動物のファースーツを着る。性別も性格も自分で決める。TikTokの〈ファーリー〉、新たなインフルエンスと悩める10代との交流

「ゲイでもバイセクシャルでもトランスでも関係なし。だって、みんな動物のファースーツ着ちゃうからさ」
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世代のあいだで爆発的な人気を博す、ショートムービー・プラットフォーム「TikTok(ティックトック)」。音楽にあわせた15秒の動画がシェアできるという手軽さがヒットし、これまでに17億ダウンロードを記録するZ世代のマストアプリとなった(米国では、現在9月、ティックトックのダウンロードを禁じる大統領令を巡って議論がおこっている)。ここに、新たなインフルエンサーの存在が出現している。
Z世代のフォロワーとの交流を深めているその存在とは、「ファーリー」。それぞれが動物のファースーツをすっぽり被った、ちょっと毛深いコミュニティにいる。

青いケモノのインフルエンサーが話す、ティックトック、Z世代との交流

 ファーリー。その聞きなれない英語は「毛皮で覆われてフサフサした」という意味。一般的には、擬人化された動物のキャラクターになりきり、着ぐるみに身を包むサブカルチャーのことで、ファーリー愛好家のコミュニティのことを「ファーリー・ファンダム」という。日本では、獣(けもの)を文字って「ケモナー」の愛称でおなじみだ。

 1980年代にファーリーというコンセプトが誕生してから、同人誌系の出版物やコンベンション(集会)を通じて、全米に拡大している存在だ。90年代から00年代にはオンラインでのコミュニティも出現し、しっかりと根をはっている。ファーリー・ファンダム、たびたび、“オタク”というレッテルを貼られ、変態、フェティシズムとも結びつけられ好奇の目にさらされるなど、世間から偏見の対象となるコミュニティであるのもまた事実。米人気犯罪ドラマ『CSI:科学捜査班』では、ファーリーの登場する殺人事件のエピソード(2003年)があり、その存在が変態的に描写され、これがファーリーへのステレオタイプを助長したとの意見も多い。

 もちろんファーリーたちは、普段から“ファースーツ”(着ぐるみ)を着て、“ファーソナ”(キャラ。ペルソナのもじり)を演じているわけではない。なかばコスプレのように、大きなコンベンション(集会)に参加し、堂々と着ぐるみで他の獣たちと戯れたり、ファーリーが集まるサイトでオンライン上で交流をしたりと活発だ。が、その活動場所はつねにアンダーグラウンドであった。


 と、ここで、昨年の冬、ローリングストーン誌がこんな見出しの記事を出した。「なぜ多くのZ世代がファーリーになっているのか?」。参加者平均年齢が25歳から29歳だった世界最大級のファーリーのコンベンションに、昨年は19歳以下の多くのZ世代が参加するようになったという。またZ世代が半数近くのユーザーを占めるティックトックに、多くのファーリーインフルエンサーが登場しているというのだ。彼らは曲にあわせてダンスしたり、ファーリー同士ダンスコンペをおこなったり、ミニコントをしたり。Z世代は、ティックトックで初めてファーリーコミュニティのことを知り、ファーリーインフルエンサーたちは、Z世代の新米ファーリーたちが抱える質問や悩みに答える。

 フェイスブックでなくインスタグラムでもなく、ティックトックというプラットフォームにて盛り上がる〈Z世代のファーリーたち〉をモフるべく、12万人のフォロワーをもつ現役大学生ファーリーインフルエンサー、Grinsome(グリンサム、21歳)に取材リクエスト。「ファースーツを着たままなら、オーケー!」という条件つきで、着たまま話してもらった。


グリンサム。

G:ファースーツ着てビデオで取材受けるのって、初めて(照)。

H:私もファースーツを着た人を取材するのは初めてです。

G:なんか変な感じがするね。

H:ちょっと、この様子、スクショしていいですか。1、2、3(パシャ)。



H:ファースーツ、よく着るんですか。

G:んー、そのときどきによるかな。毎週2回くらい着るかも。ティックトックの動画を撮るためにね。

H:あとは、ファーリーズのイベントやコンベンションでも?

G:そう、その通り。

H:コンベンションはどれくらいの頻度であるんですか。

G:1年中やっているよ。いまは、もちろん(コロナウイルス感染拡大の影響で)できていないけど、通常なら全米全土でやっているから、どこかしらのイベントには行ける。遠征費用さえあればね! 私はそんなにお金ないけど、1年に1回は行っている。もっと行きたいのが本音。




ファーリーズのコンベンションの様子。

H:ファーリーにはどうして興味を持ったの?

G:小さいころから動物が大好きで、いつも動物ばっかりお絵描きしていた。ある日、動物の写真をグーグルで検索してて、ファースーツの画像を見つけて。「なにこれ!?」って興味を持った。中学生のときね。

でも、ファーリーはかなりニッチなコミュニティだということに気づいて、最初はコミュニティには入らなかった。自分のキャラを作ったり、イラストを描いたりしていただけで。コミュニティに入ったのは、昨年。親友がファーリーだということがわかって「入りなよ〜!!」って。で、「オッケ〜」って感じ。

H:隠れファーリーが近くにいたんですね。いま着ているのは、なんのキャラ? オオカミ?

G:いや、違うよ。これ、当てるの難しいよね。正解は、フェネック(犬のようなキツネのような猫のような動物)。剣歯は自分でつけた。もっとかわいくするために、まゆ毛とまつげもつけてね。

H:このファースーツ、自分で作ったの?

G:これは既製品。ファースーツを持っていなかったころ、コンベンションで見つけて「わ、完璧」と思って買ったんだ。

H:ファーリーには、イヌやネコ、ウマ、ユニコーンなどいろいろな動物がいますが、なぜこのフェニックを?

G:色が好き。個人的にイヌ科の動物が好きで、この子のイヌっぽい見た目がいいなって。

H:名前は?

G:Aozora(アオゾラ)。

H:日本語だ。名前や性格は、自分で設定していくんですね。

G:うん。アオゾラは、いつも陽気で幸せな子。ほかにあと2匹いるんだ。うさぎの耳とタテガミがあるヤモリの雑種、グリン(女)。灰色と白のオオカミは、スリーピー。いつも眠そうで疲れている(笑)。グリンとスリーピーのファースーツは自分で作ったんだ。


アオゾラ。

グリン。

スリーピー。

H:ファースーツって、作るの難しそうですね。

G:デザインの複雑さによるよ。ファースーツには2つのタイプがある。1つは、蹠行(せきこう、踵を含む足の裏全体を使って歩行する)動物。これは、簡単。ズボンみたく直線に脚を用意すればいいから。で、もう1つが趾行(しこう、踵を浮かせた爪先立ちの状態で直立し、歩行する)動物。ひざパッドを入れて脚の形を整えなきゃいけないから、難しいんだ、これが。

H:動物学の域ですね…。それにお裁縫得意じゃないとファーリーになれない。

G:…でも、お母さんが縫うのを手伝ってくれたから。

H:あ、お母さん作なのか。

G:グリンのファースーツは、ほとんどお母さん。自分で考えたデザインをお母さんに教えて、あとはお母さんが縫ってくれた。

H:お母さんの裁縫スキル、高い。ファースーツのデザインは、どこで習ったんですか?

G:ユーチューブだよ。とにかくたくさんのチュートリアルがある。ファーリーコミュニティはものすごくオープンだから、みんなファースーツの作り方を教えてくれる。

H:ファーリー同士、見てくれやキャラがかぶることがあったり。

G:剣歯があるフェニックに最近会ったことがある。違う色だったけど。すごい偶然じゃん! ってね。

H:ライバル視したり?

G:いや、全然そんなことないよ。もっと心配なのは、デザインの盗作。ファーリーコミュニティで、誰かのデザインを盗んで真似するのはNG行為。ロシア在住のあるファーリーが、私の友だちのデザインを真似して、ファースーツにしてしまったことがあって。盗みはどんなコミュニティでもダメだよね、絶対。

H:以前は、アングラ、フェティシズムという根強い負のイメージがあったファーリーですが、いまはファーリーに興味をもつZ世代も増えているとのこと。なぜでしょう?

G:時代とともに、ファーリーコミュニティに対するイメージもだんだん良くなっている。思っているより、ステレオタイプはあまりないよ。ファーリーって、自分に自信のない子に最適なコミュニティなんだ。ファースーツを着ると自信がもてるから。あと子どもって想像力がすごくたくましいでしょ。自分のファーリーをデザインして、キャラを作っていくのがたのしいんだと思う。



H:で、いまZ世代が「ティックトック」を通してファーリーカルチャーを発見している。

G:ティックトックが、入り口になっている模様。ユーチューブやインスタ、ツイッターでなく。いまやキッズがみんなスマホを持っている時代で、どんなアプリでも好きなのをダウンロードできるでしょ。どのソーシャルメディアより、ティックトックが一番ファーリーに関するコンテンツが豊富。

H:なんで、ティックトックなんだろう。

G:ティックトックは、単純にたのしいじゃん? あまりシリアスではないし、動画だってささっと作ったもの。長いメッセージを載せるわけでもなし。踊って、演技して、自分を表現できる。ティックトックは…なんだろう…ファーリーたちにとって、ファースーツを着る“理由”になっているのかも。これがなかったら家で次のコンベンションまでじっと待っているだけになっちゃうし。私も、スーツを買ったときは、部屋に置きっぱ時々それを着て写真を撮るくらいで。なんかもったいない気がして、ティックトックを使ってみようと思った。ティックトックは、若い子たちにとってファーリーについて学ぶのに、とてもいいツール。

ユーチューブは、もっとチュートリアル的なものだし、ツイッターは、フォローしないとお互いの投稿が見えないこともあるから、大人のためのSNSといった感じ。インスタは、私の場合は、アート作品や写真がメイン。

H:グリンサムは、いつティックトックを使いはじめたんですか?

G:昨年の夏。だから、新参者ね。どうしてこんなになった(フォロワーが急増した)のかは、わからない!(笑) 



@the_grinsome

H:いまでは、グリンサムのほかにも、いろんなファーリーインフルエンサーたちがいますね。フォロワー20万人のネコとキツネの合いの子パイクスや、黄色いドラゴンのバーリーなど。動画再生回数が、1万、2万なんてざらですね。このような、ティックトックのファーリーインフルエンサーのシーンってどのようにできていったんでしょうか。

G:いつの時代も、ファーリーのインフルエンサーはいたんだよね。ユーチューブで人気だったマジーラ・ストロベリーとか。ティックトックがまだ無きころは、ユーチューブやデヴィアントアート(アーティストのためのオンラインコミュニティ)、ファーアフィニティ(ファーリー向けイラスト投稿SNSサイト)といったプラットフォームで、ファーリーたちが個人的に連絡をとることができてね。でも、たまたまファーリーカルチャーを知る、っていう機会は少なかったと思う。

H:それか、コンベンションにて実際に憧れファーリーたちに会うとか。

G:そうだね。数年前、スマホがそこまで浸透していなかったとき、若い世代にとって、ネットへのアクセスはいまほど簡単ではなかったこともある。だからファーリーコミュニティがあまり人目につかないものであったかもしれない。そこにきて、ティックトック上にファーリーインフルエンサーたちがごく自然に現れるようになった。ティックトックが開設されたその年にすでに登場していたファーリーもいると思う。ティックトックって、巨大なソーシャルメディアじゃん。だから、昔に比べて、もっと簡単に若者世代がファーリーのことを知ることができて。私もティックトックで、多くのファーリー友だちを作ったし。かっこいいファースーツを作っているファイリン、すばらしいダンサーのハルフィーとか。

H:インフルエンサーになれるファーリーってどんな特徴があるんでしょう? かっこいいルックスだから、とか?

G:ルックスじゃないよ。「ファースーツがかっこいいから好き!」っていうのは、ファーリーコミュニティではご法度。ファースーツだけじゃなくて、内面を見ないと。

H:ファースーツの下からどう内面を…。

G:自分たちのキャラをどうオーディエンスに表現するか。たとえば、ユーチューブでファーリーコミュニティについての紹介をしたり、興味をもっている子たちに対してどれだけ歓迎しているかを示したり。

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H:なるほど、フレンドリーなキャラで人気になったりすると。グリンサムは、どうやってインフルエンサーになったのでしょう。

G:全然インフルエンサーになる予定なんてなかった。でもフォロワーからいろいろな質問が来て、それに答えるようになって。

H:さっき出てきたインフルエンサーのパイクスも、ティックトックのDMで届くほとんどのメッセージが「学校でいじめられている。どうしたらいい?」というようなファーリーたちの悩みだそうですね。グリンサムの動画にもフォロワーから「つらいことがあるとき、グリンサムの動画見るとポジティブになれる」というコメントが。

G:私のところによく送られてくるのは、「自分がファーリーであることを、どうやって親や友だちに打ちあければいい?」という質問。それには、こういうアドバイスをする。「彼らに打ちあけるというよりか、まずは『ファーリーって、どう思う?』みたいに探りをいれる感じで話してみたら」。

H:あと、他にはどんな相談が?

G:「どうやったらファーリーになれるの?」「どうやってファーリーコミュニティに入れるの?」という質問だったり。ファーリーであることをみんなに打ちあけたら、嫌われたとか。ティックトック上で嫌がらせを受けたというファーリーには「ブロックして、無視して、報告して」と伝える。もし学校でいじめに遭ったら、年齢や状況にもよるけど、先生に相談したり、あるいは相手にする価値なんてないという態度で無視して、その場を立ち去る。立ち向かう勇気がなくてもいいのよ、ってアドバイスしている。

H:悩めるファーリー初心者たちに、ファーリー先輩からの助言を。

G:ファーリーのコミュニティを安全なものに保つために、できる限り手助けしてあげている。ファーリーに興味をもったZ世代たちに「ファーリーになりたかったらなってもいいんだよ。他人にとやかく言われる筋合いはないんだから」って。

H:グリンサム自身は、周りのノン・ファーリーにどうやって告白したんですか。

G:私の場合は、初めてファースーツを着たとき、それを撮ってスナップチャットで友だちに送ったんだ。みんな「オーケー、彼女はファーリーにハマっちゃったのね」って感じ。それだけ。いま住んでいる寮のルームメイトはファーリーじゃないけど、私のティックトックをフォローしてくれている。(フォロワー数に)オーマイガー、すごいね! って。おそらく、ほとんどの人はファーリーだと打ちあけられても「まあ、いいんじゃない」という感じだと思う。本当に嫌悪するのは、15パーセントくらいじゃないかな。

H:グリンサムのフォロワーはやっぱりZ世代が多いですか?

G:多いよ。15歳以下の子たちや、本当はティックトックをやっちゃいけない年齢(13歳以下)の子たちも。ほとんどがファーリーか、ファーリーに興味を持っている子。あとは、私のファースーツがかわいいと思ってる子。

@the_grinsome

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♬ Hall of Fame – The Script

H:多くのLGBTQキッズがファーリーに興味あると聞きました。なぜでしょう。

G:ファーリーは、いろんなタイプの人々を受け入れる歓迎的なコミュニティだから。ゲイでもバイセクシャルでもトランスでも関係なし。だって、みんな動物のファースーツ着ちゃうからさ。

H:確かに、ファーソナの性別だって好きに設定できますもんね。

G:私の場合、アオゾラは女の子だけど、スリーピーは男の子だしね。

H:また、メンタルに問題を抱えている子も。

G:ファーリーコミュニティは、本当にフレンドリーだから。いじめを受けた子や、鬱になってしまった子を、インフルエンサーが助けてあげる。

H:特にいまは、コロナウイルスの影響で不安になったりする子も多いのでは?

G:多くの子たちが学校に行かれないから退屈になって、ティックトック利用が増えている。ティックトックではコンテンツの数が重要だから、私もライブストリームをしたりね。ただ、このスーツ、視界があまりクリアじゃなくて、画面にすごく近づかないとみんなのことが見えないんだよね…。

H:ファーリーであるのも大変だ…。

G:あとは、暑さ、ね。

H:いまも暑い?

G:扇風機かけてるよ。このために、きちんと準備した(笑)

H:(笑)でも、あんまり暑さでヒートアップしないうちに、最後の質問を。SNSがZ世代の生活の一部になったいま、さまざまなカルチャーや分野でインフルエンサーがでてきています。そのなかで、ファーリーインフルエンサーがもつ独自の役割のようなものはありますか?

G:いま、世の中はもっとオープンになるべきだと思う。まだまだLGBTQや人種に対して完全に開けきっていない部分があるから。それに対して、どんなタイプの人間も受け入れるファーリーコミュニティは、すごくいいお手本になるんじゃないかってね。

Interview with Grinsome

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All images via Grinsome
Eyecatch Image Graphic by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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