家庭のキッチンからはじまる都市の“廃油問題”、DIY石けんがキレイに?油をカスタマイズ、1時間でできる〈キューブ石けん〉

「廃油に、“新しい命(使い道)”を吹き込む方法があります。それなのに排水管に流し捨てるなんて、恥ずべきことです」
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近年、現代人のライフスタイルに浸透しているDIY志向、ものづくりブーム。そのうちの一つ、ホームメイド石けんづくりも本格的だ。アボカド油を使った手づくり石けんや、透明感のあるカラフルな“宝石石けん”なんかも登場。そんな手作り石けん熱に油を注ぐことになるのが「廃油エコ石けん」。家庭のキッチンから垂れ流される「廃油」を原材料に、環境に配慮した石けんをラクにつくれるキットが開発中だ。

都市の環境汚染〈FOG〉って? 廃油をキレイに使うキットの仕組み

 プラスチックストローをやめて、紙ストローに。プラスチック袋を拒否し、持参の買い物袋を広げ。ペットボトルを買わず、マイボトルで喉を潤す。エコフレンドリーなライフスタイルが、オルタナティブではなく「メインストリーム」になりつつある昨今だが。家の外では「環境に気を使っています」でも、家の中ではどうだろうか。事実、家庭のキッチンから、なかなか消え去ってくれない問題がある。「廃油の廃棄問題」だ。

 揚げものなどの料理のあとに残った油は「流しに捨ててはいけない」のが当たり前。各自治体がおこなう廃油回収サービスを利用したり、新聞紙をつめた牛乳パックを使って可燃ゴミと一緒に捨てたりする。一方、世界の他の都市では「家庭から垂れ流される油脂問題」は深刻で、これらの油脂は「FOG(Fats=脂、Oils=油、Greases=脂肪)」と呼ばれ、下水道を詰まらせる要因として都市を悩ませている。2017年にはロンドンの下水道内で全長およそ243メートルの油脂の塊(ロンドン名物・二階建てバスの11倍の長さ)が見つかったほか、ロンドンでは下水道詰まりの8割ニューヨークでは7割がFOGが原因だと発覚。ロンドンでは、下水道詰まりによる洪水や悪臭問題などの対応に毎年約1億ポンド(約1億4000万円)も費している。またFOGは、下水道に問題を起こすだけでなく、河川に流れ出た結果、魚や鳥などの動植物にとっても有害な物質にもなってしまう。

 この廃油問題を、みんなでラクにたのしく解決できないか…。そんな願いを込め、英国の工業デザイナー、ダニエル・コフィー氏が開発したのが、廃油から作るDIY石けんキット「Sápu(サプ、 アイスランド語で「石けん」)」。1時間で石けんがつくれてしまうというこのキット、仕組みを説明しよう。

1、コーヒーメーカーのような見た目のキットに廃油を注ぐ。セルロースやデンプンなどの炭水化物から作られた“スーパー生分解性フィルター”を通すため、臭いの原因・食物粒子をまるっと吸収。無臭の液体が完成。

2、液体にスプーン6杯ぶんの水と2杯ぶんの水酸化ナトリウムを追加。触れるだけで皮膚を溶かしてしまう非常に危険な薬品・水酸化ナトリウムは、専用の薬瓶のような保存容器に入ってくるため、子どもにも安全だ。

3、いざ、カスタマイズ・タイム。好みのフレグランスエッセンスを入れてみたり、美肌のことを考えて角質ケア剤なんかも入れてみたり。ちなみにダニエル氏のお薦めは、チアシードとアロエエッセンス。出来あがった液体を石けんの型に注いで、約1時間ほど乾燥させれば完成。



「廃油で石けんなんて、なんか汚くないか?」と思うだろう。「キット開発時に学生や一人暮らしの若者、年配のカップルなどが協力してくれたのですが、誰もが最初は嫌悪感を示して」とダニエル氏は話す。「でも油の匂いがまったくしない石けんを見せたら、試してみたいと思ってくれたんです」

現代流エコアクションは「肩ひじはらずたのしく」

 その昔、手作り石けんといったら、廃油でつくる石けんが一般的だったという。水と苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)でホームメイドする方法も、ネットで多数紹介されている。しかし、廃油の油特有の臭いが気になる…といった声が常にあった。また製造までおよそ1ヶ月と時間がかかるのも、じっくりものをつくるのが好きな人でない限り、ハードルになってしまうだろう。


 一方、サプはキットとしてすべて必要な材料がついてくる利便性にくわえ、スペシャルフィルターのおかげで臭いもなし。しかも、たった1時間で廃油が石けんに姿を変えてしまうのだ。未だ開発の段階だが、複数の企業からすでに注目され、アプローチを受けているとのことなので、商品化の未来はもうすぐそこ? 家の中での小さなアクション、趣味の石けんづくりに自然への配慮をひとつまみ。DIY石けんづくりの波が、家庭の廃油問題を少しずつ洗い流してくれるかもしれない。

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All images via Danielle Coffey
Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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