レシピだけじゃなくて「材料の買い方や、道具の使い方も書いてる」料理生活の磨き方。フリーランスシェフの毎日|CORONA-Xvoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
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2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

「レストランって、不自然じゃね?」。だって、あれだけ人が集まって数時間をともにしているのに、友だちができることってないでしょ? そんな一風変わった視点で食体験を見つめ、大学在学中から大学寮で「全員はじめまして」の人がテーブルをともにするソーシャルダイニングをはじめた、ジョナ・レイダー。予約4000人待ちまでの人気を得て、卒業後はニューヨークを拠点に世界各地でソーシャルダイニングをおこなうフリーランスシェフとして活動しているジョナを、HEAPS(ヒープス)が取り上げたのは2017年のこと。同年9月には日本にて、ジョナとともにソーシャルダイニングを実施した。その後も、なにかの折に近況を聞くなどしていたので、久しぶりにビデオチャットをすることに。

ジョナも住んでいるニューヨークは、現在(取材時の5/1)もロックダウンが続いている。6月に解除される予定だが、ソーシャルディスタンスの考え自体は今後も必須となるだろうし、友人など気の知れた間柄でも“会うこと”に少し慎重になるいま、知らない人と集まることへのハードルは以前より高くなる。ソーシャルダイニングをおもな活動の一つにしていたジョナは、いま、どうしているんだろう。この時期に、そしてこれから、フリーランスシェフでいるってどういうことなんだろう。

約束の13時きっかり、ビデオチャットにて「久しぶりだね!」。“クアランティン・マスターシェ(コロナ髭)”が生えちゃってさ、と笑顔のジョナがキッチンを背景に現れる。

***

HEAPS(以下、H):久しぶり!髭が生えているね。

Jonah(以下、J):恋人があまり気に入ってないから、もうすぐ剃るよ(笑)。少し前にGQで『調味料について』のコラムを寄稿したんだ。「GQお墨付きの髭」っていうのが、最近の僕の鉄板ジョーク。

H:(笑)。最近はソーシャルダイニングはもちろん不可能の状況。2020年の予定はとことん変更?

J:ほとんどが延期なり中止なり、変更。本当だったら、4月中旬は日本にいる予定だったんだよ。何をやる予定だったかは、まだシークレットなんだけど。

H:あら。シークレットが解けるのをたのしみにしているね。昨年もさ、日本に来ていたよね。グリルドチーズサンド作ってたんだっけ?

J:そうそう!フェスでグリルドチーズサンドを出したんだよ。土砂降りの中でね。一体誰がこの野外イベントをこの時期にやるのを恒例にしたんだろう、って思ったよ。連日24時間、止まない雨。たのしかったけどね。またとない思い出になったよ。

H:最近はどんなことをしているの? 仕事もそうだし、日常生活も。

J:さっき話したGQもそうなんだけど、昨年くらいから、料理のことを書く仕事を多くやっているんだ。テレビも含めたメディア出演も増えていたし。書く仕事を増やしていてよかったって、この状況になってつくづく思っているよ。


昨年は、料理のコンペティション番組に、審査員として出演。

H:ジョナの書いたものをいくつか読んだけど、レシピだけじゃなくて、調理器具の使い方とか調味料の選び方も書いてくれていて、いいです。野菜のピーラーをうまく使う方法とか、ピーラーを使って作る料理とか。

J:ありがと!僕自身、レシピ通りの料理をしたことがないから、何かのレシピよりも「どう料理するか」の方がリアルに書けるんだ。 どうやったらお肉がうまく焼ける、とか、どうやって調味料を選ぶか、とか。「どうやっていい食材を選んだらいいか」とか「どこで調味料が買えるのか」という質問も、最近たくさん来るようになって。

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生のズッキーニに、オリーブオイルとレモンと塩、ペッパーでつくった簡単なサラダ。
ポイントは「ピーラー」を使うこと。
ジョナのウェブサイトのブログでは、ピーラーのさまざまな使い方を紹介。
ブロックのパルミジャーノチーズを削ったり、
魚の鱗を剥がすのに使ったり…。
そして、野菜のスライス。
包丁が得意でなくても、いつもとは違った野菜の切り方でたのしめる。
スクワッシュやキュウリ、ズッキーニなどを、ピーラーで薄い幅広のスライスにし、サラダに。

H:あ、確かに。開いているお店が限られるようになって、どこで何が買えるかは考えるようになった。

J:それに、この自粛期間で「料理を作ること」への姿勢も変わったと思うんだ。前は、まず作るレシピを決めて、そこに載っているすべての材料を買いに行って、一つひとつのステップを慎重にクリアしていく。一大イベントのような仰々しさがあった。いまはもっと、“即興的”というか。家の冷蔵庫の中に何があって、そして近所で何を手に入れられるか、その範囲で工夫する。

H:それから、自宅のキッチンで、自分の料理のスキルで、なにができるかという。

J:そう!「こうしたらどうなるかな」「どんな味になるかな」を想像しながら、自分にできる調理のスキルで、一つひとつやってみる。レシピ通りに作ることとは、また違うたのしみや達成感があるよね。外で買えるものが限られているいま、僕自身も“実験”をたのしんでいるよ。コーシャクラッカーっていうめっちゃ薄いクラッカーがあって、買うとものすごく高いんだ。時間があるからと、先日作ろうと思い立ったら材料が揃わない。自己流でアレンジしてみたら、大成功。あとは、散歩しながら見つけた野生のハーブを摘んで食べてみて、おいしいものを集めてシロップやインフューズドワインとか作ってる。時間はあるけれど、物は限られている。実験にはもってこいの日々だ。

H:買えば簡単だけど家でわざわざ作ってみること、私もハマってます。「これ、自分で作れるんだ」ってことが多くて、生活のコントロールを取り戻していく感じがある。自分の生活を取り戻すっていうか。

J:そう、そうなんだよ。それに、多くの人が、自分が“食べるもの”のことだけじゃなくて、なにで作るか、なにで食べるか、までの「一連の食生活の質」を考えるようになったと思う。フォロワーからくる質問も変わったんだ。「そのナイフとお皿、どこで変えるの?」とか。食べるお皿のことまでを気にかけられるって、すごくいいよね。忙しい以前であれば、なかったことだよ。


ロックダウン期間の買い物は、9日に1度。
ジョナの買い物スタイルは、持っている中で一番大きいスーツケースを持参すること。
「レジで、でかいスーツケースを開いて、買ったものを入れなきゃいけないんだ😂」

H:調理器具一つの工夫で、料理が変わる発見もたのしい。

J:基本的に、料理のツールっていろんな応用が効くんだよね。たとえば、クッキーを冷やすのに使ったりする「クッキングラック」。グリルの網がなくても、それを敷いてそこにお肉をのせてオーブンで焼けば、火力の強いオーブンがなくてもおいしく焼けるんだよ。

H:おお〜。お肉といえば。おいしく焼くための調味料の使い方もウェブサイトに載せてたね。

J:イエス。決め手はフィッシュソース。お肉を焼く前に表面にサッと塗る。これがね、お肉の味をしっかり引き出すんだ。家でプロが焼くようなお肉を堪能できる。最高だよ。こういった「自宅での料理生活」に役立つことを伝えたいと思っていることがヒントになって、ソーシャルダイニングを休んでいるこの期間に改めて自覚したことがあったんだ。

H:なんだろう?

J:僕のダイニングは「人を家に招くスタイル」。それは決して、自宅にファンシーなレストランを作りたいわけではない、って気づいたんだ。「この料理はどこどこの〇〇を思い出させる味」だとか「2つ星の仕上がり」というコメントはそこまで響かなくって。それよりも、「これ、今度自分で作ってみたい」「作って、友人を家に招いて、パーティーしたい!」と言ってもらうことの方が、すごくうれしいというのは以前からあった。

そして今回、この期間に書いて伝えたいことを考えたときに、ファンシーなレシピではなくて、「自宅での料理に役立つこと」。僕がソーシャルダイニングを通して作りたかったのは「すばらしいホームパーティーの好例」だったんだ。自宅で、自分でおいしい料理を作ってみたいと思ってもらったり、友人とダイニングパーティーしたいと思ってもらいたいんだな、って。


現在住んでいるニューヨークのダウンタウンの自宅で、食事を準備中。
壁に飾っている植物は、東京のレストラン経験から得たインスピレーションのレイアウト。
「次の散歩でいい感じの花を見つけたら、挿し替えようかな」。

H:なるほど。ジョナがインスタグラムで紹介しているのも、すぐに焼けるビスケットとかカクテルの作り方など、簡単に取り組めるものが多いもんね。いろんなことを考えているなかで、フリーランスシェフでいるということそのものについて、改めて考えたことはある?

J:いやあ大変だよ。正直、まったくお金を稼がない月もあって、ただ貯金が減っていく。だけど、フリーランスシェフでよかったと僕は思っている。レストランで働いてきたシェフには解雇された人も多く、自分だけで何をしたらいいかわからない人がほとんどだと思う。僕は、「どうやって仕事を作るか」「そのためにどんなプロモートをどのようにするべきか」のストラクチャーをある程度持っている。それがベースとなって「次にどんなプロジェクトをするか」を、現実的に考えられる。やっぱり、ずっとフリーランスでやってこられてラッキーだなとしみじみ感じているんだ。

H:それはどうして?

J:フリーランスって、仕事がたくさん来たり急に無くなったりということが日頃からある。フリーランスでいるというのは「自分は何がしたい?」「もしもその機会があるなら、自分はどうしたらそれを得られるのか?得られる自分とはどんな自分だ?」という自問自答をつねに繰り返しながら働くということ。だから、今回のような時期も「これからなんとかできる」という自信がある。

H:フリーランスとしてやってきた日々があるから、これからのことを前向きに考えられる。

J:うん。だから、いまはすごく大変だけどフリーランスシェフになったことを少しも後悔していない。僕はフリーランスでよかったと思ってる。と、いまいまそう思えているくらいには、これまで自分でやってきたんだなって。

H:最後に、いまハマっている料理を教えて。

J:ハンバーガー。毎日作ってる。今日も朝10時に飛び起きたんだよ。「ヤバい、めっちゃハンバーガー食べたい!作ろう!」って。

H:いいね。ジョナのハンバーガー作りの動画でもやりたいね。

J:それ最高じゃん、やろう!10分でできる、めちゃくちゃおいしい米国仕込みのハンバーガーを、HEAPSの読者に、僕が教えてあげる。

(ということで、おたのしみに)

ジョナ・レイダー/Jonah Reider


クアランティン・マスターシェと、とある日のミール:
小さな肉餃子を、野菜の切れ端で作ったスープに入れたもの。
クアランティン=無駄な時間、じゃないよね!

フリーランスシェフ。26歳。自宅に「初めまして」の人同士を招いておこなうサパークラブ「PITH(ピス)」を定期的におこなう(現在はコロナウイルスの状況により停止)。自宅で料理をすること、テーブルをホストすることのたのしみや、コツ・心構えなどのティップスを伝えている。

学生時代から料理が好きで、コロンビア大学在学中に大学寮の一室で「PITH」を始動。もともとは友人に料理をシェアするためだったものを、一般の人にもサインアップ式で公開すると、ウェイティングリストはすぐに1,000人を越し「NYCで最も新鮮で刺激的なレストランがある」と話題に。2017年にはHEAPSのイベントで来日し、日本で初となる「PITH」を実施した。

Instagram:@jonahreider

Photos via Jonah Reider
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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