にくわえ、これまでの経歴や小話、家族構成なども掲載。
キャリアや魅力がわかる1分動画がポストされているのも、きっと動画世代のZたちを意識してのことだ。
『セブンティーン』などのティーン・ゴシップ誌を彷彿とさせる、ベタにポップなレイアウトやデザインも一周回って、なんかいい。
(出典:Famous Birthdays Official Website)
みんな知ってる“有名人”と、Z世代が知りたい“有名人”って、違くない?
実はサイトローンチ当初、サイトが掲載していたのはマイケル・ジャクソンやトム・ハンクス、リアーナといった、いわゆる“世間が決めたセレブリティ”のみだった。ローンチから1年ほど経ったあるとき、エバン氏はあることに気づいたという。それは「サイト内検索で、聞いたことのない名前ばかりが調べられていたんです。最初、スパムかと思いました」。リサーチしてみると、これらの知らない名前の持ち主は、ユーチューブやタンブラーのネットセレブであると判明。「業界が思う“有名人”と、実際に人気を博している“有名人”とのあいだには、大きなギャップがあることに気づきました」。以来、検索エンジンに打ちこまれる名前を元にデータを集め、誰を取りあげるかをキュレーション。ユーザーの傾向を的確に把握し、メディアや業界に定義された「社会的知名度の高い有名人」ではなく、「ユーザーが本当に知りたい有名人」は誰かを見極めている。
さらに特筆すべきは「情報の正確さ」だ。現在22人の正社員と12人のフリーランサーが、事実の正確性を追求するためセレブ本人への確認を徹底している(大物セレブと比べ、ネットセレブはリーチしやすいとのこと)。掲載される情報は、信頼できるかわからない他サイトの引用でも、ウィキペディアのように誰でも自由に修正できるものでもない。ゆえに、その信頼度は高い。
さらに、掲載内容を常に最新に保つため、ニュースやファンから毎日届く情報など1,000を超える情報源に目を通し、「パートナーと破局した」や「起業した」などの最新ニュースを絶えず更新していくという。その情報の透明性と信頼度の高さは、Z世代のみならず大企業のマーケティングチームやエンタメ業界の役員からも重宝されるほど。月間のユニーク訪問者数は2,000万人。これはウェブ版でのエンタメ週刊誌『エンターテインメント・ウィークリー』の100万人増し、ヴォーグの姉妹誌『ティーンヴォーグ』の4倍に相当するという。現在は、掲載セレブのオリジナル動画コンテンツを制作にも注力。スペイン語版サイトも開設と、成長スピードがめまぐるしい。
メディアが決めた有名人は「自分にとっては有名人じゃない」。それより「昨日TikTokで知ったあの子が、わたしの有名人」。フェイマス・バースデーズは「ティーンの、それぞれが本当に知りたいのは誰か」というオーガニックな視点を通して、主体性をもった“Z世代特有のフェイマス”を発信している。
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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine