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  • Feb 26, 2017
南米・編む男たち。大きな図体でチクチク「編み物×男子」がもたらす現代社会へのインパクト
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ほわほわの毛糸を絡ませ、せっせと編み針を走らせる。その編む手を想像してみてほしい。皺が刻まれたおばあちゃんの手? それとも子どものために服を作るお母さん?
まさか全員“毛むくじゃらの大きくて武骨な手”、なんて想像できる?

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編み物にハマった男たち

 南米・チリの男たちがいま「編み物ムーブメント」を起こしている。体格のいい髭面のラテン男たちがもふもふの毛糸玉と格闘している姿を想像しただけでなんだかほっこりしてしまうが、彼らの手つきは慣れたもの。

 彼らは、「Hombres Tejedores(オンブレス・テヘドーレス)」。スペイン語で“編む男たち”を意味する、男性限定の編み物集団だ。昨年の夏、首都サンティアゴで結成された。

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「ティーンのころから編み物に興味があって母や姉に教わってたんだ。全然上達しなかったけど。彼らがワークショップを開催していると聞いて、迷わず参加しようと思ったんだ」とは、集会には欠かさず顔を出すという、初期メンバーのRicardo Higuera(リカルド・ヒゲラ)。

 リカルドのような編み物好き男性や編み物ビギナーの男たちが、毎月開催される編み物教室に集まり、お互いに教え合っている。

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「編み物好き=ゲイ」の偏見を変えたい!

「編み物はチリの伝統工芸でとても大事な文化。“女性の作業”として、生活において重要な役割を果たしてきたんだ」

 アンデス山脈の民族織物などが有名であったり、いまでも手工芸で生計を立てている人もいたりとチリでは独自の裁縫・編み物・織物文化が形成、踏襲されている。しかし決まって編み手は、女性だ。

 となると、こんな問題が出てくる。「チリは男性優位社会だから。編み物をする男イコール、フェミニンな男、ひいてはホモセクシャルだとも決めつけられてしまうんだ」
 人目につくところ、例えば公園のベンチで編み物をしていると他の男たちからの冷やかしの対象にもなりかねない。

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 “編み物は女のするもの・編み物好きなんてゲイだ”。「ぼくたちはそんな偏見を変えたくて。一歩一歩、“一針一針”ね」。肩身の狭い思いをしている編み物男子が安心できる場所を提供しながら、社会の凝り固まったジェンダーステレオタイプに対し編み棒で挑む。

 彼らは公園や広場、地元の美術館などパブリックスペースでも編む。昨年6月18日の「世界編み物の日」を機に外に飛び出し、あえて人々が目にするところで“編む男像”を打ち出すようになった。

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クッキーとお茶、雑談で編み編み

 毎月のワークショップは、編み物の経験あるなしに関わらず興味のある人なら誰でも参加できる。しかも、無料なので垣根はうんと低い。

 26歳から42歳まで12人のメンバーが講師となり、誰かの自宅で編み物教室を開いている。デザイナーやジャーナリスト、心理学者、会社員など職業もさまざまな男たちが、クッキーやお茶をお供に雑談しながら、編み編み。現代よりもっとジェンダーステレオタイプに制約されていただろう50代や60代の参加者の姿もある。
 カラフルな毛糸玉に囲まれてポシェットやセーター、マフラー、帽子を。刺繍や織物でもOKだ。

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「編み物に惹かれる理由はみんなそれぞれ。ぼくにとって編み物は“愛情表現”。いつも家族や友だちへのプレゼントを編んでいるからね」とリカルド。

 男たちが昼下がりの広場で円座し黙々と編む。その非日常的な光景に通行人たちは思わず足を止めて観察したり話しかけたり、写真を撮ったりする。やりたいと思った人は誰でも飛び入り参加可能だ。定例の集いに加え、地元の小学生やハイチからの移民コミュニティにも編み物の楽しさを教えている。

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“ジェンダーフレンドリーな社会を編む”

「ぼくたちは、男だって編み物していいじゃん、という編み物男子。そして、それは同時にフェミニストでもあり、LGBTQコミュニティのサポーターでもあるんだ」

 彼の言いたいことはこうだ。マチズモが力を振るう男性優位社会のチリでは、女の仕事は男のそれより下等だと見なされる。つまり、編み物は女の仕事、男の仕事よりレベルが低いものと。男である彼らが編み物をすることは、女性の権利向上や不平等な社会に対し疑問を呈することにもなる、と。「ジェンダーや性的指向に関わらずみんなが平等であるべきだからね」。

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 これまでも女性や子どもへの暴力撲滅の日に催し物をするなど、コミュニティで積極的にフェミニズム運動をしてきた。現在は3月8日の国際女性デーに何かしようと考案中らしい。
 彼らの活動に触発され、ブラジルやウルグアイ、ドイツ、ウクライナの編み物男子からも同じようなグループを作りたいとの声があるという。

「ぼくたちの目的は一つ。新しい社会、より良い社会、お互いを尊重するもっと人に優しい社会を編み出したいんだ」
 編み物男子からはじまり、フェミニスト、アクティビストへ。みんなが望むあるべき社会を目指す彼らに必要だったのは、握りこぶしでも札束でもペンでもギターでもなく、やっぱり大好きな毛糸玉と編み棒だった。

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***Hombres Tejedores***
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All images via Hombres Tejedores
Text by Risa Akita

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