パーティーの話抜きじゃ、世のなりゆきを鮮明には語れない。記念日パーティーやさよならパーティー、あの子の誕生日会のことじゃないよ。選ばれた少人数による勝手な決め事や約束事(政治)によって、シワが寄りまくった“現場”で生きる若者たちの、いろんな思考と感情がないまぜになって化学反応する、クラブ・パーティーカルチャーの話。
70年代の米国、坂を転げ落ちていく財政と足並みそろえた犯罪、社会の鬱憤が集中して悪化した人種差別の時。その中で、逃げ場や自分の居場所を求めた人を誰でも受け入れて、色も性別も一緒くたにして踊っていたディスコがある。
80年代の英国、サッチャー政権が生んだ経済格差の犠牲となった若者たちは、がらんどうの倉庫や納屋、農場でクラブミュージックをかけて一晩中踊り明かした(これが、のちに欧米を中心に広がっていくレイブカルチャーだ)。
いつの時代も、若者たちの想いと主張を、憤りもよろこびもぎゅうっと凝縮させて回っているダンスフロア。2010年代は、とりわけ人種やアイデンティティ、セックスやジェンダーについての議論が巻き起こってきたが、それはもちろんパーティーシーンにも濃い色を落としたわけで。この流れと時を同じくしてワッと出てきたのが、Q(クィア)を中心とするパーティーコレクティブの動き。世界各地のダンスフロアで同時多発的に起こっている。
「“LGBTQフレンドリーのパーティー”って、称してるだけじゃん」と、NYの現在のクラブシーンの実態に対抗するように、ダンスフロアを自分たちで作る20代のコレクティブ「Discakes(ディスケイクス)」を皮切りに、それぞれのコレクティブの紹介から繋げて「世界各地のダンスフロアのいま」に、光をあててみる。はじまります、みんなのダンスフロアのいま。
01. NYC「Discakes(ディスケイクス)」の安全なダンスフロア
「誰にとっても、安全でインクルーシブなスペースを提供します」「私たちのパーティーは、LGBTQフレンドリーです」。ニューヨークのクラブシーンには、さまざまなジェンダーや人種に歓迎的な姿勢を宣言するダンスフロアが数多くある。誰にとっても安全なダンスフロアをつくるべく、セーフスペースポリシーと呼ばれるガイドラインが入り口の壁に貼ってあったり、入場前には運営側からポリシーの説明があったり。しかし蓋を開けてみたら、現状はこんなだ。「運営側が客の安全を守ろうと努力しない」「一貫したポリシーなどなく、現場のスタッフによってその認識がない」「スタッフ自身が客へのハラスメントをおこなう」。もちろん、本気でLGBTQフレンドリーのインクルーシブを目指した場所もあったかもしれない。それでも当事者にとってその多くは、「“アングラなかっこいいパーティー”を装うための一種のマーケティングでしかないと思った」。
同性婚をふくめ、早くからLGBTQの市民権を現実にしてきたニューヨークで、インクルーシブの体現ともいえるそのダンスフロアには、「うわべだけの、なんとなくのインクルーシブ」しか存在していなかったという。身体的ハラスメントや精神的な苦痛を抱えてきたのは、クィアや有色人種(people of color、以下POC)たち。「だから、自分たちのコミュニティにとって安全なダンスフロアを作りたい、って」。
「安全でインクルーシブなダンスフロア」を、大胆さや過激さと実行力をもってアクティビズムとして進めているコレクティブが、ブルックリンを拠点に1年ほど前から活動するラディカル・クィア・パーティーコレクティブ「Discakes(ディスケイクス)」だ。その活動の徹底具合をあげると、「自分たちのパーティーにおける『セーフスペースポリシー』を誰もが閲覧できるようにグーグルドキュメントで共有」だっだり、「人種やジェンダーによって、チケットの値段を変える」だったり。白人ストレートの男性には倍の値段を要求するなど、エクスクルーシブ(排他的)にも捉えられる急進的な取り組みを実行している。これまでの、なんとなくインクルーシブ(で、結局機能していない)に対して、クィアを最優先として“主観的なインクルーシブ”を堂々とすすめている印象だ。
