True Love / Talk No.10「ブラッド・ピット×ピーターパン症候群」

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Issue 14 – True Love / Talk No.10「ブラッド・ピット×ピーターパン症候群」

Talk No.10「ブラッド・ピット×ピーターパン症候群」

真実の愛が欲しいなら、「“恋愛”のるつぼ」で嘆いている暇はない

 これまでに何度か、「ニューヨークほど、男性が女性と関係をもつのに格好の場所は無い」と言ってきた。その理由は大きく二つある。

 第一に、女性と男性の比率が53パーセント対47パーセントと男性が少なめ(しかも3人に一人がゲイということを考慮すると“男性”の比率はグンと下がる)であることが引き金になって週末に「より良いcock(男性のアレ)争奪戦」が生ずるから。

 第二に、ニューヨークの男たちに「ブラッド・ピット×ピーターパン症候群」が蔓延しているから。その症状は、1.「35歳以上なのに大人になりたくない(ピーターパン)」、2.「自らを、女性の羨望の的『ブラッド・ピット』のごとく完璧だと思い込んでいる」というもの。女性と関係を持つのが「容易い」と勘違いする男たちが、何とも多いのである。

「ちょうどよく稼ぎ、ちょうどよく遊ぶ」。そんな堅実な生活をしにニューヨークにやって来たものの、度を超した飲酒とそれに付随するめくるめくセックスの世界にのめり込んで生活を台無しにしてきた人を、これまで何度見てきたことだろう。結局、大半がマンハッタンから離れて住むか、もしくはニューヨークを去っていく。闘い続けるのに疲れて、安住の地を求めるのだ。

「大学を卒業したばかり」とか、「人生で初めてデートしている」という若い女性に、ニューヨークは“過ぎる”かもしれない。というのも、ニューヨークには、「43歳なのにまるで21歳のような振る舞いをする男」が溢れているため、ちょっとやっかいなのだ。ブラッド・ピット × ピーターパン症候群の彼らに、「43歳の男性の然るべきマナー」を求めても無駄。男たちは、ひと月に120億もの精子を生産している。それをできるだけ早く、多くを分散したいという衝動にかられるのは、男の本能だ。もちろん“理性”というのは彼らの頭の中に存在するが、動物的“本能”がそれを上回るのもまた、男の性ってやつなのだろう。

 ウォッカソーダを6杯ひっかけた男の目の前で、おしりをふりふりしたら、何が起こるかは言うまでもない。「21歳のまま」の男は、精子を撒き散らして満足したら、さっさと真夜中に引き上げていく。「なんであれからメールが返ってこないんだろう」なんて考えるべからず。そんな一夜のセックスに「始まり」を期待していたら、ニューヨークでは身が持たない。

 私の友人の一人は、ニューヨークで男を追い回すのに狂っていた時期がある。ある日私がアパートに帰ると、ふわふわとマリファナの匂いが彼女のベッドルームから漂ってきた。どうやら、ずっと気になっていた男性を連れ込んでセックスしていたらしい。彼には親公認の彼女がいると知りながら。Facebookで、彼女との旅行やら何やらの仲睦まじい写真を見るたびに悪態をつき、「そこに写っているのは私だったはずなのに!」と、オーストラリアのビーチでじゃれている二人の写真を見てはうなだれていた。もう一人の関係を持った男性にも、長くつき合っている彼女がいた。言わば、ただのセックスフレンドだった友人。自分と散々セックスした数ヶ月後、彼は何事も無くその彼女と結婚した。「彼はなんだかんだいって自分を求めている」と信じこんでいたため、ひどく落ち込んでいた。

 またあるときは、一人の男が深夜1時半にやってきた。「男友達とたっぷり遊んだあとにふらっと寄った」という。もちろんセックスのために。しかし、これが友人とその男の最初のデートで、実際に会うのすら初めてだった(出会い系サイトで知り合ったため)。結局二人はウィスキーを飲んでセックスして、男は帰っていった。その後、彼からは一切連絡がこなかったという。しかし懲りずにまた違う夜、彼女はおなかが空いたのでタコスを買いにベンダー(屋台)に行き、そのままそこの男をタコスと一緒に持って帰ってきて、セックス。その後、そのタコス屋が彼女からの電話をとることはなかった。

「誰も真剣につき合ってくれない」と、常々嘆いていた友人。私は公正な人間ではないから、「誰だって好きなときに好きなだけセックスできる」と思っている。心得ておくべきは、「プレイヤーで居続ける覚悟がないなら、ゲームから降りた方がいい」ということだ。リスクなしでは、得るものなどない。リスクを知ってもなお欲しいものがあって覚悟を決めたなら、満足するまでゲームをやめるべきではない。

 男の気を引くには、ワイルドで、なんだかハラハラさせるようなセクシーな小悪魔になるべき、と考えている女性が多いとよく聞く。でも、誰もがそう考え始めたら、私たちの「性」が、安っぽくなるような気がしてならない。男たちも「簡単にできる」とつけあがる。だんだんと女性への尊敬を欠く男が増えて、「ブラッドピット×ピーターパン症候群」の増加も助長して、どうしようもない男がのさばっていくのだ。

 しかしそんな男たちも、「なんだか他とは違う女性」に出会ったときに目が覚める。長年の「独身貴族の遊び」に散々ふけっているときは気にもしなかったが、ある日ふと鏡の中の老けた自分の姿を見て「自分以外の誰一人もいない老いたあわれな中年」を己に認める。そして朝起きるやいなや、その「最終通告」かのごとく現れた女性を連れてこの街を去る。そうでなければ、いつかきっと一人寂しく死ぬだろうと恐れて。

 この街で「誰かとデートする」にはタフでいることが求められる。暗黙のルールがあったり、生活費だ気候だ働く環境だといったニューヨークで暮らす上で出てくる問題も抱えながらだから。この街で生き残って、「真実の愛」を見つけたなどという話はほとんど聞いたことがない。しかし、「周りの余計な刺激や誘惑など見向きもしない」ほどお互いを愛し合っている、と思えるカップルは周りにいるので、希望は持ち続けようと思う。「ここでやっていけたら、怖いものなし」と人々が口々に言うのも、やっぱりうなずける。

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