「スコセッシ最新作にも登場、伝説の労働組合会長もズブズブ?」米国ギャングとユニオンの黒い噂

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、三話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、三話目。

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 ▶︎前回に引き続き、ギャングのお仕事・後編。今回は、「ギャングとレイバーユニオン(労働組合)」の複雑な関係を少しだけ紐解いてみたいと思う。

▶︎1話目から読む

#003「ザ・ソプラノズでもスコセッシ最新作でも“ギャングと労働組合”持ちつ持たれつの関係」

「アメリカの労働の歴史は移民の歴史でもあります。1840年代にはアイルランド系移民がアメリカの労働力となり、1860年代の大陸横断鉄道建設には中国系移民が奴隷のように搾取されました」

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 醜悪な労働環境・条件で働かされていた移民たちが、「『タダ働きはしねえ!』と訴えたことが、労働組合のはじまりだったともいえます」。ストライキを決行する労働者たちに、雇用主らは探偵社を利用してゴロツキたちを雇い、ストをする労働者たちを仕事するよう暴力を使って脅しをかける。ボブ・ディランの師匠でフォーク歌手のウディ・ガスリーも歌にした「ルドロー大虐殺(1914年)」もこの手の話をすれば必ずあがる。暴力的な守衛たちの監視下で、奴隷のような労働を強いられていたコロラド州の炭鉱労働者たちが、炭鉱労働者組合(UMWA)のもとストを遂行。その結果、経営者側(ロックフェラー一族が大ボス)は私兵などを送り暴力で脅迫(たとえばマシンガン搭載の装甲車を町に走らせ威嚇など)、最終的には州兵を駆使し、労働者やその家族たち25人が殺されることとなった。この時代から、組合と暴力は切っても切れない関係にあったのだろうか。経営者側と労働組合側の抗争が激化した時代、経営者側が雇う武闘派に対抗するため、労働組合はギャングら犯罪組織を腕力として導入した。またギャングは金の成る方に傾いたため経営者側にも労働組合側にも味方をしたが、「大抵は、労働組合側の味方でした。ギャングは労働組合を経営者から守る見返りに資金などを得ていたのです」

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実際のルドロー大虐殺の写真。

 映画『グッド・フェローズ』や『ミーン・ストリート』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』『カジノ』など、ギャングスター映画を多々手がけたマーティン・スコセッシ監督(そしてロバート・デ・ニーロもほぼもれなくついてくる)が、現在製作している映画がある。『アイリッシュマン』と名付けられた同作(デ・ニーロもまた出てくるよ)では、数々のマフィア関連殺人事件に関与したある男の人生が描かれるのだが、その事件の一つが「全米トラック運転手組合委員長、ジミー・ホッファ殺害事件」と呼ばれるものだ。

 ジミー・ホッファ、よくあるギャング神話「ギャングと労働組合(レイバー・ユニオン)のタイトな繋がり」に現実味を帯させた男だ。のちに巨大労働者団体「全米トラック運転手組合」のトップに登りつめた労働組合の雄ライオンである。彼は大恐慌時代、18歳のときに食料雑貨チェーン店の下請けで貨物列車から積み荷を降ろす仕事をしていたのだが、過酷な労働条件に対する不満を募らせ同僚とともに仕事をボイコット。その後、経営者に怯まない屈強な精神性を買われ、全米のトラック運転手の労働組合「チームスターズ」の委員長に君臨した。しかし、次第に彼はギャングやマフィアなど犯罪組織と手を組み脅迫、ゆすり、横領など汚職を横行(一説によるとストを切り札に経営者から金をとったり、ストに協力しない者をギャングを使って脅迫したり…)。最期は“失踪”という形で闇に葬られたのである

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「ザ・ソプラノズ(米人気マフィアドラマ)で、ユニオンのメンバーがトランプをしているシーンがあります。彼らの本業はギャングです。ギャングを通じて労働組合のメンバーシップを得ることもあるのです」。一方で世界産業労働組合(IWW)は自身のウェブサイトで「我々は、一度も“マフィア”やその他組織犯罪のコントロール下にあったことはありません」と断言している。ギャングとユニオンの線引き、経営者とユニオン間のギャングの駆け引きは流動的で、立ち入ってはいけない謎の領域なのかもしれない。

 次回は、ギャングスターのファッションについて。ハリウッドスター顔負けの容姿とファッションセンスで女性たちを魅了したラスベガスの帝王や、“ラッキー・ルチアーノにファッションを教えた男”と呼ばれる伝説のギャングまで、米国Gたちの身ぐるみを剥がしてみる。

▶︎▶︎#004「賭博王にしてファッション帝王・ロススタインが確立した“ギャングスターの身だしなみ”」

Interview with Lorcan Otway

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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