中心となって動いているのが、DJ/アーティストのポーリ・ケイクス(Pauli Cakes)と、DJ・シー・マーリー・マール(DJ She Marley Marl)。10代の頃からパーティーシーンに出入りし、20代前半にしてニューヨーク・クラブシーンのベテランであるディスケイクスの二人に、「ダンスフロアで掲げられたインクルーシブの実情」と、対して彼女たちが作ろうとしている「クィアやマイノリティにとってのインクルーシブなダンスフロア」を聞く。
「これ全部、LGBTQフレンドリーのパーティーで起こったこと」
HEAPS(以下、H):ぼくがディスケイクスのことを知ったのは、一昨年の冬あたりかな。フェイスブックでド派手なビジュアルのパーティーフライヤーを見て興味を持ち、その後サウンドクラウド(ストリーミングサービス)で二人のDJミックスを聴きはじめたのがきっかけでした。今日は時間をとってくれてありがとう! ちょっと興奮してます。
M(DJ She Marley Marl):こちらこそ! 興味を持ってくれてありがとう。
H:まず最初に、ニューヨークのクラブシーン最新事情について。ここ最近、多くのクラブで「私たちは、どのようなバックグラウンドをもつ人にとっても安全でインクルーシブなダンスフロアを提供します」というセーフペースポリシーを目にしますよね。これって、いつごろから起きていることなんだろう?
M:2年くらい前にブルックリンのブシュウィックエリア(若者に人気のエリア)に引っ越して、ナイトライフシーンに入りびたるようになったんだけど、その頃からかな、そういうポリシーをよく目にするようになったのは。
H:その動きが広がっていったのって、どんな経緯だったんだろ。
M:その頃からクィアコミュニティが中心でやってるパーティーがだんだん増えていたかな。そこでは、パーティー参加者、特にクィア、トランス、POCが守られているダンスフロアを作ろうという動きが、ゆっくりだけど確実に増えてきて。「ナイトライフシーンでハラスメントや暴力を経験するような環境があることがおかしい!」という考え方が広がっていったんだよね。これは純粋にすばらしいこと。
H:それが、いろんなクラブシーンに派生していったと。このポリシーが盛んになる前のダンスフロアの様子って?
M:私自身、駆けだしのころはヒップホップのパーティーとかでよくDJしてたんだけど、いっつも男ばっかりの空間で、身の危険を感じることも多かった。
P:私は昔から非日常的なスペースで遊ぶのが好きで、12、13歳くらいのころから、近所の家でやっていたハウスパーティーに行って遊んでたんだけど、同じようにこわいって思うことはあったな。
H:最近では「暴力、ハラスメント、ヘイトスピーチ厳禁」のような貼り紙がパーティー会場のエントランスに見受けられたりします。このポリシーの浸透によって、ダンスフロアは昔よりインクルーシブになってきているといえますか?
M:ポリシーを実践できてるパーティーもあるんだけど、なかには「安全なフロアを提供します!」と宣伝しておきながら、客の安全確保に努めていないパーティーも多く存在する。誰かが髪の毛を触ってきた、みたいな、当事者に自覚や悪意がないような小さなケースから、クィアに対する過激なヘイトスピーチや、誰かの命が危険にさらされるような暴力が起きてしまったケースまで、少なくとも50の被害は知ってる。
H:ポリシーを掲げる=安全なダンスフロア、ではない。こういう“インクルーシブ”を謳っているパーティーに来る人たちって、実際にはどんな人が多いの?
P:ターゲット層も実際にくる客も、ほとんどがストレートの人たち。
M:「クィアパーティーです」って宣伝してたパーティーに行ってみたら、客はみんなゲイの男性ばっかりで。私の胸を鷲掴みしようとしてきた人もいた。
「ゲイの男性が女性の胸を鷲掴みする」という話は僕も驚いた。米国ではLGBTQと呼ばれる人たちの中にもヒエラルキーが存在していて、白人のゲイの成人男性の人々は、セクシュアルマイノリティの中でも比較的“強い”アイデンティティを持つ人たちとされている。ポーリやマーリーがハラスメントを受けたという環境はおそらく、そういった彼らが中心となってコントロールしているスペースの一つだったのかと思う。確かに、他のクィアの人々がハラスメントを受けても問題にならず、それゆえ、ゲイの男性以外のクィアの声が埋もれがちではないか、という声もこれまでにあった。
ポーリとマーリーが作ろうとしているのは、同じ「LGBTQフレンドリー」でも、昔から築かれてきた「ゲイの男性の、彼らのためのシーン」からの逸脱で、あらゆるアイデンティティの人々が自分の居場所と感じられるスペースを、新たな世代として作ろうとしているという印象を受けた。
P:こういう環境で、私たちクィアは“サーカスの動物”のようなもの。「クィア」とか「アンダーグラウンド」っていう言葉を宣伝文句にして、自分たちのパーティーを“イケてて奇抜でアングラなパーティー”に見せたいんだよね。結果、外からニューヨークにやって来る人にとっての「奇抜でアングラなクィアとクールな体験ができる空間」でしかなくなっちゃって。
H:セーフスペースと称して、多様な人々を集める。だけどその実、安全は確保せずにビジネスチャンスのように扱う。なんとも皮肉だ。
P:「クィア、アングラパーティー」と宣伝したいから、私たちクィアのパフォーマーやDJたちが断れないような(高)額のギャラを提示して雇う。でも、もし私たちの身になにか起きたとしても、運営者はまったく気にしないし、対応すらしてくれない。
M:こういうことする人たちは、自分たちのパーティーを「LGBTQフレンドリー」と称して、私たちクィアにお金を渡した時点でクィアコミュニティに貢献した、と勘違いしてる。これって、クィアコミュニティの搾取だと思う。
H:実際にフロアでクィアに対するハラスメントが起きたときって、ベニュー側はどのような対応をしてくれるんでしょう?
M:ハラスメントを受けた私たちクィアが悪者で、客は悪くないってされることもしょっちゅう。騒ぎを起こしたってことで、そのクラブやパーティーからは二度とブッキングされないこともある。
P:ちなみにベニューのスタッフ、セキュリティ、バーテンダーたちがハラスメントしてくることも全然あるんだよ。クィアのアイデンティティをまったく尊重しない行動や言動をしてきたり。
H:あろうことか、セーフスペースポリシーを掲げている運営側が加害者に…。
P:セキュリティに首根っこをつかまれて体をチェックされたりね。マーリーと私がトイレに入っているところを、べニューのスタッフにのぞき見されたこととかもあったし。
H:そういうことが起きたとき、二人はいままでどのような対応をしてきたの?
P:もちろん責任者に文句は言ってきたけど、私たちをうそつき呼ばわりして取り合ってくれない。私たちの話をまったく聞こうともしないし、絶対に責任を取ろうとはしないんだ。
M:ちなみにこれらのこと全部、“LGBTQフレンドリーパーティー”で起きたことだから。
H:セーフスペースポリシーという考え方普及しているのに、なんでそんな問題が起きつづけてると思う?
M:多くのクラブとかコレクティブに「安全なナイトライフシーンを作ろう!」という意思はあるんだけど、緊張感が足りないんだと思う。だからポリシーがしっかり尊重されない。
H:というと?
