生き生きとした健康を目指すこと、「ウェルネス」。近年そのウェルネス業界に重宝されているのが、大麻成分であるCBDだが。今回紹介するのは、ヒトの健康のためのウェルネスと大麻の話ではなく、動物とCBDの話。
ペットフード・ペット用品メーカーと結託し、あれよあれよと生産が進むペット用マリファナ製品。ストレス解消や不眠症を抱えるペットに、CBDオイルをあたえる飼い主が増えているという。
「ペットのストレス、不眠症に効くから」。飛ぶように売れるペット用CBD製品
ここ数年で一気に浸透した「ウェルネス(身体だけでなく精神面も含めた“健康観”)」を代表するキーワードといえば、「CBD(シービーディー)」だ。CBDとは、カンナビジオールの略で、大麻草に含まれる成分の一つ。大麻に含まれる成分の一つが、生き生きとした健康を求めるウェルネスという観点から、近年急速に注目を集めている、ということだ(CBDを含むCBDオイルは日本でも合法)。大麻成分であるが、もう一つの大麻成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)とは違ってハイになる成分は含まれていない。ので、ハイになって活き活き、ではない。CBDが注目を集める大きな効用はというと、「ストレスを緩和しリラックス効果がある」こと。不眠症を改善、炎症を和らげて免疫システムを強化するといわれる。
そしていま、CBD製品を使っているのは人間だけではない。ペットもだ。当たり前だが、動物も人間のように慢性痛や不安症など、さまざまな疾患・症状を抱える。家族の一員である彼らを癒すため、CBDを愛するペットにも利用したい。そう考える飼い主が急増し、CBD入りのペット製品も幅広く開発された。CBD入りの犬用ビスケットや、ペットの舌に垂らすCBDオイル、患部に直接散布できる塗り薬やお湯に入れるだけのバスボム、など。ニューヨーク・マンハッタンにある某CBD専門店は「CBD入りペットフードが飛ぶように売れている」と鼻息も荒い。
「神経過敏な愛犬にCBD入りビスケットを日常的にあたえたところ、落ち着きを見せるようになった」や「週に2回10分のてんかんを起こしていた愛犬チワワにCBD入りペットフードをあたえたところ、昨年は1年で2回しか発作が起きなかった。CBDが愛犬の命を救ってくれた!」と、常連客が絶えないという。
ペット用CBD製品の人気は数字にも出ていて、2018年のペット用CBD製品の売上は、2017年の800万ドル(約8億7,000万円)から4倍の3,200万ドル(約35億円)に。2022年までに、米国だけでその市場価値は11億6,000万ドル(約1,270億円)に達すると予想されている。
CBDのマリファナ商品を作る企業が全米で拡大した理由として、2018年の「農業改正法」がある。
農業改正法:マリファナよりTHCの含有量が少ないアサ科植物「ヘンプ」を、麻薬取締局の管理対象から外し、農作物の生産を管理する米農務省(USDA)の管轄下へ。
この緩和な動きに乗じたのがCBD商品。サラダ、バーガー、アイスクリームなどの飲食物(NYではでは今年7月から販売禁止になった)、化粧品、コーヒーや生理痛座薬(!)にも「 × CBD」商品が登場。調査(2019年)によれば、米国にて7人に1人がCBD製品を使用。さらに、5年前はほぼ皆無だった「CBD」のグーグル検索数は上昇中だ。
実際のペット用品店の店主、獣医の意見は?
昨年、カナダの大手マリファナ企業「キャノピー・グロース(Canopy Growth)」は、 カリスマ主婦/動物愛護主義者のマーサ・スチュワートをアドバイザーに迎え、人間、及び、動物向けのCBD製品開発を進めることを発表した。また、カリフォルニア州のマリファナ企業「メディカル・マリファナ・インク(Medical Marijuana Inc.)」はペット用CBD製品専門のブランドを創設。カナダの医療用大麻会社「キャントラスト(CannTrust)」は、動物の健康維持を目的とする会社と提携し、ペットの健康のためのマリファナ製品を開発している。ペットのためのCBD製品開発がさらに本格化している。
ところで、ペット産業に興味津々なマリファナ企業と、自身の商品にCBDを注入したいペット用品メーカーは、どう協働しているのだろう? ペット用CBDオイルの販売に特化した、ブルックリン発オンラインショップ「ザット・ペット・キュア(That Pet Cure)」の店主ロネン・レヴィー氏に少し話を聞いてみた。
「ヘンプを販売する某社と提携しています。通常のビジネス取引をする関係性ですよ」。ロネン氏が、提携先のヘンプ販売企業を選んだ決め手は、「ヘンプの質」。フルスペクトラムと呼ばれるCBD以外の成分・効用を含む高品質のエキスを取り扱っていたから、だという。
ヘンプの仕入先として信頼できるかを判断するため、「まずは彼らからサンプルを送ってもらい、それを研究所で調べました」。仕入れたヘンプをCBDオイルへ。商品として売りだすまでには「農薬や重化学薬品が残っていないか試験を実施して、安全性を確かめます」。ペット用品メーカー側が、信頼できるマリファナ企業や仕入先を吟味。「ちなみにこれは僕の独自調査ですが、販売企業を通さずに、ペット用品メーカーとマリファナ農家とが直接取引しているケースもあるそうです」。
信頼や安全という点では、獣医側の意見も気になる。“マリファナフレンドリーな州”コロラドを拠点に、ペットへのマリファナ使用に関する科学的根拠に基いた情報を提供する「ベテリナリー・カンナビス・エデュケーション&コンサルティング」の創設者で、獣医歴10年のカサラ・アンドレ医師にも意見を聞いてみると、CBD製品を開発するペット用品会社が気をつけなければいけないこととして次をあげた。「製品の安全性を保証するため、栽培地や生産過程をしっかり把握すること。また、不純物がないかどうかを実証する試験を研究所でおこなうことです」
CBDオイルには副作用がなく、疾患・症状に効果があると証明されています、という面もある一方で、疑問視する見方もある。アンドレ医師もこう指摘する。「獣医の指導なしに、ペットにCBD製品をあたえることを懸念しています。中毒の危険性や、汚染された製品、不適切な用量をあたえたために、実際にペットが不調をきたしたとの実例もありますから」。CBDをあたえたあとに、ペットに嘔吐や下痢、食欲不振、平衡感覚障害などの症状が現れたら、すぐに獣医に診てもらうことが必要だという。しかしながらCBDを用いたポジティブな面についてはこう発言。「マリファナ治療法のすばらしい点というのは、一匹いっぴきにあわせられる点。ペットの種類や性格、生活スタイルや症状により、最適な治療プランを考えることができます」とのことだ。
情報提供:Ronen Levy of That Pet Cure, Dr. Casara Andre of Veterinary Cannabis, Education & Consulting
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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine