中国でようやく開花、デジタル世代の音楽〈シノ・シーン〉。伝統の大手レーベルを拒否、売り上げより“ライク数”?

「衣料品やスマホの生産、テクノロジーでは知られているけど、〈音楽〉では知られていない国」。
人口13億8,000人の超大国、中国のことだ。4,000年の歴史のなかで継承されてきた音楽文化はもちろんあるが、文化大革命や社会主義体制、未だに敷かれるインターネット規制などで、独自のチャイニーズサウンドが育まれてこなかったというわけである。

しかし、これが“歴史”となるのも時間の問題だろう。スマホで音楽を聴き、既存の音楽業界の枠組みから抜け出そうとし、アングラ・テクノクラブに出入りするデジタル世代の若いバンドたちを中心とする「シノ・シーン(sino:中国の)」が、人知れず発生しているからだ。

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2018年、中国はテクノで踊っている。

「ドイツやオランダ、日本には国際的に認知されるサウンドや音楽シーンがあるけど、中国にはいままでそれを形成する機会がなかった。でも、これから〈シノ・シーン〉が育つ潜在能力は確かに感じている
 前のめりに話すのは、マーク・リーダー。本誌連載「ベルリンの壁をすり抜けた“音楽密輸人”」の主人公で、それ以来HEAPSの音楽アドバイザー的ポジション(?)にいる音楽業界人だ。ベルリンの壁崩壊前、1980年代にロックが禁じられていた東にパンクを密輸したマークだが、その人並みならぬ好奇心と冒険心と実行力は2010年代も健在。音楽シーンがやっと構築されはじめた中国にもいそいそと出掛け、中国インディーズ界のダークホース「Stolen(ストールン:秘密行动)」の新作をプロデュースしたばかりだ。
 
 30年ほどの近代中国音楽事情を知っている*マーク曰く「1990年代後半以降から、中国の音楽シーンは大きく変化した。2000年代の上海のクラブでは、みんな一世紀前のファッション誌から抜け出してきたかのような格好だったよ。レザージャケットにスキニージーンズ、ペチコートの女の子たち、ロカビリー、ベルボトムのヒッピーキッズ、逆毛を立てた爆発ヘアで肩パッドのザ・エイティーズ、ネオンカラーのテクノサイバーキッズ、黒髪ロングでヘドバンをする女軍団。そして、ステージ両脇には、決まって別の星からやってきたかのような無愛想な警官。文化大革命から数十年、やっとここまでたどり着いたという感じだった

*マークと中国のつながりは1990年代後半にまで遡る。中国が徐々に規制緩和されはじめた頃、ある中国のレーベルが彼のテクノレーベルMFSが出した曲でコンピアルバムを制作したいとアプローチしてきたという(前払金が“2トンの苺”だったらしく、苺アレルギーのマークはこのオファーを断らずを得なかった)。

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今回、中国インディーズシーンについて話を聞いたマーク・リーダー

 1996年に中国初のパンクバンドが中部都市・武漢に登場。98年には国内初のガールズパンクバンド「ハング・オン・ザ・ボックス」が北京で産声をあげるなど、20年前からも“非メインストリーム”なインディーバンドは存在していた。2011年にはボブ・ディラン、14年にはローリング・ストーンズ、16年にはヘビーメタルの王、アイアン・メイデンが中国公演を果たした。経済開放が進むにつれ、どの都市にもクラブやバーがオープンし、各地で音楽フェスが開催されるようになる。その昔はアコースティック楽器しか売っていなかった楽器店でも、エレキが当たり前のように手に入る。反国家的思想を阻止するためバンドの歌詞には政府の検閲がはいるが、「これはいつか、過去の話になるだろう」。そして2010年代、「中国はテクノで踊っている」

アングラクラブは大都市の中心街より「地方都市の郊外」

 マークによると、「テクノやエレクトロニックミュージックには“歌詞”が存在しないから、中国でも受け入れられやすい」とか。現在、大半の都市には独自の小さなテクノシーンがあり、女性DJもいるそうだ。「たいてい、テクノクラブはライブハウスのある中心部から離れた、“郊外”にある」
 
 またおもしろいことに、アングラシーンの育つ適性は都市によって違う。「たとえば、首都・北京は規制が厳しい。やはり首都という常に国民の目に晒されている土地だから、保守的なイメージを保つため取り締まりが厳しいのも仕方がない。でも昨年、北京にはいい感じのアングラクラブもできたし、街のど真ん中で大きな音楽フェスもトラブルなく開催できた」。事実、北京からも「レトロス」というかなりダークなインディーバンド(PILやギャング・オブ・フォーといった英80年代ごりごりポストパンクサウンド)がいたりするので、一概にはいえないだろう。

 とまあ音楽が育つ雰囲気としては比較的コンサバティブな北京などの大都市に対し、近年アングラシーンやインディーズバンドの土壌として注目されているのが、パンダと麻婆豆腐で有名な四川省の省都、成都(せいと)だ。マークが“僻地”と表現するこの産業都市からは、ガールズバンドの「ザ・ホルモンズ」や、マークの秘蔵っ子で中国の“新しいサウンド”の担い手と注目の「ストールン」がいる。成都郊外にある森では音楽フェスが開催(マークも参戦済み)。パンクからアバンギャルド、70年代ロックからポップディスコまで種々雑多なアーティストが出演した。

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マークも全面支援、中国の“新しいサウンドメーカー”「ストールン」。