M:パーティーの運営者やベニューのオーナーたちは、「パーティーをするスペースがある」「みんなにとって安全なスペースだったらいいんじゃない?」みたいな軽いノリでセーフスペースポリシーをうたう。で、そもそも、彼らのほとんどがクィアじゃないし、POCじゃない。わかる? 彼らは当事者じゃないから、私たちクィアやマイノリティが安全のためになにを必要としているかをわかるのって難しいんだと思う。
H:彼らの考える安全と、クィアにとっての安全が違うと。そこに切実に、親身になるのは難しいのか。
M:はっきり言っちゃえば、私たちの安全なんて彼らに直接関係あることじゃないからね。
H:そんな状況に鬱憤がたまり、二人はパーティーコレクティブ/プラットフォーム「ディスケイクス」をはじめます。
M:自分たちのコミュニティにとって安全なダンスフロアを作りたいって思った。あと、私たち自身が大きくインスピレーションを受けている、1980〜2000年代のラディカルなレイブカルチャーの流れを汲みとった、めちゃくちゃイケてるパーティーを作りたいという思いもあった。
H:二人の出会は? 昔からなんか一緒にやってるの?
M:出会いはまだハイスクールにいた頃。私たち、ビジョンとか考え方が似てたから「こんなことやったらたのしいんじゃない?」みたいな話でいつも盛りあがってて。流れで「古着の販売イベントをしよう!」ってなって、やったよね。それが初めて一緒にやったこと。
P:ペイントした古着を二人で売ったの、自分たちのパソコンで音楽かけながら。
H:最高ですね。どこでやったの?
M:当時知ってた、シュガーダディーの家 (笑)
H:ナイス(笑)
P:しかもチェルシー(マンハッタンのアート地区)っていう、みんなが来れるいいエリアだった。
M:ぜーんぶ二人で企画して、大量の古着を売って、アーティストの友だちが作品展示をしたりして。「これやろう!」みたいな軽いノリではじめたことだったのに、けっこうな反響とお金が集まったから、二人して「ヤバっ!スゴっ!」。すごくキュートなエネルギーだった。
H:ディスケイクスがはじまる前の話ですよね。その頃、二人はすでにナイトライフシーンにもいた?
M:私は「ディストリクト」、ポーリは「クラブケイクス」っていうアングラアーティストのコレクティブ/プラットフォームを、すでに別々に運営してた。お互いコラボして、「ディストリクトxクラブケイクス」っていう超キュートなパーティーを何回か開催したんだけど、それがシーンから大きな注目を集めて。その後一緒に住むようになってからは、四六時中お互いが持ってるアイデアを同じ屋根の下でシェアするようになって…。で、「パーティーの名前、クソ長いから、ディスケイクスっていう一つのコレクティブとしてパーティーをやろう!」って、ね。
H:名前の由来がわかって、スッキリ。
M:いまのところはパーティーの開催を中心に活動してるんだけど、でっかいことを言えば、後々はレコードレーベルとか、ラジオとかにまで発展していけばいいなと思ってる。ディスケイクスの方がよっぽどクールだしラディカルだから比べるのは嫌なんだけど、たとえば「ボイラールーム*」のような? アーティストと契約したり、マネジメントしたり、ラジオをやったり、そういうことをやっていきたい。
*世界中から届くDJ・アーティストのパフォーマンスをライブ配信し、アーカイブ化した動画を配信するオンラインミュージックプラットフォーム。
H:あと、すでにいろんなセミナーも開催しているよね?
M:アクティビズムや、アンダーグラウンドアーティストのためのセルフマネジメント術、ウェブサイトのコーディングについてとか、いろんなトピックについてのワークショップとかセミナーもどんどん開催していきたいと思ってる。 私たちがやりたいと思っているのは、ナイトライフシーンに関するリソースや、学ぶ機会を人々に提供すること。
P:ハームリダクション*やナルカントレーニング**みたいな、ナイトライフでどのように自分とまわりの人の安全を確保できるかとかについてもね。 こういうことって本来、学校で教えられるべきだと思うんだけど、現実はそうじゃないから…。パーティーコレクティブとして知られている私たちだけど、すべてポリティカル(社会に変革を起こすよう)な観点からやってる。ディスケイクスは、パーティーポリシーも含めて、パーティーコレクティブ以上の存在なんだ。
*ドラッグを摂取する際に起こりうる悪影響を最小限に抑えること。
**モルヒネやヘロイン系のドラッグでオーバードースを起こした人に、ナロキソンと呼ばれる薬を注射する訓練。
人種やジェンダーで入場料が違う? ディスケイクスが守りたい“インクルーシブ”
H:そう、そのディスケイクスの“パーティーポリシー”についてちょっと質問が。ポリシーはグーグルドキュメント上で共有されていて、誰でも閲覧できるようになっている。これは、どうやってつくったの?
M:いろんなコレクティブがやってることから、学んで、アイデアをもらってきている感じ。セーフスペースポリシーの先駆であるヨーロッパのコレクティブからの影響を受けたり。
H:これをグーグルドキュメントで一般公開するという試みがおもしろいです。修正や改善の提案もコメントで可能にしたり(※現在は閲覧のみになっている)
P:ナイトライフって、普段の生活から抜けだすことができて、ベロベロになって遊べる場所。そんな環境でみんなの安全が確保されているコミュニティを作るためにはね。
ポリシーって、運営側が理解しているだけじゃ意味がないんだよね、パーティーに来ている人みんなに、安全なスペースを作るためのポリシーが共有されていて、それに対してみんなが気配りできるような環境が必要。だから私たちはドキュメントをシェアして、誰でもアクセスできるようにしてるの。
M:それと、こういうポリシーって別に特定の誰かが所有しているものじゃないし、もっと多くのクラブが使うべきだしね。これからも他のコレクティブとミーティングとかもやっていきたいし、違うポリシーでパーティーをやってるようなところがあれば、彼らの提案も受けていきたい。
H:ドキュメント上って、コメントや提案ができるようになってますよね(現在は閲覧のみ)。いままでポリシーに関してどんな意見が出てきましたか?
P:私たちのポリシーには、あらゆる暴力とかハラスメントに対して、“ゼロトラレンス(小さな悪事であろうと例外なく罰するという考え方)”がある。そのポリシーに対して、「じゃあパーティーで他の人に不快な思いをさせて追い出された人たちには、その後なにが起こるの?(また他のパーティーで同じことをするだけじゃない?) ただ締めだすことで問題解決には繋がらないでしょ?」って意見が出てきた。
H:なるほど、問題児をパーティーの外に追いだしたからって、根本的な問題の解決には繋がらないと。
M:過去にトラブルを起こした人たちをパーティーに入れることには抵抗がある。でも、そういう人たちには学ぶチャンスって必要だし、人に不快な思いをさせずにナイトライフをたのしむ方法を見つけてほしい。
H:注目を集めるポリシーの一つが「Pay as you identify(ペイ・アズ・ユア・アイデンティティ)」だと思います。これは買う人のアイデンティティによって、パーティーのチケットの値段が変わるというものですよね。たとえば、クィア、POCだと5ドル。一般は10ドル。ストレート男性だと50ドル。これはどうして?
M:私たちはクィア、トランス(ジェンダー)、POCのためのラディカルなパーティーをやっている。もちろんパーティーは誰に対してもオープンなんだけど、私たちをリスペクトできなくて、払うべきお金を払っていなくて、私たちのスペースに対して気配りできないんだったら、そういう人たちは来るべきじゃない。
P:インクルーシブって、いろんなアイデンティティや性的指向を持った人たちが入りまじれる場所を見つけること。でもここでいうアイデンティティのなかに、白人のストレートの人たちは含まない。
H:はっきり言いますね。
P:私たちのパーティーは、クィア、トランス、ゲイ、POCのためのものだから。それって結局、みんながみんなってわけじゃない。
H:クィアやPOCを優先しているわけだ。たとえば、ストレートの白人男性がいるとして。ディスケイクスや周辺コミュニティがやろうとしてることに心から賛同していて、サポートしたいと思ってる。そのような人が「ディスケイクスのパーティーに行きたい!」と思ったとき、どうすればいいんだろう?
