東欧キッズ「Poor But Cool(金はなくてもかっこいい)」若者が息する普遍の24時間、ユースのリアリティ

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「東欧の国のことって、あまり知らないじゃないですか。何があるのか、みんな何を食っているのか。そもそも、どこにあるのか」。未知の街への漠然とした興味、彼にとってはそれだけだった。その街に息づくサブカルチャーに心酔し、溶け込み、シャッターを切ることになったのは。

日本人写真家、越川宏之(ひろゆき)。手垢のついたロンドンやパリのファッションシーンなどではない。スケートボードデッキ、タトゥー、煙草、酒、携帯、ヘッドホン、ナイキのソックス、サングラス、スニーカー。東欧の大都市・キエフにて切り取るのは、若者が息する普遍の24時間、ユースカルチャーが生まれる1秒間。

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知らない街の若者たちは、何をする?

 夜のスーパーに飛び交う友だちとの会話。ベッドの上で弄るスマホ。遠い国の人たちと言われても、親近感を覚えずにはいられない被写体。写真に収まるのは、ロシアの隣国、ウクライナの首都キエフに生きる等身大のキッズだ。

 現地にて4年前からストリートカルチャーやクラブシーンを撮る越川は、「もともと天邪鬼な性格なんです」。誰もが知っているニューヨークでもなくロンドンでもパリでもなく。選んだのはキエフ。「東欧のビッグシティに住む若者たちって、何しているんだろう、本当にそれだけでした」

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 2011年、「ゼロから自分の人生をスタートしたい」という気持ちから、カメラとパソコンと何着かの服だけを掴み「自由を謳歌しているイメージの」ベルリンへわたった越川。写真も語学も現地でゼロからはじめた。そしてある日、「東欧のビッグシティに住む若者たち」をその目で見たい、カメラに収めたいという好奇心が浮上、SNSでたまたま見つけたキエフのスケートボードクルーに「写真を撮らせてほしい」とメッセージ。何となく気軽にはじめたメッセージから、特にこれといった理由もないままにとりあえず行ってみることにした。

「勝手にポーズをとったり。それが、いちいちかっこいい」

 キエフでの最初の被写体になったスケーターたち。スケボーに明け暮れ、自分たちの服を作り、タトゥーや写真に没頭する。彼らの「金なんて関係ない。やりたいことをやるんだ」精神に、「完全にやられましたね」。

 そこから人の輪は自然発生的に広がり、レンズの前を通り過ぎ、レンズの前でじゃれ合う若者たちの姿を越川はランダムに捉えた。スケーター、モデル、クラブキッズ、大学生。被写体に制限はない。「モデルの子たちにレンズを向けたら、勝手にポーズをとるんです。彼らにしたらそれが“自然体”。しかもそれがいちいちかっこいいんですよね、また」

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 愛用のコンパクトフィルムカメラを携えるのは、パーティーに行ったり、いつものように友だちと会うときだ。「なんか気分がのらない、という日にはカメラすら持ち歩かない。若者のあるがままを撮っているから、自分も自分らしく、マイペースにやっています」。ハングアウトの延長に写真がある。

 撮り手の自由なマインドに呼応するような被写体たちは、留年したうえ退学決定、故郷に帰れない大学生に14歳でなんとなくタトゥーを入れた高校生、モデルの仕事もする学生、パーティーのオーガナイザー、元パンクス。「10代は学校の試験が面倒くさいだの、将来どうしたらいいかわからないだの。20代は仕事に悩んだり、30代は家庭をもったり将来設計。仕事や恋愛に悩み、小金欲しさにちょっと悪さ。ベルリンや東京の若者とぜんぜん変わらないです」

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根底に「Poor But Cool(金はなくてもかっこいい)」精神

 いまキエフでは、レイヴシーンが相当な盛り上がりをみせている。ここ数年、1,500〜2,000人規模のCxima(スキマ)というパーティーなどがシーンを席巻し、レイヴパーティー目当てで来る西欧の旅行客も多い。だが最近は入場料が上がり、若者たちの手の届かない値段になっているという。物価の高騰、国内の経済状況悪化の煽りを受けて。

