“踊らない民”をテクノで踊らせることはできるのか?エレクトロ先進国と連携して実現〈中東・砂漠のエレクトロフェス〉

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壁崩壊後のベルリンでは、昨日まで東と西で分断されていた若者たちが一つのダンスフロアでテクノを踊り、音楽文化が育ちにくい土壌の中国でも“歌詞”のないテクノは、若者の間で浸透している。昔から人と人を繋いできた電子音楽テクノだが、つい数ヶ月前も、中東の砂漠ではある民族との交流に一役買ったという。

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砂漠のど真ん中。地元ベドウィン族を巻き込んだ“アラブのレイヴ”

 今年3月末、中東・ヨルダン南部に広がるワディ・ラム砂漠に200人が集った。首都アンマンやパリ、ベルリンからやって来たエレクトロミュージックのDJやアーティスト、アンマンやヨーロッパ、レバノンのベイルートから参戦してきたレイバー、そして、ふらりとたどり着いたその砂漠の地元民「ベドウィン族」の男たちだ。
 目的は「ワディ・ラム・エレクトロ・フェスティバル」。ベドウィン族やヨルダンの地元ミュージシャンと音楽を共有し、文化交流できる新しい場をつくるのだという。

 ベドウィン族とは、中東の砂漠を放浪する遊牧民のこと。“国境をもたない民族”と形容され、羊やラクダの毛で作ったテントに住みながら砂漠をさすらう。奏でるのは伝統音楽、踊るのは結婚式、という文化的にも極めてトラディショナルな民族とレイヴ体験を共有しよう、という斬新なフェスティバルだ。

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 仕掛け人は、ヨルダン人DJで現在はパリやベルリンでも活動するシャディ・クリース。10年以上前から、ワディ・ラム砂漠のヨルダン伝統音楽に惹かれ録音の旅に出たりと、ヨーロッパのクラブシーンにもヨルダンの伝統音楽にも精通しているDJだ。2日間にかけて開催された「ベドウィン族×エレクトロ」の仕掛け人シャディに、ヨルダンのエレクトロ、テクノシーンや、前代未聞フェスの全貌を取材した。

エレクトロ後進国、街には「踊るスペースがない」

 中東のエレクトロニックミュージックシーンというのは、米国や英国、欧州と比べると後進型だ。近年では、“アングラではなく大衆に響くエレクトロ”をモットーに成長中のイランの電子音楽シーンもあったり、結婚式やパーティーで流されるシリアの民族舞踊ダブケをダンスミュージックと融合したシリアのテクノアーティスト、オマール・スレイマンなどが話題となったり、と確実に前進はしているが。

 今回の話の舞台、ヨルダンはどうだろう。高い塩分濃度から海面に体が浮かぶ死海や、古代神秘のペトラ遺跡など観光大国であるヨルダンの音楽シーンについて、シャディはこう答える。「僕の考えでは、ヨルダンには2つの音楽があります。さまざまな行事で演奏される〈伝統音楽〉。そして、ロックやファンク、ヒップホップなど他ジャンル同士が混ざり合った〈フュージョンミュージック〉。そして最近になって、電子音楽(テクノ/ハウス/クラブミュージック)も融合しはじめました

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 ヨルダンには多くの独創的なミュージシャンたちがいる。しかし、新しいことをはじめようとしても「演奏する場や、手頃な価格の機材が手に入りません。だから結局、国内で一年に一回演奏するのがやっと、という状態です」。アンダーグラウンドシーンに出入りするヨルダン人は数少なく、半数以上はヨーロッパや米国人。つまり、ヨルダンでは自国のオーディエンスに支えられた独自のエレクトロシーンがまだ構築されていない、というのが現状だ。
「また、テクノパーティーといっても、たんにテクノミュージックを流すことではありません。照明やインスタレーションなどダンスフロアを舞台にアート体験をつくりあげることです。しかしヨルダンには、そのためのスペースがないに等しい。確かにコンサートホールやクラブはあるのですが、高いチケットに高い飲み物と、大衆には優しくないパーティーしかやっていない。テクノをサポートする若い層は、そんなベニューには来ないんですよね」。

 そんな環境にメインストリームのクラブカルチャーに辟易したアーティストたち(シャディも含め)は、昔ながらのレストランを借りてパーティーを開催、チケットの価格を下げてテクノパーティーへの敷居を低くするなど工夫をしている。「若者たちやオールドスクールな音楽ファンたちは、金儲けしか考えていない大きなベニュー、つまり主流のシステムから脱却しないと受け入れづらい。ベニューにはフードやドリンクを頼んでもらいたいがためにテーブルや椅子をおくところもある。これじゃあ踊るスペースがないですよ」

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ステージは巨大な岩? はじめてテクノを聴くベドウィン族、踊る

 ベドウィン族との文化交流を目的に開催された砂漠のテクノフェスティバル。会場となったワディ・ラム砂漠は、映画『アラビアのロレンス』のロケ地にもなった風光明媚な場所。「ステージは自然のなかに鎮座する岩。バックグラウンドは砂漠です。2016、17年にも同じフェスをやったのですが、1日だけの短いものでした。今回はシャディがもっと長い時間ベドウィンたちと過ごせるよう、2日間にしました」とフェスティバル関係者の一人、アート・サラムは話す。

 砂漠がダンスフロアなら、街で発生する“スペース不足”は問題ない。しかし、そこは機材も照明も用意されていないだだっ広い土地だ。フェスティバルチームは、ドイツのクラブやヨルダンのテクニカルチームと協力してライティングを演出、またサウンドシステムはアンマンからプロ仕様の機材を借りてきた。「砂漠で開催する許可はヨルダン観光局からもらっていました。でも、それ以上に大切なのは、砂漠にいるベドウィンたちからの“承認”です

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 結果的にいえば、ベドウィンたちは大いに“承認”したようだ。フェスティバルでは、10組のDJたちがハウス、テクノからダウンテンポ、トラップなどのエレクトロ、またアラブ音楽やフォークなども流した。これにはテクノをはじめて聞いたベドウィンたちも踊る。結婚式などでしか踊らない彼らがステージに上がり、自分たちの伝統音楽や踊りを即興で披露した。「スピーカーから音楽が流れるだけのフェスティバルではない。ベドウィンたちもフェスティバルの一部になったんです

「中東はとても暑いですから、フェスは野外が正解です」

 砂漠でテクノという異例のアラビア流レイヴを仕掛けるシャディたちだが、これからのヨルダン、また中東のエレクトロシーンについてはどう考えているのだろう。「僕たちの国でのレイヴは、他の国のものとは違う。たとえば涼しいベルリンは屋内のクラブや倉庫で踊りっぱなしでも大丈夫だけど、中東はとても暑いですから野外が正解です。いまでは週末の夜、数時間だけでおこなわれることがほとんどですが、数日にわたって屋外でできたらいいです。もっとオーディエンス同士が繋がって、音楽をじっくりと味わえますからね」。1980年代のベルリンのテクノが廃墟となった元発電所や燃料庫で、イギリスのアシッドハウスが田舎の農場や納屋で人々を踊らせたように、2018年のヨルダンでは砂漠がその役割を果たしているようだ。

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「これからもっと多くの人たちと一緒にフェスティバルをつくりあげていきたいと思っています。ワールドミュージックを融合させるのに長けているフランス、フェスティバルやインスタレーションを仕掛けることに長けているドイツなどと。ヨルダンをはじめ中東のフェスティバルにはもっと磨かなければならない要素はあります。ベドウィンやアラブのライフスタイルを織りまぜて紹介できるいい“主催者”にもなっていきたいです」

Interview with Shadi Khries

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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