P:50ドルから200ドルまでの「Ally(アライ、LGBTQサポーター)」チケットを買えばいいよ。このお金が私たちのスペースを経済的に支援するのに使われるから。
M:高いお金を払って、私たちのスペースに対して気配りできるなら、たとえあなたが白人でストレートでも、全然パーティーに来てもらってかまわない。
H:うーむ。白人でストレートの人たちがパーティーに来るときには高いお金を払わないとダメ、というポリシーはどういう考え方から来てるんだろう?
P:私たちのスペースは、“彼らのものじゃない”から。これって、私が14丁目(若いお金持ちや名門大学の学生がいるエリア)とかにある白人ばっかのバーに行くようなもので。そういう場所で、私たちは受け入れられないでしょ。
P:白人でストレートの男性たちが私たちのパーティーに来るんだったら、このスペースが彼らのものじゃない、ということをわかっていないとダメだと思うから、高いチケットを提示する。その高いチケット代を払うことで、白人でストレートであるがゆえに得る社会的な特権を認識して、彼らが持っているアドバンテージを、私たちのコミュニティに再配分することができる。
H:当たり前に入って、当たり前の振る舞いをする場所ではない。それを承知で参加してね、という意思表示というか通告のようなものか。
M:パーティーに来る人みんながまわりの人たちにいろんな気配りができないといけないんだけど、白人ストレートの人たちは、このスペースがクィア、トランス、POCのためのスペースだってことを認識する必要がある。クィア、POCに対しての愛と、親切心とリスペクトを持っていないと。
H:白人でストレートの男性がパーティーに行くときは、どのようなエチケットを持っていればいいんでしょう。
M:全然パーティーをたのしんでくれていいんだけど、パフォーマーがステージに上がったときは、ステージに向かって人々を押しのけたりしないで、後ろの方で待つとかね。
P:ダンスフロアでも、前の方に行かないとか、人のアイデンティティに関してコメントや質問をしないとかも、守って欲しいね。
H:個人的な質問なんですけど、僕、ディスケイクスのパーティーにすごく行ってみたくて。僕はアジア人だから有色人種(POC)、男で、ストレート。でもアメリカ人じゃないから、二人が話しているようなアメリカの社会構造からくる利益を享受していない。でも、僕が育ってきた日本でのことを考えると、男で、ストレートだから、社会構造からくる利益は享受してきたと思う。この場合、僕はどのチケットを買えばいいんだろう?
M:どのチケットを買えばいいかって、いろんな人にいつも聞かれるよ。めっちゃ長いメッセージを送ってきて自分のアイデンティティについて語ってくる人とかもいるし。私がいつもみんなに言うのは「自分がこれでいいと思うチケットを買って」。もしどのチケットを買えばいいかわからなくて、50ドルから200ドルまでのアライ(LGBTQサポーター)チケットを買うのは違うなと思うときは、一般チケットを買って。
H:実はずっと気になってたんですよね(笑)。直接聞けてよかった。
M:ここで大事なのは「自分の持っている特権を認識すること」。私たち、誰がどのチケットを買ったかなんて、監視するつもりなんて全然ないよ。あなたは有色人種だけど、自分がもってる特権を少しでも認識しようとしたよね。自分のアイデンティティを一歩下がったところから考えて、自分がどのような立場にいるかを見つめなおすことは、すごく大事だなっていつも思ってる。私自身も、肌のトーンが薄い黒人女性として、なんらかの利益を得てきた。あなたはPOCだから一般チケットを買ってくれればいいんだけど、それでいても自分の立場を考えてくれていることは素晴らしいことだと思う。
H:大事なのは、どんな心構えをもってるかということですね。
P:うん、心構えが一番大事。
M:クィア、POCの人たちだって私のパーティーに入れたくないような、まわりに害をあたえるような人だっているしね。レイブが好きで、いい心構えとエネルギーと愛をもってるなら、私たちのスペースに遊びにきて!
H:実際、パーティーでなにか問題が起きたとき、ディスケイクスではどう対処する?
M:誰かが気持ち悪い雰囲気を醸しだしていて、私たちのことをじろじろなんかいやな目で見てきたりしたら、セキュリティが一瞬で追っぱらうから。パーティーに来ている人たちの安全のためにも、そんな連中にやさしく対応してる暇なんか、まったくない。
P:パーティーに来る人たちは、「なにか問題が起きたら私たちに知らせればいい」ってわかってる。「誰かが触ってきて、安全な気がしないんだよね」って言ってくる子もいたし。パーティーのホストとして、フロアでなにか問題が起きた時にすぐに対応できるだけの気力は取っておく。
H:セキュリティも自分たちのコミュニティから雇ってますよね。SNSで募集しているのを見ました。「誰に知らせたらいいか」がわかっていることがまず安心です。
P:あとは、他のホストをブックするときも、なにか起きたときに対応する意思と心の余裕がある人を選ぶようにしてるかな。
H:パーティーがはじまって1年ほど経ちます。これまでやってきたことを振りかえって、どうですか?
M:よっしゃこれやろう! みたいなノリではじめたことが、ものすごい反応を集めて。私たちも全然予想してなかったし、心の準備もできてなかったし、理解もできなかった。でも一つ言えるのは、パーティーをつくりあげているのは私とポーリだとみんな思っているけど、実際はラディカルなクィア、トランス、POCたち。彼らが、自分の好きな服を着てパーティーに来てダンスフロアで踊ってくれることで、このスペースは成りたっていると思うから。
H:この都市におけるディスケイクスの役割ってなんだと思います?
M:リアルでいること。一言でいっちゃうと。
H:どういうこと?
M:私たちのパーティーは、私たちの血と汗と涙と愛情で成りたっている空間。だからエネルギーのレベルが他のパーティーとは、まったく違う。フライヤーをアングラっぽく見せてパーティーをアングラっぽく見せることはできても、本当のアングラってアングラなエネルギーによってしか起きないことだから。
P:それと、ディスケイクスは“クィアレボリューション”を押しすすめるもの。
M:その通り、ピリオド(以上)!
H:クィアレボリューション?
M:いま世界中で革命が起きてるじゃん? ナイトライフもその一部だってだけ。私がいまやろうとしてることは、ファシズム(ここでは、これまでないがしろにされてきたコミュニティを押さえつけようるような権力)と闘うこと。革命的でラディカルで、なにかを変えようとすること以外、興味ない。
P:同感。
H:これまでのディスケイクスの活動によって、なにかが変わってきたなという実感はありますか?
P:私たちのパーティーポリシーを読んでから、ナイトライフについていろいろと考えるようになったっていうフィードバックを、シーンにいる人たちやクラブ側からもらった。大きなビジネスが回しているようなクラブにだって、どうすればみんなにとって安全なダンスフロアを提供できるかを学んでほしい。
H:最後の質問です。ディスケイクスにとって、インクルーシブなダンスフロアとはいったいなんでしょう?