 2014年、ウクライナでは内戦が勃発。親露派と政府軍が対立、東部では日常的な戦闘が繰り広げられた。この紛争により、もとから悪かった経済状況がさらに悪化、内戦前に比べて通貨の価値が半分以下までに下落。公共料金も上がるなど、戦地ではなかったキエフの生活レベルにも、内戦の余波は間接的に押し寄せる。しかし、政治や内戦のことについて、キエフの若者たちは口にしない。「彼らは、どうでもいいと思っています

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 そんなことより、「数年前、あるキエフのアーティストが作ったTシャツが若者たちの間で爆発的にウケて。『Poor But Cool(金はないけど俺たちはカッコいい)』というスローガンTシャツでした。この精神は、キエフのクリエイティブシーンに入る若者のなかに共通していると思います」

 金がないから、古着屋で買った安い服をリメイクする。そうしてアディダス、ナイキのスポーツジャージのような90年代初頭のストリートスタイルがユースファッションになる。インスタのフィードから欧米のカルチャーを真似してみたりして、贅沢できない暮らしだからこそ生まれるDIY精神とクリエイティビティに、キエフのサブカルチャーは形作られている。「高価なモノ、ラグジュアリーが似合わない街です。そこに高いデジタルカメラは似合わないんじゃないかと思います」。だから、越川の淡いフィルム写真がぴたりとはまるのだ。

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「いい意味でも悪い意味でも“人間くさい”街」

『治安がいいんで来てください』とは言えません」。強盗事件に、武装した警察のクラブガサ入れ。ホモフォビアもまだある。越川のゲイの友人も、服装が原因で20人に絡まれた。しかし、「この前彼に会ったのですが、またお洒落をしていました。(また襲われるか)怖くない?と聞くと『ぼくは着たいものを着るから』と。キエフの若者はタフで我慢強いです」。西欧カルチャーへの憧憬は強く、考えも国際的。ソ連時代を生きた親世代とはまったく別物だという。だが、西欧の影響があるといっても、その外見的なスタイルなどをむやみに崇めることはしない。キエフはキエフであるべきだ、と自負しているのだ。

 タトゥーショップやファッションブランドが増え、数年前までは暴力沙汰もあったゲイパレードも今年は平和に終わった。LGBTコミュニティに対しても少しずつ寛容になっている。「キエフには、若いエナジーが生み出すアンダーグラウンドムーブメントが、まだ新しいことが起こる余地がある。それはニューヨークの70年代、80年代にあったものかもしれないし、ベルリンの2000年初頭にあったものかもしれない」。完成した街、たとえばニューヨークや東京という街に比べ「これからカルチャーを作っていく」精神があるということ。「最近、『俺、いまでかいムーブメントのなかにいるんだろうな』と気づきました。いい意味でも悪い意味でも人間くささが残っていて、いい意味でも悪い意味でも混沌としている街です」

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 時や場所に関係なく、若者にとっての一番の関心事であり、何よりも大事なのは“自分の見てくれ”ではないか。不安定な政治や内戦の影が自分たちの生活に見え隠れしていても、彼らにとっての一大事はぶれず。好きなスタイルを貫き、人よりクールでいたいと正直に思う。ダサいのが何よりも嫌いで、かっこよくいるためなら命も投げ出す勢いの愚直を、はばからずに見せてしまう。だから、若者のサブカルチャーはどの街にもどの時代にも普遍に生まれてきた。それはたとえば、ニューヨークのディスコシーン、ヒップホップカルチャーであり。北アイルランドのパンクシーン、イスラエルのヒップカルチャーでもあり。
 キエフ、ユースカルチャー、リアルタイム。越川のレンズの奥に現れては消えるサブカルチャーは、不器用な愚直で、無鉄砲の勢いで、底抜けの喜びで、少し背伸びしたカッコつけで、気まぐれの気だるさ。それらすべて、若者の正直と呼ぶ。

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Interview with Hiroyuki Koshikawa
Instagram

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Hiroyuki Koshikawa/ Kiev’s New Generations
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All Photos by Hiroyuki Koshikawa
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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