編集部が選ぶ今月のZINE3冊。テーマは〈変な素材〉ストックフォトの奇妙な数枚、スマホ内の写真をわざわざイラスト化、など

ストックフォトで見つけた、妊婦のお腹にサッカーボールのイラストが描かれている素材。「いや、誰がこの写真使うんだよ!」ってなったよね。
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人気絶頂期にジャニーズ事務所を退社したKAT-TUNの元メンバー、赤西仁。人気女優とスピード婚からの離婚で世間を騒がせたお笑いタレント、陣内智則。険悪化する日韓関係にいても衰え知らずの人気グループ、防弾少年団のキムソクジン。…なんの話かって? いやね、名前に「ジン」がつく畑違いの彼らが、ジンを作ったらおもしろいのになぁ、なんてふと思ったんです。

筆者の妄想はさておき。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。今月紹介するのは、「謎の被写体」がテーマの3冊。作者に綴ったキッカケを問うてみたら、答えがまた三者三様なこと。なかには、奥深い哲学が隠れていたりも。

***

右手にスイカを、左手を銃を。
ストックフォトに紛れる奇妙な写真を集めました。
Weird Stock Photos

作った人: Lily Tice(リリー・タイス)


Image via Lily Tice

雑誌・広告・ウェブ関連で働く人は重宝してるんじゃないかな、写真素材の倉庫「ストックフォト」。そのごまんとある素材のなかに、たまに紛れ込むシュールな素材。それら謎写真を集めて綴じあげたのが『Weird Stock Photos(ウイアード・ストック・フォトズ)』だ。訳して「ヘンな写真素材」。

———シュールな写真が多いですね。ま、そりゃそれがテーマですもんね。

ストックフォトに掲載されてる写真素材たちに、変な魅力を感じてしまうんですよ。

———ほう。

以前、米国雑誌『アトランティック・マンスリー』のライター、ミーガンがストックフォトに関する記事を書いていて、こう評していたんですよ。「ストックフォトに掲載される写真素材は独特。表情やポーズが大袈裟で、狙ってる感が受け取れる」と。まったくもって同感です。ストックフォトならではの作品がツボ。愛おしくすら思います。

———言わんとしていることはわかる。わざとらしい作り笑顔の家族写真とか、よく見ますもん。結構ある変な素材から、選抜する基準が知りたい。

「なんでこんな写真が必要なの?」と思わせるような、見入ってしまう変な魅力を感じるもの。

———素材はどこから引っ張ってきたの?

ほぼ「ゲッティイメージズ」と「アイストック」。

———いままでで一番ヘンだった素材って?

妊婦のお腹にサッカーボールのイラストが描かれているもの。「いや、誰がこの写真使うんだよ!」ってなりました。



リリーさんイチオシの変な写真。

「マネキンが教えてくれるもう一つの世界」。
写真家が被写体として惚れ込んだマネキン1冊分
Mannequin – Photo Zine

作った人: Richard Partridge(リチャード・パートリッジ)



Image via Richard Partridge

マネキンって不気味。夜中の薄暗いショーウインドーでうっすら照らされてたりすると、「あ、やばい、出てくる」ってドキドキする。マネキンにまつわる怪談話もいっぱいあったりするもんね。しかしこの人は、マネキンにお熱をあげています。マネキンを被写体に撮影して、『Mannequin – Photo Zine(マネキン・フォト・ジン)』を作っちゃいました。

———なぜマネキンを被写体に選んだんでしょう?

ロンドンを舞台にしたフォトジンを作りたかったんだけど、普通の写真じゃつまらないじゃない? 変わった作品を作りたくてマネキンを選んだんだ。

———ジンの中で「100人のリアルな人たち」って言葉が出てきますけど、これはマネキンに対しての揶揄?

ある時、誰かが言っていた「世界には100人しか存在しない。残りの人はダンボールの切り抜きでしかない」という言葉が、頭から離れなくなって。「この世に存在するもので、確信を持てるのは自分という存在だけ。その他は虚構だ」と考える独我論にも目覚めたときだったから、より共鳴したものかもしれない。僕の作るものはすべて、この「100人のリアルな人」という考えに基づいて作られているんだよ。
延長線上で、時には逆説的に思考して、「すべての無生物にも生命があり、魂があり、存在するのでは」という物活論も取り入れた。捨てられた靴、ショーウィンドウのマネキンに、魂がないとは言えない、とね。

———存在して見える人たちがダンボールなら、セラミックのマネキンが実在してるかもしれない、みたいなね。セラミック製かは知らないけど。

彼ら(マネキン)はリアルなのか、そうでないのか。もしかしたら「なんで写真を撮っているんだろう」と、カメラを構える私にそう思っているかもしれない——そう考えたらおもしろくてね。実際の人間とのインタラクションが発生するのも醍醐味なんだ、窓ガラスに人が写り込んでいたりとか。

———いろんなこと考えてるんですね。とはいえ、動かないマネキンを撮り続けて、飽きないですか?

最近はマネキンの手の写真を撮っている。マネキンの手ってのはスタイリングによって表情を変えるから、とても興味深いんだ。



スマホに封印しとくのもったいない。
自分と彼女の、普段の写真を手描き
Bad Drawings From Photos

作った人: John(ジョン)


Images by John

口を開けて爆睡してたり、どアップだったり。スマホで何気なく撮った自分や彼女の写真ってのは、あとから見るとクスッと笑えるもんだ。そんな写真をイラストに描きおこしたのが『Bad Drawings From Photos(バッド・ドローイングス・フロム・フォトズ)』。作者のジョンさん、絵心にまったく自信がないながらも、鉛筆でグリグリ。

——————下手ウマなイラストがいい味出してますね。

ふざけた作品だよね。初めて一人で作ったジンなんだ、だから「ファースト・ソロ・ジン」。

——————かっこよく聞こえます。

2年前に一度作ったことはあったけど、そのときは彼女との共同作業だったんだ。今回はシンプルで面白いものを作りたくってさ。これ、制作期間、2日。

———だいぶ短い納期で仕上げてきましたね。「スマホの中の写真をイラストにしよう」ってアイデアはどこから?

ジンのコンセプト考えてたんだけど、全然アイデアが降りてこなくて。おまけに、そういやそもそも僕、絵心もないなって。だから、なんとな〜くスマホに入ってたふざけた写真をイラストにしてみたら楽しくなっちゃって。

———ジンに載ってる被写体は…

僕と彼女。一緒に撮ったセルフィーなんかもある。

———口を開けながら爆睡してる男性。これってジョン本人?

そうそう。タイトルは「フランスのサッカーチームTを着て、車内で爆睡かます僕」。旅行中、彼女に盗撮されたんだ。

———はは、ヨダレ垂れてなくてよかったね。他にはどんなイラストが載ってる?

彼女の超どアップに、ケベックで彼女がデッカい車の横に並んでいるものとか。あとは彼女が逆さにぶら下がってるやつ…なんか、口頭で説明すると変な感じだね(笑)




制作期間わずか2日。この下手ウマ感、いいね。

Eye Catch Image via Richard Partridge
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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