「買うより借りる」を推進する “モノの図書館”こと 「The Library of Things(ザ・ライブラリー・オブ・シングス)」。この「図書館」には、日曜大工の道具から楽器、キャンプ用道具、おもちゃ、ミシン、スポーツ用具まで、様々なモノが揃う。
「ここは、人が集う場所であり、また、人に問いかける場所でもあります。たまにしか使わないモノをあなたはまだ、所有したいですか?」と。
ヒッピー文化とシェアリングエコノミーの間で。
「モノの図書館」というアイデア自体は、それほど目新しいものではない。米国で“最初の”といわれているカリフォルニア州バークレーの「モノの図書館」は1979年に創設されている。
バークレーは、60年代のヒッピー文化の発祥の地。モノの図書館はコミュニティ・アクティビズムが盛んなエリアではじまり、既存の制度や価値観、拝金主義へのアンチテーゼをはらみながら、同じ思想を持った各地のコミュニティへと派生していった経緯がある。
Photosy by David Altaev
ただ、近年の広がりは、そういった思想的な理由というよりも、シェアリング・エコノミーの普及とともに「安くて便利なサービスへの需要が高まった」ことが大きな原動力になっている。その他にもテクノロジーの発達、「ないなら作ってしまえ!」なD.I.Y.的発想の浸透、さらに、シェアすることで二酸化炭素ガスやゴミなどの廃棄物などが減少するという環境へのやさしさも魅力だったり。様々な要素が絡み合いながら、モノの図書館の普及は世界各国で加速度的に進んでいる。
お金を払ったからといって、「お客様」ではありません。
従来の「モノの図書館」の多くは、地域の図書館内に存在していた。本来、本を貸し出すための場所で、モノも貸し出しているというやり方だ。だが、ここ数年は少し形態が異なる。
たとえば、2016年7月に、ロンドンに店を構えた「The Library of Things(ウエスト・ノーウッド地区)」。立ち上げ自体は14年。同地区の図書館の一角で試験的に開始。その後、キックスターターで15,000ポンド(約211万円)を集め、現在のフラッグシップ店を創設。図書館内ではなく、外にコミュニティスペースを作ったことで、より多くの注目を集めることとなった。
「入会費は無料。誰でもメンバーになれます」。会員は、1週間に5アイテムまで借りることができ、貸し出し価格はアイテムによって異なる。「どれだけの人が必要としているかや市場価値によって決まる」そうだ。たとえば、パン焼き器は4ポンド(約570円 1ポンド=142円計算)でほぼ一定しているが、「キャンプ用のテントは、ニーズが高まる夏の方が高い」。
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一方、カナダのトロントにある「Sharing Depot(シェアリング・デポット)」は年会費制。50〜100ドル(約5500〜11,000円)の各コースから選べ、金額に応じて、借りれる期間の長さや追加料金の有無など手にする権利は異なる。しかし、共通してベースにある考えは「年会費を払って会員になるということは、ここにある7,000アイテム(総額150,000ドル以上相当 )の所有者のひとりになることと等しい」。
100ドル払うだけで、150,000ドル(約1650万円)以上相当のモノを使える。それだけ聞くとお得な気がするが、もちろん「所有者」としての責任もともなう。借りたモノを紛失、破損した場合は、代替え品を返す義務がある(適切な使い方をしていたにもかかわらず壊れた場合は除く)。共同体(コミュニティ)重んじる価値観が根底にあり、お金を払って会員になったからといっても、サービスを受けるだけのお客様ではない。
人がモノを買わなくなったら、経済規模の縮小するのでは?
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最近の「モノの図書館」の特徴としてもうひとつ言えるのは、揃えるモノのクオリティの高さ。特に、前述のロンドンの店舗は、地元の人々の寄付品だけでなく、パタゴニアやバーグハウスなど、企業からバックパックなどの寄付品も受けている。
本来、モノを売ってなんぼの企業が、敵にもなりかねない「買うより借りる」を推進するモノの図書館をサポートしている、というのはなかなか面白い。
「目先の利益追求よりも、環境や将来を見据えた考えを持ったフォワード・シンキングなブランドは、私たちの考えに賛同してくれています。今後はもっと、ソニーや日立など電化製品を作るブランドも巻き込んでいけたらと思っています」。
安かろう、悪かろうではダメ。「より多くの人に興味を持ってもらいたいので、貸し出すモノのクオリティにはこだわりたい」。目指すのは、いい物を安く。そうすることで、「一人でも多くの人に『こんな良いモノが、この値段で借りれるのに、所有する必要なんかあるのだろうか?(いや、ない)』と気づいてもらいたい」
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利用できるものを賢く利用して、出費を抑えながら生活の質を高めていける可能性。この点はこれからの時代にフィットしているように思える。しかし一方で、お店に行って、借りて、使ったら期限内に返すという、一昔前のレンタルビデオ屋のような仕組みは、効率性を重視する現代人の生活に合うのか、という疑問もある。期限内に返却するというのは、簡単そうでなかなかハードルが高い。滞納金がとんでもないことになってしまった記憶のある人も少なくないだろう。
(わざわざ)借りに行って、返しに行くことを、利用者が「手間」ではなく、自分で選んだライフスタイルだと感じられるようになればいいのかもしれない。「私は現代の行き過ぎた効率性の追求より、もっと人間らしいペースで環境に優しい生活したい」など。
トロントのメンバーの間では、いつかは「シェアリング・モールなんていうのができたらいいな」という声も。既存のショッピングモールのように、一つの場所に、洋服や家電、おもちゃ、楽器、自転車、手芸用具など、様々なジャンルの店がある。ただ、人はそこでモノを買いにくるのではなく、借りにくるという青写真。
「あの街には、モノの図書館、シェアリング・モールがある=住み良い街という認識が広がれば、その街に人が集まり、活性化する」という意見は、地方再生案にもなりそうだ。モノの図書館は、現代人の生活にどこまで浸透していくのか。今後の広がりに注目していきたい。
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Photos Via The Library of Things
Text by Chiyo Yamauchi