Youtube公開からたった1ヶ月半で1,000万もの再生を獲得したのは、2,000個のビー玉が生み出す音楽映像(かなり話題になっていたので知っている人も多いかも)。
今回はその機械と、世にも美しい音楽の生みの親、マーティン・モリン(Martin Molin)に制作裏話を聞いた。
2,000個のビー玉がぶつかる音で奏でられる。超アナログ楽器
見たことのない人のためにちょっと説明。
2,000個のビー玉で音楽を奏でる機械はこちらだ。なんだかハウルの動く城っぽい?
歯車とビー玉で動く仕掛けのおもちゃ「マーブルマシン」を応用した自動演奏機械、その名も「Wintergatan Marble Machine(ウィンターガタン・マーブルマシン)」。
右側にある手回しハンドルを回すと2,000個の玉がカタンコトンと上部まで運ばれ、
内部を駆け回り、玉のゲートの開閉により1玉ずつ落下。
機械に組み込まれたキックドラム、スネアドラム、ハイハット、ビブラフォン、ベース、クラッシュシンバルの6種の楽器を玉たちが叩き、なんとも幻想的で憂いを帯びた曲を演奏するのだ。
百聞は一見にしかず。ということで、動画を見てもらえればどれだけ美しいのかを実感して欲しい。
生みの親は、バンドマン
まるで中世のお伽話に登場するような魔法のマシン。
生みの親、前述のマーティンは、スウェーデンのインストゥルメンタル/ポストロックバンド「Wintergatan」(ウィンターガタン、スウェーデン語で“銀河”のこと)のフロントマンでもある。
マシンをすべて一人で手掛けたという職人のような腕を持つ彼に製作裏話を聞くべく、スカイプ取材を試みた。
Martin(以下、M):ハーイ!あれ〜、僕の顔見える?
HEAPS(以下、H):ハーイ、マーティン。ちょっと見えないかも…。あ、見えました!
早速ですが、今日は超話題になったWintergatan Marble Machineについて色々聞いちゃいます。
M:うん!
H:動画を見ました。とても画期的で美しい。息が止まる思いでした…。これまたどうしてこのマシンを作ろうと思ったのですか。
M:もともと、マーブルマシンの大ファンだったんだよね。で、ある時、オランダのユトレヒトにある博物館に行ったんだ。19世紀からの機械仕掛けの楽器が展示してあるミュージアム。
そこで見た自動演奏楽器にインスピレーションを受けたんだ。あとは、木工作品で有名なアーティストのMatthias Wandel (マティアス・ワンデル)って人のyoutubeチャンネルのファンでもあって。
これまでのマーブルマシンは、プログラム可能でなくランダムでカオスな音しか出せなかったから、僕はメロディーを奏でて作曲できるプログラム可能なマーブルマシンを作りたかったんだよ。
H:もしかして前職はエンジニア?
M:違うよ!ものづくりが趣味なんだ。いまの時代youtubeにいけば、さっき言ったドイツ人アーティストのような木工作品の先生もいるし、独学でいろいろ勉強できる。
事実このマシンを作るために、かなりの時間をyoutubeサーフィンに費やしたよ。動画から多くのインスピレーションを受けたんだ。
H:あなたが演奏している動画を観ましたが、スネアドラムが起こす小さな振動を再現するために、米つぶを使ったそうで。それからレゴのパーツも使用していると。
M:そうそう!それからドラムの部分には、コルクでできたコースターを使ったよ※。あとは玉の通り道になるところには、お店のボート売り場で見つけた水用チューブ。あとは、(玉を集めるために)じょうごを活用したり…。そしてフレームはベニヤ板。
※コンタクトマイクロフォンという、物が接触した時に起きる振動をとらえるマイクに取り付けることで、ドラムの音により近づけている
H:まさしくD.I.Y.!
M:そう!他の用途で使われる物を違う方法で使ってみるのって面白いじゃん。
H:2,000個のビー玉(見た目はパチンコ玉のよう)、どこで手に入れたのですか。
M:タイヤのベアリングあるでしょ?あの内部にある11mmの鉄の玉をベアリング会社から買ったんだ。おもちゃ屋のビー玉は高いから。
H:製作期間は何と2年だそうで。
M:取り掛かる前は2ヶ月くらいでできるのかと思ってた(笑)。考えが甘かったよ。
H:製作する上での一番の難点は何でしたか。
M:常に玉が一つだけ落ちるよう細心の注意を払わなければならなかったこと。玉のゲートを作ったんだけど、一つだけ出すのが難しくて。圧力がかかっているなか、50個の玉が待っているからね。6ヶ月間、9回の試行錯誤を重ねてやっと生み出したシステムなんだ。
H:諦めようとした時もあった?
M:いいや、それは決してなかった。かなりの時間を費やしたからそれは考えてなかったね。ただちゃんと完成するのかな…、とかそういったネガティブなことや心配ごとは常に抱えていた。
H:そんな時はどうやってポジティブに?
M:ゆっくり歩いて、1つの問題だけに集中するようにした。それまでの自分は10個の問題を一気に解決しようとしてストレスを感じていたから。そのうちの9個を取っ払ってね。
H:このマシンで、最も“楽しい”と感じる瞬間は?
M:演奏するよりも作っていた時の方が楽しかった(笑)。例えば、歯車を初めて試した時。歯車比は64分の1、つまりハンドルを64回まわすと、歯車が1回だけ回転する。
1、2、3、4、5…と64まで数えて、64でカチッと歯車が動いたときが一番嬉しかった!
実際に動くんだと実感してファンタスティックな気分だったよ。
H:現代は専らデジタル音楽社会で、作り手も聴き手もデジタルフォーマットで音楽を扱うようになりました。そんな昨今に、なぜ時間と労力を掛けてこの全手動アナログマシンを?
M:それは、ただ単純に楽しいからだからだと思う。食べ物でもそうだけどさ、“目で食べる”っていう感覚、それは音楽にも当てはまると思う。
音楽を目で聴く。簡単なことじゃないけど、このマシンを通して音楽の視覚化を実現しようとしたのかもしれない。僕はデジタルやテクノロジーが大好きだけど、いつもコンピュータファイルばかりいじっていると物に触るということが恋しくなるんだ。
H:“音楽を目で聴く”ですか…。哲学的です。では、このマシンを人間に例えると、どんな人物でしょう?
M:ワオ、すごく難しい質問だね…。何ていうのかな…。全然実用的な人じゃないし、中身より見てくればかり気にする虚栄心の強い人(笑)、とても頑固だし。でも一度仲良くなると君に心を開いてくれる、すごくいい人かな。
H:相当重そうですが、何キロくらいあるんでしょうか。
M:うーん…150キロぐらいかな。重すぎて持ち上げられないけど、引きずることはできるよ。
H:いつかマシンとともに来日なんてことは…。
M:是非日本に行きたいよ!友達のミュージシャンが日本で素晴らしい時を過ごしたっていうから、それを聞いてから日本行くのが夢で…。
もっと早く演奏できるようにマシンをプログラムし直して、ライブでも演奏できるようにしたいんだ。1時間に10曲ぐらい。マシンがDJみたいになって、その周りでみんながダンスミュージックを踊るみたいにさ!
取材中、日本の建築技術である「木組み」(釘やネジを一切使用せずに切り込みを入れた木と木を組み家などの骨組みを作る伝統工法)がすごいと興奮気味に語っていたマーティン。彼は音楽人であるよりも先に、ものづくりの人であるのだなあと口元が緩んでしまった。
Wintergatan(ウィンターガタン)
2012年スウェーデンで結成された4人組インストバンド。メンバーはマーティン(vibraphone, music box)、エヴェリーナ(keyboards)、デービッド(bass)、マーカス(drums)。マーティンがすべての楽曲の作曲と、ミュージックビデオを手がける。
代表作は2013年発表の「Sommarfågel」。[公式サイト] wintergatan.net
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Photo: Samuel Westergren
Text by Risa Akita