「アフリカンカラーは存在しない」。ナイジェリア人の母のドレスなど、ロンドンでの生活でナイジェリアのルーツを感じながら育ったアーティストのカラーパレット

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母のドレス、あの日の教会での色、ナイジェリアでみた色。「自分の思い出深い色を自由に使ったら自然と自分のルーツ、ナイジェリアが色に反映されていた」。

ナイジェリア系イギリス人としての日々を語るカラーパレット

 ナイジェリア人の両親のもと、ロンドンで育ったナイジェリア系イギリス人のアーティスト、インカ・イロリ(Yinka Ilori)、35歳。インテリアデザインやプロダクトデザインを主におこなうアーティストだ。ロンドンのメトロポリタン大学で家具とプロダクトデザイン学科を卒業。現在もロンドンを拠点に活動中。

 LEGOの店舗、イギリスの音楽の祭典ブリット・アワードのパーティー会場、スケートボード場やバスケコートなど。他にも、椅子などの家具から、ボールや財布などの小物まで、デザインを幅広く手がけているインカ。そのなかでも、彼のアイコニックな作品といえば「椅子」。古くなり捨てられた椅子を再利用して彼が手掛ける椅子たちは、どれも一眼見たら忘れないくらいとってもカラフル。自分が幼いころからナイジェリア系イギリス人として親しんできた色を、ポップに作品に取り入れるのがインカのスタイルだ。彼の作品はどれもポップで独特な色合いだから、一目見たらインカの作品だということがすぐわかること間違いなしだ。

 オレンジ・緑・赤などの彼の独特な色使いや幾何学模様はモダンでありながらも、彼のルーツであるアフリカらしさをどこか感じさせる。ロンドンで生まれ育ったインカだが、ナイジェリアのルーツを大事にする両親のおかげで、幼いころから自分のルーツを常に感じながら育ったという。ナイジェリアの食文化や生活様式に触れ、両親とはナイジェリアの言語ヨルバ語で会話したり。彼が両親から教わった文化や、母が身に付けていたカラフルなアフリカンドレスは彼にとってのデザインの大きなインスピレーションとなっている。

 何度見ても、やはり彼の作品の色使いはどことなくアフリカらしい。しかし、インカは自身の色使いを「アフリカンカラー」という風に呼ぶのはあまり好まない。なぜなら、彼のカラーパレットは彼がナイジェリア系イギリス人としての人生で親しんできた色でできていて、アフリカらしさを意識的に入れたモノではないからだと主張する。そんな彼のこだわりのカラーパレットは一体どのようにして築き上げられたのだろうか?彼の独特のカラーパレットのこだわりなどについて諸々本人に尋ねてみたい。

Yinka Ilori

HEAPS(以下、H):ナイジェリア人の両親のもと、ロンドンで育ったそうだね。

Yinka(以下、Y):ナイジェリアにもルーツをしっかりと感じながら、僕はノースロンドンで育った。

H:具体的にどのように両親からナイジェリアのルーツを教わって、それを自分のものにしていったの?

Y:両親からはいつもこう言われて育った。「イギリスのパスポートを持っているからって、自分のルーツを絶対に忘れないで。あなたにはナイジェリアの血が流れているんだから」。

 両親はナイジェリアの文化を僕に伝えることを常に怠らなかった。だから、僕はいつだって生活のどこかにナイジェリアを感じていたんだ。たとえば、料理だったり、生活様式だったりね。食卓では、イギリス料理もナイジェリア料理も出てきた。家でも外でも両親はナイジェリアの言語であるヨルバ語で僕らに話しかけてきた。「イギリス人らしくしなさい」とかって教育は絶対にしなかった。だからこそ、ナイジェリアの文化を祝福することは僕らにとってとても大事なことだと身を持って実感している。

H:ナイジェリアを訪れたこともあるらしいね。どうだった?やっぱりナイジェリアを訪れると自分のルーツを感じる?

Y:そうだね。初めて訪れたのは10歳の頃。祖母や親戚に初めて顔を合わせることができてすごく嬉しかった。ナイジェリアにいると、自分が生まれ育った場所ではないはずなのになぜか懐かしく感じることがあったよ。

H:ナイジェリア人の両親との生活で、Yinkaの根底にはナイジェリアのルーツが刻まれていたんだろうね。

Y:うん。両親がナイジェリアのルーツを大切にする人たちで本当によかったなと思うよ。とに週末はナイジェリアの音楽を聞いたり、教会に足を運んだりして過ごしたよ。

H:ナイジェリア系イギリス人アーティストとして活動をはじめたきっかけは?

Y:若いあいだ、人は自分の居場所を探し求めたりする。でも僕にとってナイジェリアは常に僕の「ホーム」なんだ。だからこそ、僕の人生を祝福するようなアートを作り上げたかったんだ。ロンドンとナイジェリア、両方から影響を得たなにかを作り上げる。

H:手掛けた椅子など作品をみて見ると、オレンジ・緑・赤など、アフリカの国旗や服装でよく使用されるような色合いが使用されているね。自身のナイジェリアのルーツを作品にも“意識的に”込めているの?

Y:僕が使うカラーパレットは僕の周りから自然に気づいたものなんだ。両親が着ていた服や僕飲みの周りのモノから無意識にインスピレーションを受けている。

 人はよくアフリカ人がよく着ている服を見て、アフリカンカラーやアフリカンファブリック(アフリカプリント:色鮮やかなカラーと幾何学模様が特徴)などと呼ぶ。でも、僕はそういう風に認識していない。みんなが「アフリカンファブリック」と呼んでいるものは、実はインドネシアで開発されて、西アフリカに輸入されたもの。それが、時代とともにアフリカに根付いていったんだ。

H:知らなかったです。

Y:でも、いまではナイジェリアではアフリカンファブリックとして根付いているのはわかる。教会やパーティー用の衣装としてよくアフリカ人に身に付けられているし。でも、僕はアフリカンカラーやアフリカンファブリックと呼びたくないんだ。僕が作品に使用しているのは、“幼い頃からの生活で僕が慣れ親しんでいる色”なんだ。

H:アフリカンカラーやアフリカンファブリックという概念に囚われているわけではなく、自分の人生で馴染みがある色でカラーパレットを作り上げているということか。

Y:両親が僕にとっての一番のインスピレーションだと思う。両親はとっても自由に色を使う。とくに、衣類はすごく派手。色をたくさん取り入れることにためらいがない。それって、自分のルーツに自信があるからこそできることだと思うんだよね。色の使い方は感情表現と近い。それぞれの色が感情をはらんでいて、その色を取り入れることでいい気分になれたり、自分のことをセクシーに感じられるようになれる。色を使いこなせれば、世界を征服できるよ。

H:その通りだね…。自分に自信がないときって、カラフルな服やモノを身に付ける勇気が湧かないんもんね。

Y:僕の両親はたとえ人種差別を経験したとしても、自分たちのナイジェリア魂をカラフルな服で表現することを怠らなかった。彼らがナイジェリアのことを心から誇らしく思っているからこそできることだと思うよ。

H:作品制作では主に椅子を手掛けているよね。なぜ椅子というオブジェクトにそこまで執着しているのかがとても気になる。

Y:椅子にはたくさんのストーリーが秘められているからさ。椅子は人々の生活で大きな役割を果たしていて、とてもパワフルなオブジェクトだと思うんだ。人々の感情をたくさん吸収しているから、僕はその椅子の過去と向き合い、椅子のストーリーをシェアしていきたいんだ。みんな椅子に座って泣いたり、怒ったりしていたはず。人々の心が暖かくなるようなストーリーを提供したい。

H:どれもカラフルで人々の記憶に刻まれやすい椅子が多い。これらは捨てられた家具を再利用し、色を塗るなどのアレンジを施して、「Relove(もう一度愛してもらう)」と言う願いを込めているそうだね。とても素敵。

Y:古い家具を再利用するのは、エコの観点からだけではない。椅子にも鼓動はあって、これまでの人生のストーリーがある。祖母から母へ、母から娘へネックレスが受け継がれたりするように、椅子が持つストーリーも受け継いでいきたいんだ。ネックレスはそれぞれのパーソナルなストーリーが受け継がれているものとして認識されやすい。そして、椅子もそうであるべきだと思うんだ。消費社会の現在、モノをストーリーで繋げることで人々の物への執着が増すことを僕は祈っているよ。

Interview with Yinka Ilori
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Images via Yinka Ilori
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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