編集部が選ぶ今月のZINE3冊。テーマは〈飽くなきタトゥー〉入れる前に知っておきたいこと、母の身体変遷、自粛期間のデザイン48

タトゥーの痛み、大好き。痛みがあるからこそ、美しいものに出会えると思ってる。
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「ジン、ジン、ジンギスカ〜ン!」。聞いたことあるけど誰の曲か知らないって人、多いんじゃないかな。これ、1979年に旧西ドイツの男女6人組ポップバンド「ジンギスカン」が作った『ジンギスカン』という曲。いきなりなんの話かって?ジンの話ですよ(今回は雑ですみません)。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。

今月紹介するのは「タトゥー」がテーマの3冊。彫り師からのアドバイス、痛みが大好物のメタラー母、ハンドポークのデザイン48選。それぞれが知っているタトゥーについて、そして良きところ。タトゥーを入れるなら、入れるものをよーく考えてから。

***

「これからタトゥーを入れたい君」へ。
彫り師と全身タトゥーの夫婦より、アドバイス集『Did that hurt?

作った人: Nyxia Grey(ニクシア・グレイ)


Image via Nyxia Grey

評判のいいタトゥースタジオや彫り師の探し方から、アフターケアの方法や感染症の種類まで。全身をタトゥーで埋めるマダム作『Did that hurt?(ディドゥ・ザット・ハート?)』には、施術前に知っておくべき情報や豆知識が、26ページにわたり喚起されている。

———このジン、彫り師の旦那さんと一緒に作ったんですよね。

そう。彼はキャリア20年のベテラン彫り師。その20年間で感じていたのが、タトゥーに関する知識が浅いお客さんが多い、ということでね。そういった人たちに安全な環境や信頼できる情報を共有するべく、作りました。

———ちなみにニクシアさん自身はどこにタトゥーが入ってるんです?

首や腕、背中に足と、数え切れないほどたくさん入ってる。

———おぉ。タトゥーを入れて後悔したことって、あります?

そりゃあね。若い頃はなにが良いタトゥーなのかなんて、考えもしなかったからね。

———自分もいつか、タトゥー入れたいなぁなんて。初心者が入れる前に知っておくべきこと、教えてほしいです。

まずは事前に彫り師のポートフォリオをしっかり調べて、得意とするスタイルを知ることが重要! タトゥーはアートだから、その彫り師の特徴を知っておくのが大事なんだよね。あとは…

・血が止まりにくい人は、施術前に彫り師に必ず伝えること。

・施術前は、食事、アルコール摂取、喫煙を控え、入れたい部分にメイクをしてこないこと。

・彫り師が病気じゃないこと、酒に酔っていないこと、ドラッグ中毒でないことを確認すること。

などなど。

———彫り師によっては「人の顔には絶対に彫らない」など、断固たるポリシーを持っている人もいる。彼にもこういったポリシーはある?

彼の場合、滲みやすく残りにくい部位である手や指には彫らない。あと、白人至上主義やナチスをテーマにしたタトゥーは、いくらお客さんの要望といえど断る。

———ここは激痛だからやめとけ、とかある? 腕の内側といった柔らかい部分は特に痛いと聞いたことがあるけど。

私が一番痛かったのは胸だったかなぁ。でもどの部位がどれくらい痛むかは人それぞれ。基本的にタトゥーを入れるという行為自体、痛いものだし。

———ごもっとも。痛いの覚悟でやらないと、ですね。


「I love the pain of tattoos!(タトゥーの痛み、大っ好き)」
メタラー母ちゃんの身体変遷『PMS Perzine n.17 – Body Modification

作った人: Hadass(ハダス)


Image via Hadass

イスラエル在住、ド級のメタラー母ちゃんが入魂するのは、身体改造に関するジン『PMS Perzine n.17 – Body Modification(ピーエムエス・パージン・17号ーボディ・モディフィケーション)』。タトゥーを入れる痛みが快感という彼女。詩や漫画を使い、コラージュや手書きで仕上げたDIY感満載の56ページ。

———ボディ・モディフィケーション(身体改造)についてのジン。

といっても整形や豊胸ではないです。私、そういうのはしたことないから。このジンシリーズは、エルサレムに住むアクティビストでありフェミニスト、メタラーであり母である私自身の変わりゆく人生を綴ったもの。

———体の変遷とともに、過ごしてきた人生。

今回の17号はピアスとタトゥーをテーマにしています。私の血管には血の代わりにインクが流れているんじゃないかと思うくらい、ジン作りにハマり中。

———タトゥーを入れるときの痛みが快感らしいですね。メタラーぽくってすごくかっこいい発言です。

タトゥーの痛み、大好き。痛みがあるからこそ、美しいものに出会えると思ってる。私にとって、タトゥーを入れることは神聖な行為で、施術後は心が浄化されたような気分になるの。同じ痛みでも、ピアスの痛みではその感覚は得られない。痛み自体一瞬だし、ピアスはすぐ取り外せるから完全に体の一部になることはないからね。

———昔から自分の体に何かをすることに、興味があった?