P:世の中には、自分のアイデンティティが原因で、弱い立場に立たされてきた人たちがいる。彼らが、アイデンティティというものを他の人と違うことを“壁”としてではなく、みんなが一つの場所に集まれる“理由”として捉え、愛しあい、すべてをさらけ出して自己表現できる。そんな空間のこと。
M:ナイトライフって、本当に愛だけで成りたつことができるスペースだと思う。ダンスフロアで、たまたま隣にいる人に微笑むと、向こうも微笑みかえしてくる。そんな環境って本当にハッピーだし、愛だけで成りたってるんだよね。エクスタシーをキメて、ドラッグのノリと、音楽があわさって、めちゃくちゃハッピーで、愛を感じる。その空間にいる人みんなが愛されてると感じて、見守られてると感じる。そんな場所。
P:誰かに批判されることのない、なんのバイアスもかかっていない生のスペース。インクルーシブって、ゲイとストレートがただ物理的に場をともにすることじゃない。感じられるかどうかだと思う。
H:言葉で説明できるものじゃないんですね、感じないと。
M:その通り。安っぽく聞こえるかもしれないけど、体感するもの。言葉にはできない。
Interview with Pauli Cakes & DJ She Marley Marl / Discakes
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———ディスケイクスのパーティー体験記———
2019年の大晦日、ディスケイクスは年越しパーティーを兼ねたレイブを開催した。場所は、チャイナタウンに昔から存在する飲茶レストラン「88 Palace(エイティエイト・パレス)」。結婚式や卒業式のアフターパーティーなどが開かれるような巨大なレストランだが、最近はナイトライフシーンのベニューとして、営業時間後にパーティーやDJイベントが開かれているのをよく目にする。
友人の家での大晦日パーティーが思いのほか長引いてしまい、チャイナタウンに到着したのが深夜3時ごろ。既に15ドル払って買ってあった“一般チケット”をスタッフに見せて中に入ると、真っ暗闇でスモークマシンもフル稼働。屋内なのにタバコやウィードを吸ってる人がいるのはもちろん、床に座って鼻から白い粉をススってるなんてのは普通で、まさか自分が飲茶レストランにいるなんて夢にも思わない。
会場は、思い思いの格好をした人たちで色とりどり。中にはわりと普通のクラブキッズっぽい感じの人もいたけど、多くがディスケイクスのコミュニティの中心を構成するグループ。つまり、クィアやPOCたち。
飲茶レストランのスタッフであるチャイニーズのおじさん、おばさんたちは、音楽が爆音でドゥンチードゥンチー、みんなドラッグキメまくり、紐とレースしか体にからまってないような人がいるような環境で、ふつうに片づけをしたり、座ってタバコを吸ったり(ってか屋内で喫煙、ダメじゃないの笑?)、ニコニコお話をしてらしたり。ブルックリンのアングラ・クィアパーティーコレクティブが、マンハッタンの老舗チャイニーズレストランと繋がっているというのも、なんともニューヨークらしい話。
ダンスフロアでは微笑んでくる人がいたり、こぼれんばかりの幸せの表情を見せる人がいたり。キョーレツな雰囲気のなかに、誰かに後ろから優しく抱きしめられるような暖かさを感じる。みんなのエネルギーがダンスフロアとしての一つの意識を生みだし、いままで体験したことのないような解放感を覚える。
と、ここで「ダンスフロアの前の方はクィア、トランス、POCのためのものです!」とのアナウンスが。アクトとアクトの間に入るようだ。ダンスフロアではスマホのライトをかざしたスタッフが歩きまわり、みんなが安全か、フロアの前方を占拠すべきではない人(白人/ストレート)が占拠していないかをチェックする(正直言って、ちょっとマブしかった)。
ダンスフロアで踊っていると、表情に緊張を走らせるポーリやスタッフの人たちを見た。しばらくすると、まるで警察が犯人を連行するかのように、スタッフにエスコートされていく白人の男性の姿を見た。なぜ彼が追い出されたのかはわからないが、彼の表情は悲しそうだった。
「安全で、誰にもジャッジされないダンスフロア。制限をするものはなにもない」という感じは本当にしたし、エネルギーのレベルは私が感じたことのないようなレベルだった。でもやっぱり、目の前で人が追い出されてるのを見てしまうと、ただただハッピーになって踊っていたい身としては緊張してしまうところがあったのも事実。
音楽が止まったあと、ポーリとマーリーが登壇。なにを言うのかと思いきや、「この会場のすぐ外にケイサツがいるから! みんなめちゃくちゃ気をつけて! ピリオド!(以上!)」。パーティーは終わった。
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Photos by Kohei Kawasima
Text by Kaz Hamaguchi & HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine