Thinkmodoが明かす、「あの動画」の裏側

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Screen Shot 2015-04-14 at 1.01.39 AM

世界は今、たった二人によって混乱させられている。
「Thinkmodo」、彼らは、“史上最速”で世界中に広まる動画を作る。
億を超える閲覧者数を誇り、手がける動画はすべて大ヒット。
あらゆる企業から動画作成依頼が殺到するが、彼らが受ける仕事はその中からほんの一握り。
彼らは、一体何者だ?

「ウソ?ホント?」その数分間、目が離せない

 インターネット、とくにSNSをはじめとするソーシャルメディアを活用した新しいタイプのコマーシャル、通称ヴァイラル広告(バズ広告とも呼ばれる)が話題だ。FacebookやTwitterで回覧される「凄すぎる映像」として世界中で閲覧され、ビューアー数は億を超える。最近の傑作は「Telekinetic Coffee Shop Surprise(超常現象カフェ)」と題する2分強の映像。ニューヨークのありふれたカフェで、男性客が誤って、女性客のラップトップの上にコーヒーをこぼしてしまう。平謝りの男性に罵声を浴びせ続ける女性。激しい怒りのあげくに呪いをかけると、男性が壁に打ち付けられ上下する。唖然とするほかの客の目の前で女性が叫び声を上げると、今度はテーブルが動く。棚の本が飛び出す。テレキネシスか!店内は、騒然となり客はあたふたと逃げ出す。まるで目撃者がiPhoneで撮ったような、臨場感が溢れ息をのむ音が伝わりそうな映像がやけにリアルだ。「ウソだろ?でもホントかな?」と、思わず最後まで見入ってしまうと、ラストで「新作恐怖映画『キャリー』近日公開」と字幕が出て、映画のプロモーションだと分かる。YouTubeのアクセス数は約6,000万件。制作したのはニューヨークに本拠を置くThinkmodoという会社だ。ミッドタウンの衣料問屋街にある小さなオフィスを訪ねると、James Percelay(ジェイムズ・パースリー)とMichael Krivicka(マイケル・クリヴィチカ)の二人が迎えてくれた。この会社、設立から2年で30本ものヴァイラル広告を制作し、いずれも大ヒット。この業界のパイオニアらしい。しかも、たった二人でやっているという。彼らは一体何者なのだろう?

 ジェイムズは、NBCの超人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で脚本や製作に15年以上も携わってきた元番組クリエーター。マイケルの前身は、企業ビデオの編集者で短編劇映画も数本手がけている。アナログ派の二人が、マイケルの主催しているブログ上で知り合い意気投合。実際に会ってビールを一杯酌み交わしただけで、ヴァイラル広告会社の設立が決まったそうだ。「放送局やクライアントとの七面倒くさい交渉に辟易していたんだ。もっと自由にコンテンツを作りたかった」とジェイムズ。「放送時間や尺数(長さ)の縛りがないオンライン映像は魅力的。さらに、ネットの場合、面白いと思われたらすぐシェアされるから、拡散のスピードがもの凄い。しかも、国境を超えて世界中の視聴者にダイレクトに伝わるところが素晴らしい」とマイケル。

「マーケティングの知識はないし、 ITもよく知らない」

二人とも、特にマーケティングの勉強をしたわけではない。「かえって、“マーケティング音痴”なところがよかったんじゃないかな?企画や制作に関して マーケッターとの打ち合わせは一切なし。僕らが二 人で考案したコンセプトを電話でクライアントに告 げてOKを貰えば、それで制作開始だよ」とマイケルは笑う。 綿密に年齢層ごとの市場調査を実施し、結果を分析。フォーカスグループを形成して商品やコンテンツのテストをかけた上で市場展開するのが従来のマーケティング戦略だとすると、ヴァイラル広告の考え方はまったく逆だ。インターネットに情報をのせ、それをいち早く世界中に拡散させ、話題にし、消費者の関心をブランドやコンテンツに向けさ せる。そのためには、コンテンツそのものが一目見て面白く、かつリアルで、印象に残るものでなくてはならない。

Thinkmodoの二人はとりたててITに詳しいわけではない。むしろ、映画やテレビなどの「昔ながら」の映像技術の職人だ。その経験と技術を活かして彼らは、「ありそうであるわけない」シチュエーションを作り出す。彼らのやっているような「いたずら イベント」は英語でprankと呼ばれ、古くはテレビ番組 『 Candid C amera』(日本でいう「どっきりカメラ」)の時代からさんざんやり尽くされている。ただ、彼らが新しいのは、それをネットにのせるために数々の工夫をこらしているところ。そして、長年の職人技と緻密な計算で実にリアルな演出設計をしているところだ。 発注から完成までかかる時間は、ひと映像平均12週間。そのほとんどが、備品や舞台装置の設計と製造に当てられる。ジェイムズはこういう。 「いたずら映像ですが、大事なのはイマジネーション。結局、僕らが作るのはファンタジーの世界ですから、いかに『ありそうでない』世界を実現するか、が問題なのです。そこで、映像や映画の世界で培ってきたノウハウといろいろな分野で築いた人脈が 役立ちます」

