「私は、これからポルノ業界に女性をどんどん送り込みます」。
近年、日本ではAV出演強要が次々と訴えられ、世界のフェミニストたちからは「女性の性を道具として扱う」存在そのものが批判の対象として槍玉にあがっているわけで、これだけ聞けば「えぇ〜…」。しかし、これを公言したのはごりごりのフェミニストの映像監督。彼女の作るポルノ動画が、近年、男女問わず超人気だ。
※過激な内容を含みます。
女性監督が撮るポルノ、登場
「ナニをくわえて一生懸命ブロージョブ。顔射されてフェイクスマイル。これがポルノ。そろそろ、この業界にも革命が必要です」。女優はたいてい相変わらず金髪のスイカサイズのおっぱい。テーマも欲求不満の奥さん、家庭教師に無理やりモノ…。大学生のとき、久しぶりに見たポルノは「女性の性が軽視された内容ばかり。昔はじめて女友だちと見たポルノから、何一つ変わっていなかった」。
2004年に無料配信された、ピザ屋の兄ちゃんとの情事を題材にしたポルノ動画『The Good Girl(グッド・ガール)』はリリースから数日でウン百万のダウンロード数を記録。これが、「変わらないポルノ業界を変えることにした」エリカ・ラスト(Erika Lust)の初作品だ。当時、映像制作を学んでいた彼女が修了プロジェクトをネットに公開。
アンジェリーナ・ジョリーの巨大イキ顔写真が貼ってあるオフィスでスカイプをつないでくれたエリカ、多くの賞も受賞し映画祭や雑誌にドキュメンタリーと、いまでは引っ張りだこ(本も5冊出版)の人気監督だ。
Erika Lust
これはいわゆる…「クラフト・ポルノ」
脚本、カメラワーク、ディテールまで行きとどいた映像美。細部までこだわりを持って作られたエリカの作品が、従来のアダルト動画とどこが違うんですかは愚問だ。「友だちにいそう」なバラエティに富んだ俳優陣、自然光での撮影シーン多めでさらにナチュラルに。あげるとキリがないし一目瞭然なので、以下の制作内容と現場の画像を見て欲しい。
今回、より特筆したいのはその「制作過程」だ。まず、彼女の現場クルー、男優をはじめ数人の男性はいるが、監督、アートディレクター、ビデオグラファーなど「重要なポジションは全員女性」。これまで「ポルノ業界には女性監督、映像作家なんていなかった」。
どしどし女性を送り込むと言っていたのは、映像の”裏側”だ。「ポルノ業界を変える新しいポルノを作るには、よりこれまでのポルノに疑問を持っている女性たちの新たな視点と価値観が不可欠。女性が見て不自然ではないか、多様なセックス観を打ち出せているか」。
出演者について触れると、第一に「全員が希望してポルノ動画に出ている」。契約内容を整えて彼らの安心を保証するのは大前提、出演時にはそれぞれの性的嗜好を「やりたいこと・やりたくないこと」とリスト化し細かく把握。また、出演者同士も本人らの希望でマッチングする。「この人と共演してみたい!と、お互いが希望した撮影は、本人たちもより楽しんでいるから良いものになる。見ればわかると思うわ」とエリカ。逆も然りなので、NGの申し出があればぶつけない。
ここまででもすごいが、エリカのこだわりはまだまだ。彼女の現場では、一つひとつの作品、さらにそこにおける一つひとつのシーンにおいて「すべて男優女優のOK」を得る。一人でも嫌だといえばそのシーンはなし。自然な演出のために、「自分たちのいつものセックスをしてみて!」という指示もよくいれるそうだ。
みんなのリアルをネットで募集、映像化
「もっとリアリティを追求したい」。4年前にプロジェクト「XConfessions(告白、とでも訳そうか)」もはじめた。世界中からエロティック体験を募り、毎月2本選出、それをもとに作品を撮る。これまでになかったポルノ作品に視聴者からのラブコールは止まらず、現在まで撮影した短編フィルムは100本を超える。
活躍華々しい「女性のためにポルノを撮るフェミニスト監督」と呼ばれるエリカだが。実はこの「XConfessions」、60パーセントの視聴者は男性だ。
てっきり、従来のいわゆるポルノを消費してきた層には「物足りないんじゃ?」と思っていたし、「業界や消費者からの批判はもちろんあるわ。『こんなのポルノじゃない』って」とエリカも言っていた。しかし、同時に、男性からの支持を受けているのは「自然なことだと思う」とエリカ。そしてそもそも、「女性の視点を入れた新しいポルノは必要だけど、『女性のために』作っているわけじゃない。従来のポルノに違和感を感じるすべての人のために、です」と。
エリカの作品が、男女、しかも年代を問わずにファンが増えていることにおいて、最大の理由は「作品の透明性」だ。エリカは「すべての作品において、出演者、ヘアメイク、ディレクターなど全員のクレジットを明記している」。
「ネットに落ちてるポルノはまず匿名、あっても架空の変な会社名か適当な監督名を載せておいたり。一方で、私たちはすべてを視聴者に公開する」。なぜか。それは「ポルノを安心して消費して欲しいからです」。
ユーザー数で証明している彼女に言わせれば「消費するものは何でも自分で選ぶ時代。産地もわからない卵より、信頼できる農家で育った卵を選ぶのと同じこと」で、「誰にどんな過程で作られたかわからない『不透明なポルノ』よりも真摯なポルノ」を選ぶ層が、すべての年代にいて「当たり前」と断言。
「この10、15年で、人の食に対する価値観は変わったでしょう。なぜかというと、『エコフレンドリーな食品』を出す人たちが出てきたから。ポルノは、以前は特定の会社が制作して世に出していたんだけれど、ポーン・チューブ(porntube、無料でアダルト動画を見られるサイト)が出てきて、いろんな人が好きにアダルト動画を投稿するようになった。そうすると、同様に増えたのは疑問を感じる人です。これ、誰が作っているんだろう? 背景のストーリーはなんだろう。食において自分が消費するモノについて疑問を持つ、という流れがあったので、その他の消費するものにも同様に疑問を感じるようになった。ポルノもそのうちの一つです」
エリカたち現場クルー。制作のビハインドザシーンも公開している。
消費において、制作過程と保有するストーリーを考慮する現代の消費者には、作り手のこだわりとコンセプトを感じ、過程が透明であり、さらに作り手が誇りを持っているという“良質な”、いわゆる「クラフト・ポルノ」が選ばれるのは不思議ではない。13年前の初作品公開から本格化した彼女の制作は、まさに時代の流れにドンピシャだった。
と、ここで誤解しないで欲しいのは、エリカの作品はなにもすべてが「キレイなセックス」なわけではない。複数人で、恋人以外と、泥酔して奔放な、それから過激なものもある。「セックスシーンは、そりゃあ汚いこともあるでしょう。それでいいんです。ダメなのは、セックスそのもののイメージ、価値が汚くなること」
「良質なポルノを作ることは、私たちの責任です」
何か知りたいことがあれば、無料で情報と知識をネットから引っぱってこられる現代。ポルノもその例外ではなく、“18禁”の垂れ幕がかかり「子どもは見ちゃダメ」な大人の世界ではもはやない。
昨今の子どもたちのポルノへの接触は非常に早く、「ポルノ動画は誰もがアクセス可能なセックスの無料講座」のようなもので、だからこそ「いいポルノがなければダメ」とエリカ。既出の話と繋がるが、子どもにいいものを食べてほしい、粗悪なものを与えたくない、と考えるのと同じで「良いポルノからセックスを、ジェンダーを学んでほしい」。
従来の“いわゆるポルノ”が無くなることはないと思う。いかにオーガニックな食品が増えようとジャンク好きがいて当然なのと同様で。大切なのは、ポルノのイメージが硬直していないかどうか。従来の粗悪なポルノが反面教師になるのも、比較できる「いいポルノ」が存在してはじめてだ。
「セックスはリアル・プレジャー(真の喜び)です」。ギルティ・プレジャー(いけないとわかっていても…な罪悪感ありの)ではなく、フェイク・プレジャー(嘘、演技の)でもない。恋人との行為だろうが一夜限りだろうが、大切なのは本人らが行為を受け入れ、楽しんでいるかどうか。もちろんそれが女性だけでもダメで、逆をいえば「男性がうまくやらなきゃ」なんてプレッシャーを感じる必要も、本来はなくていいものなのだ。
「かつてのポルノが、セックスというイメージを定めてしまった。男性がガーッとやれば女性はすぐイケる、とか、乱暴なのが好き、とか。かつてのポルノ男優も女優もプライベートでそんなセックスしてないのにね。今度は、良いポルノがそのイメージを壊していくんです」。
プロダクトがうまれていくほど、一定の価値観や思想がストリーム化していくというのは食品業界が好例。巨大なポルノ業界への対抗馬として着実に成長している「良質なポルノ」によって、次世代のセックス観は変わっていくはずだ。
Erika Lust
Interview with Erika Lust
All images Via Erika Lust
Text by HEAPS, editorial assistant: Yu Takamichi
Edit: HEAPS Magazine