「ファストファッションは悪である」。一体本当にそうなのだろうか。エコファッションというムーブメントは、小さなブランドによる小さな革命でしかないのか。
ファッションの本性=無駄と環境汚染?
「自分をもっとよく見せたい」
ファッションの目的とは、ずばりこれ。見栄こそが、煌びやかなファッションシーンの原動力だ。シーズンとトレンドに左右されやすく、まだまだ着ることができる服でも捨てられる。素材のコットンは虫害に遭わないように膨大な量の農薬を使って栽培されため、大地や水への汚染は免れない。世界各地で生産された衣類は、陸路空路で世界各地に運ばれる。生産しかり運輸しかり、エネルギー消費や排気ガスの問題は常につきまとう業界だ。
そう考えると、そもそもファッションとは無駄が多く、環境に悪影響を与えるものなのだろう。しかし、「新しいスタイルだけではなく、価値観をも提唱するのもファッションリーダー」。提供するものが変われば、消費者の意識を変えることもできることを熟知している大企業が動き出した。その中には、ファストファッションのアイコンとして槍玉に挙げられることも多いH&Mもいる。
H&Mは、善か悪か
「エコでクール」なファッション・ライフスタイルを届けるウェブサイト「NY Green Fashion」を運営する田中めぐみさんは、マーケティングではなく、本気で地球環境をなんとかすべく自らイニシアチブをとるブランドにH&Mやナイキを挙げる。フォーブス誌の『世界で最も価値のあるブランド』にアパレルリテールとしてワンツーフィニッシュを決めている両ブランド(ちなみにナイキは21位でH&Mは31位)は、サスティナブルを企業理念と方針に入れ行動する企業だ。
特記すべきはH&Mの取り組み。彼らは、Conscious collectionなる、環境に与える影響を最小限に抑えたラインを作り、持続可能なファッションの未来を創出しようと試みている。2020年までに農薬を使わないオーガニックコットンを100%使用すると目標を掲げており、昨年の時点ですでに21%を達成。H&Mはオーガニックコットン利用ブランド、世界ナンバーワンのため、環境改善の規模も大きいと期待できる。
古着回収サービスはもちろん、農家に有機栽培を教えたりエネルギー効率の良い設備に切り替えたりと、コストをかけてでも環境改善に取り組むその姿はまさにファッション業界の救世主。大企業であるがゆえにインパクトをもってサスティナブルに取り組めることを武器に、堂々と地球を救っている。彼らには、売名行為といった中傷も届かない。「業界が生き残るため=地球のため」を当たり前のこととして実践している。
流行の根底にある小さなブランドによる逆襲
いまでこそ大企業による環境のための実践が評価されつつあるが、その前に小さなブランドによる気づきと挑戦があった。ニューヨークで「エコファッション」「グリーンファッション」が台頭したのは2005年ごろとされている。意識高い系のブランドとデザイナーが、エコと相性の悪いファッションが変われはしないかと、とことんファッションに向き合った。すると、環境にも人にも優しいファッションを追求すればするほど、結局は「消費」の問題にぶち当たる。そこで今度は消費について突き詰め、「Recycle(再利用)」「Reuse(再使用)」「Reduce(無駄をなくす)」の3Rに立ち戻ると、「買わない」という選択に辿り着いてしまった。
エコファッション、エシカルファッションの究極は、持っている衣服を大事に着続けることであるため、自然、ムーブメントは先細くなる。環境に配慮して作られた服は決して安くはない。自然はもちろん、生産過程における持続可能を考え実践するため、労働環境やフェアトレードの次元まで包括するからだ。そうこうしているうちに07年のリーマン・ショックが起こり、体力のない小さなブランドは打撃を受け静かに消えていったかに見えたが、着々と甦りつつあるようだ。
ニューヨークを拠点にファッションの新しいあり方を模索する団体「Ethical Fashion Academy(エシカル・ファッション・アカデミー)」がある。創設者のFrancisca Pineda(フランチェスカ・ピナーダ)は自身もデザイナー。体調不良の原因を突き止めたところ、ジュエリーなどの制作環境下で発生する有害物質であることが分かり、効率よい大量生産のために使われる化学薬品について調べた。「業界に身を置きながら、まったく無知だったことにがく然としました」と振り返り、「なんとかしないと」という思いで団体を創設した。市内でサスティナブルやエシカルを謳うブランドショップツアーなどを行うほか、勉強会も定期的に行っている。「業界関係者も多く参加して情報交換など行っています」と、ゆっくりだが確かな手応えを感じている。
こうした小さなブランドやデザイナーが音頭をとったムーブメントがあったからこそ、現在の大企業による持続可能のための取り組みや成果がある。生まれてから死ぬまで、私たちは衣を纏う。ならばほんの少しでも、自分の着ているものについて考えてみたい。どこで、どんな人が、どんな風に作ったのか。そんな風に思いを馳せれば、私たちはきっと、もっとファッションをエコかつクールに楽しめるのではないだろうか。
Writer: HEAPS