高校生ぐらいで、学校でいち早く髪の毛を染めることやダメージ加工のダボっとした服に興味を持つようになって。ホラーの映画や本に夢中になりだしたくらいで、たまらなくピアスが開けたくなった。


———で、そのまま初ピアスを開けた?

ううん、1人っ子だったのもあって、両親がものすごく過保護でそういうのは一切禁止。一度髪をドレッドにしたときは、勘当されそうになったっけ。初めてセプタム(鼻ピ)を開けたのが20歳のとき。もちろん親の前では、セプタムを鼻の中でひっくり返して隠してたけど。その後、右乳首、へそ、くち、左乳首に開け、タトゥーも入れた。

———一番思い出深いタトゥーはは?

最後に入れた右腕のタトゥー。 2日間10時間かけて彫ってもらった。タトゥースタジオのスピーカーからずっとメタルを流してもらったおかげで、アドレナリンがガンガン出て最高だった。

———現在はさぞ、素敵な身体に仕上がっていることかと。

妊娠を機に乳首とへそのピアスを取ったから、いまはセプタムしかしてないんだ。タトゥーも、右手首、両腕、腰にあるくらい。だから周りの友人に比べれば、いまの私は決してハードコアな身体改造をしているわけではない。いつか娘がデザインしたタトゥーを入れたいなぁ。でも彼女まだ3歳だから、もう少し先になりそう。



コロナ自粛期間、こつこつと溜めたデザインアイデア48選
Inklings: A Flash Zine

作った人: GentleOriental(ジェントルオリエンタル)


Image via GentleOriental

ブルックリン在住のタトゥーアーティストが作ったのは、48種類のタトゥーデザインを詰め込んだ『Inklings: A Flash Zine(インクリングス:ア・フラッシュ・ジン)』。コロナの影響で活動自粛中、ふつふつと湧き上がったデザインアイデアをまとめた一冊。

———コロナの自粛期間に頭に思い浮かんだデザインをこつこつと書き留めたジンなんだとか。

営業禁止だったこの数ヶ月間、せっかく新しいデザインアイデアが浮かんでも、お客さんの肌に入れられないのがすごく残念だった。だからせめてデザインだけでも多くの人に見てもらおうと、ジンを作ったんだ。

———どのデザインも、かわいらしくてタイプ。

私にとって、タトゥーは自分のアイデンティティーを探求する手段なんだよね。


———と、いうと?

私はカリフォルニア生まれの中国系インドネシア人。米国で生まれ育ったアジア系アメリカ人であることに誇りに持ってる。だからデザインアイデアは、中国の文化や伝統などアジア文化にインスピレーションをもつことが多い。

———だから表紙にドラゴンが描かれていたり、キャラクターの顔がアジア人だったり、漢字が使われているんだ。

1番お気に入りのデザインは『The Danse(ザ・ダンセ:舞)』。フランス人画家のアンリ・マティスの油彩作品『The Dance(ザ・ダンス)』からインスピレーションを受け、そこにアジアのテイストを加えたんだ。

———ところでタトゥーは独学らしいじゃないですか。

元々イラストを描いていて「そのイラストをタトゥーにしたら絶対いい感じになる」と言われて、独学開始。私はハンドポークという、マシーンではなく針とインクを使って手で彫る手法を使っている。

———チクチクと、ひと針ずつ彫っていく方法ですね。比較的に、簡単にできると聞いたことがある。

ハンドポークは、やろうと思えば誰にでもできるもの!ひと針ひと針が手彫りだからこそ、じっくり時間をかけることができて、仕上がりも素敵なものになる。誰かの肌にタトゥーを入れるのってすごく神聖な行為でしょ? だからこそ、掘った相手とは親密になれた気がするの。



Eye Catch Image via GentleOriental
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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