「大きなベニューでは、まだまだ商業的なヒップホップやEDM、トラップ(ハードコア・ヒップホップから派生したヒップホップ)などアメリカのメインストリーム音楽や、KポップやCポップ、Jポップが流れている。それに対し、成都の小さい音楽シーンは“駆け出し”で、けばけばしい商業主義とは距離を置いている。中国ではインディーズバンドの人気も顕著になってきたし、米大衆音楽至上主義も、遅かれ早かれ終わるだろう

中国新サウンドの担い手、既存のレーベル構造より「セルフプロデュース」

 地方都市にもアングラクラブやインディーズシーンがあることがわかったが、そこ界隈のアーティストをサポートするレコードレーベルはあるのだろうか。

「中国にも多くのインディーレーベルはある。でも、ダウンロードのみのコンテンツしか販売していない」。というのも、中国の大半の若者は音楽はスマホで聴く。「そもそもレコードという素材は高温多湿な中国の気候にも向いていない。筋金入りの音楽ファン以外はCDやレコードプレーヤーをもっていないし、レコードショップ自体が少ない、人口に比べてレコード・CD市場は小さいんだ。CDなんて、個々のライブの物販でファン向けに売るくらいだよ

 それでもCDやレコードを作りたいバンドに残された選択肢は、ユニバーサルやワーナー、ソニーのようなメジャーレーベルと契約すること。しかし「大手レーベルは、バンドのすべてを支配してしまう」。前払い金やレコーディングスタジオ使用料の支払い、プロデューサーやプロモーション等の手配など、レーベルは何から何までバンドの面倒をみてくれる。その代わり、バンドはレーベルに、楽曲著作権や録音権(ライブ演奏を録音する権利)、シンクロ権(音楽とテレビCM、映画、ビデオ・DVD等の映像を同期させて使用する権利)、さらにはバンド名まで譲渡しなければならないケースもあるという。

 そんな中国の伝統的なレーベル構造を尻目に、「『ぼくらは違う方法をとってみよう』ってね」音楽に関してならどんなキケンなことも冒すマークは、成都出身のインディーズバンド、ストールンの新作レコーディングに参加、独自のレーベルからセルフプロデュースすることを手助けした。

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「通常通り、歌詞は検閲を通さなければいけないけど、著作権や録音権はバンド側が所有しているんだ。本来なら契約した所属レーベルから提供されるスタジオやその他費用も、すべて自腹を切った。中国には著作権管理団体がないから、フランスの団体に登録した。中国にある伝統的なレーベル構造を無視して、自分たちで作品をリリースしたバンドは彼らが中国ではじめてだよ

 大胆な行動をとったストールン、音楽的にもいままでにないサウンドを鳴らせる。平均年齢24歳の若い5人が奏でるのは、ギターべースのテクノロック。「ナイン・インチ・ネイルズやケミカルブラザーズ、ニューオーダーを単にコピーしているわけじゃない。彼らはここ数年で中国が50年封じ込めていた国外のサウンドを一気に吸収してきた。前世代のバンドにはなかった“ネット”を通じてね。そこから自分たちが共鳴するサウンドを取り入れて、融合する。そうしてできたのが、唯一無二の“ストールン・サウンド”。また、“英語”で歌っているのも彼らのおもしろさ。これまで中国バンドは国内のオーディエンスのみがターゲットだったのか、あるいは西のマーケットでは競争できないと感じていたのか、中国語で歌ってきたんだ」。“大手レーベルの言いなりになりながら国内のみにフォーカスして音楽活動”という典型は、若手インディーズバンドには通用しないようだ。

売り上げより「WeChatのライク数」の方が大事?

 フェイスブックやツイッター、インスタグラム、ラインなどが規制されている中国(抜け穴はあるとも聞くが)。グレートファイアウォール(中国におけるネット検閲システム)により、バンドキャンプやスポティファイ、サウンドクラウドなど世界的な音楽配信サービスなどへのアクセスも困難な状況で、バンドたちはどのように作品をプロモーションしているのだろう。

 答えは、月間ユーザー数10億人を誇る中国のモンスター級SNS「WeChat(ウィーチャット:微信)」にありそうだ。中国の若手インディーズバンドを聴くオーディエンスは同じ世代のデジタルネイティブで、もちろん音楽情報をシェアして聴くプラットフォームはWeChat。「WeChatには、音楽と映画を評価するチャートシステムがある。WeChat上でのシェアやいいねが、人々の音楽消費行動を左右するんだ

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 昨今、話題になることも多い「評価経済社会」を思い出した。「評価」を介してモノやカネが動く社会のことで、相互レビュー社会とも呼ばれている。ソーシャルメディアのフォロワー数の多さや発言力の大きさが大事な指標となるため、つまり無名の大金持ちより、インスタのインフルエンサーの方が社会的地位が高いとする。大手レーベルをバックにつけ、高い売り上げを誇るミュージシャンより、セルフプロデュースだろうと「いいね」が多い、つまり“評価”が高いミュージシャンの方が、音楽的に成功しているといえるわけか。さらにマークは、フェイスブックやサウンドクラウド、バンドキャンプなど「世界的な音楽プラットフォームの大切さ」を強調する。「いままで中国の音楽は中国で消費されていたから、国外市場にプロモーションするということは問題にすらならなかった。でもいまは違う。国際的な認知と容認のためにも、WeChat以外にグローバルなオンラインプラットフォームは必要になってくる
 マークの目からみた中国インディーズ音楽最新事情、第一弾。第二弾では、21世紀の中国で実際に音楽に触れ音楽をつくってきた若者、ストールンのフロントマンに取材した。

Interview with Mark Reeder

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All images via Mark Reeder
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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