デジタルとアナログの合間を縫う動画

彼らが作ったサングラスの「オークリー」のヴァイラル広告は、ベテラン・ゴルファー、Bubba Watson(ブッバ・ワトソン)が、ゴルフ場をカートで移動する、というだけのもの。ところが、そのカートが、なんとホバー・クラフトだ。コースを縦横無尽に、池の上まで自由に移動する。見たこともない光景。なんともいえないが、一目見て笑えるし、印象に残る。「ホバー・カートは、ゼロから設計しました。こんなもの現実にはありませんからね。ミネソタ州でホバー・クラフトの零細メーカーを見つけてね、特注でゴルフカートとマッシュアップしてもらったのです」とマイケル。ヴァイラル拡散後は大変な人気となり、ついに商品化までされた。「パテント?うちは要りませんよ。制作で十分楽しんだから。メーカーに譲りました。もっとも、あのカート、ここだけの話、騒音が半端なくてとても実際に使える代物じゃありませんよ」

撮影場所の選択やセット作りには気を使うという。ホバー・カートの場合、世界にたった一つのデザイン。拡散前に誰かにスマホで撮られでもした日には、企画台無し。なので、ゴルフ場を完全封鎖して撮影に臨んだ。また、高級潜水用時計「テクノマリン」のヴァイラル広告では、水中ナイトクラブのセットを組んだが、撮影に十分な深さと広さのあるプールがなかなか見つからず、結局、コネチカット州の海軍潜水艦部隊基地に提供してもらった。

前述の「超常現象カフェ」は実際にニューヨークにある喫茶店で撮影。家具や人間が動く仕掛けは、映画で使うテクニックを応用。前もって入念に仕掛けをテストするさまは、まるで「スパイ大作戦」のノリ。お客の大半は、仕出しの俳優さんだが、喫茶店は平常営業。何も知らないホンモノのお客もどんどん入ってくる。数台仕掛けられた隠しカメラは、全体状況もさることながら、なによりもシロウトのお客さんの反応を狙う。リアルが第一なのだ。「デジタル全盛の今だから、リアルで手触り感のある仕掛けが、引き立つんです」というマイケル。「撮影器材とか、企画によりますが、民生用が中心。そんなに高いものは使いません。むしろ、撮影中に一番気を使うのは、現場に居合わせたシロウトさんが、スマホで撮った写真を即ネットにアップすること。いたずらがバレた時点でしたら、即座に彼らに駆け寄って『開示禁止』のお願いをします」

Screen Shot 2015-04-14 at 1.01.27 AM

世界最速の速報性

とはいえ、速報性はヴァイラル広告の最大の強味。撮影後、約2週間でマイケルが編集したコンテンツは、映画や商品のリリース寸前に、SNSにあげる。ホバー・カートのケースでは、7億件以上がYouTubeにアクセス。その映像を20万人がFacebookでシェア。48時間以内に獲得したシェア数としては史上最大数を記録した。そして「ここからが、ヴァイラル広告の大事なポイントで す」とマイケルが語気を強めた。

「ネットで話題になると必ず、テレビ、新聞、雑誌など旧メディアがフォローします。ホバー・カートの場合、全米のニュースで取り 上げられ6,500万人が映像を視聴しました。ニュースですから、 クライアントは一銭も広告料を払わずにすむ。ここが、ヴァイラル最大の広告効果なのです」 いまや、ネット上の情報を既存メディアが追いかける時代。ネットの話題がテレビニュースにのることで、さらにイメージが定着し、話題が確固たるものになる。キャスターや出演者のスタジオコメントで、商品・コンテンツへの関心がさらにかき立てられる、という仕組みなのだ。最近では、視聴率が欲しいニュース側から、「事前にヴァイラル広告制作の舞台裏を撮影したい」とのオファーまであるそうだ。そうした、旧メディアとのコラボをThinkmodoは一切拒否しない。既存メディアとの協力関係を利用することでヴァイラルは本領を発揮する。

「僕らは、制作予算とギャラだけで仕事しています。だいたいひとプロジェクト50万ドル(約5,500万円)から請け負っています。制作物への著作権や特許は主張しません。とにかく世の中をあっと驚かして、短時間で話題の的になるのが楽しいんです」とマイケル。「映画やテレビでは味わえないダイレクトな視聴者からの反応が嬉しいね。僕らのコンテンツは一切セリフは使わないので、一気に世界中に拡散する。言葉や文化の壁は関係ないんだ。それが、世界同時公開を戦略とするハリウッド映画にはうってつけなんだろうね。一気に数十億人が見るからね」とジェイムズ。 二人とも、職人気質というか、旧世代なのか、なんとも商売っ気に乏しい。「そう考えると、今まで僕らは人が良すぎたかもしれない。今後はアクセス数に応じたボーナスぐらいは請求しないといけないかもね」と顔を見合わせるThinkmodoの二人だった。

Screen Shot 2015-04-14 at 1.00.56 AM


Photographer: Koki Sato  
Writer: Hideo Nakamura

掲載 Issue 21

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