世界各国から人が集まってくるニューヨーク。人の数が多ければ出会いの数も多いわけで、この街に生きる人たちは休日はもちろんのこと、平日でも仕事帰りでも忙しい生活の合間にデートの予定を差し込んでいる。
そんな出会いの街ニューヨークで“デートのエキスパート”とも言える男に出会った。
これまでにした初デートは500回以上。しかもデート相手は、下は1歳・上は70歳、だって?
Photo by Kohei Kawashima
地下鉄デートの真相
その男のデート場所は決まって地下鉄。駅のプラットフォームに小さな丸テーブルを置き、デート相手を待っている。立てかけられた看板には「Date While You Wait(デート・ホワイル・ユー・ウェイト、DWYW)」。
これ、電車の待ち時間に彼とお話ししたりゲームをするなど、「暇つぶしデート」なのだ。
一体いかほどのデート百戦錬磨か。筆者、張本人と“デート”してきた。
Photo by Kohei Kawashima
H(HEAPS):DWYW、擬似体験ですね。
T:ボードゲームやりたい?
H:えっと、あとでお願いします(笑)。まずは自己紹介を。
T:俺の名前は、Thomas C. Knox(トーマス・C・ノックス)。ブルックリン生まれブルックリン育ちの生粋のニューヨーカー。いまはテック系の会社でビジネスサポートや営業をしているよ。
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H:DWYW は、「スピードデート」のようであり、「期間限定のゲームテーブル」ともいわれていますが、ずばり一言で表すと?
T:「コネクション」かな。社会実験(social experiment)とか言う人もいるけど、俺にとったら、「みんなを繋げる場」。
H:おお、実は結構真面目な取り組みなのですね。やりはじめたきっかけは?
T:友だちが「通勤がつらい。早く家に帰りたいのに」と愚痴をこぼした。俺だったらテーブル用意して人と話すね、と冗談半分で言ったんだ。で、別の友だちにその話をしたら「それ、やるべきだぜ」って。そっか、じゃいっちょやってみようかってね。1年くらい前にはじめた。
Image via Date While You Wait
H:初デート場所は? 緊張した?
T:ユニオンスクエア。緊張なんかしないさ。俺って、トライしてみて上手くいかなかったらまあいいかってなるタイプだから。
H:デート場所はどうやって決めるの?
T:スペースがある場所、あと暑すぎたり寒すぎたりもダメ。あとは、各停と特急が同じのプラットフォームを選ぶようにする。そうしたら待つ人も多いし。ハーレムもミッドタウン、ダウンタウンも、ブルックリンもクイーンズも。市内中の特急駅は制覇したよ。
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H:これまでのデート人数は?
T:たぶん1,000人くらい。
H:1,000人って…。モテモテっすね。
T:待って、1000人は言い過ぎか。500人くらい。いままでで20回以上デートして、毎回15人から20人ぐらい来るから。まあ5人しかいない日もあるけど。1週間に1回のデートが理想かな。
Image via Date While You Wait
H:お仕事もフルタイムでしていて、デートする時間ってなかなか取れなかったり?
T:やりたいことは時間を割いてでもやるよ。平日の仕事終わりにもやるし。
1歳も70歳もデート相手
H:人種のるつぼで旅行客も多いニューヨークだから、これまでいろんなデート相手がいたと思うけど、どんな人たちか教えてくれる?
T:正直言っていろーんな人。特定の人種や年齢なんてない。ときには60歳、70歳代のじいちゃんばあちゃんだって子どもだってデート相手になれるさ。最年少は1歳かな。
H:1歳!?喋れないんじゃ…。
T:そりゃ喋れないよ!でも一緒にゲームして遊んだんだ。
Image via Date While You Wait
H:じゃあたとえば英語が喋れない人でもデート相手になれるんだ。
T:もちろん!ゲームするのに言葉はいらないし。ゲームしてもいいし、喋ってもいい。誰でもデート相手になれるよ。ああ、そういえば、前にひとり全然英語喋れない女の人がいたよ。フランス人の子で。母の日だったから、「母の日おめでとう」ってビデオメッセージを撮ったんだ。
Image via Date While You Wait
H:本当に、誰とでもデートできるんですね。最長のデート時間は?
T:2時間。
H:長っ!何したの?
T:しまった、忘れちゃったよ。
H:笑。デートアイテムのボードゲーム、どんなのがある?
T:Connect 4(コネクトフォー)やPerfection(パーフェクション)みたいなパズルゲーム。コネクトフォーを初めて見たっていうじいちゃんと対戦したこともあったし。
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H:あなたのことを初めて見た人ってどんな反応するの?
T:最初はみんな、俺のことクレイジーだって。でもだんだんと知名度も上がってきた。今日も道端で「あなたのことを知ってるわ」と声掛けられたし。
H:それは嬉しいね。リピーターもいたり?
T:うん、何人かいるよ。SNSで「今日はこの駅でデートするよ」って事前に告知するからそれを見て来る。DWYWを励ましやインスピレーションにしている人もいるんだ。
H:デート相手とどんなことについて話すの?
T:なんでもさ。愛とか人種問題、その日に起こったこと、家族、健康、仕事のこと。あとセックスのはなしもね。あるときは、ゲイの兄ちゃんと、出会いや恋愛関係について話したり。
あとゲームの話もよくする。「このゲームで遊ぶのは、5歳のとき以来だ」とか「最後にこのゲームで遊んだのは、おばあちゃんと」みたいな。ゲームを通してライフストーリーも聞けたりするよ。それが楽しみだったり。
Image via Date While You Wait
H:思い出に残っているデートは?
T:毎回思い出に残っている。一番印象的なのって?うーん、そうだなあ…。いいデート体験ありすぎて一つになんて絞れないよ。みんな同じくらいいい人たちでいいデートしたから。
H:素敵、そういうことサラっと言えちゃう。なんか、楽ーな雰囲気、ありますね。初デートで“居やすさ”はキーですよ。
T:うん、なんでも言っていいよ。たとえば「お前がやっていること変だ」って誰かに言われても、「まあまあ。ゲームでもやろうぜ」と切り返す。ゲームが終わる頃には「なんだ、これいいじゃん」ってぜったい思うから。
Image via Date While You Wait
H:笑。超ポジティブ。でも、地下鉄側の人とトラブルになったこともあったりして?
T:いやない。警察には何回か声かけられたことはあったけど。たいてい移動しろと言われるだけ。デート相手になった警官もいるさ。
H:警官、勤務中にデート?(笑)
T:そう俺と警官。しゃべるというよりはゲームしただけ。
Image via Date While You Wait
H:地下鉄だけじゃなくてマーケットでもデートするんだ。
T:うん、スペースがあればどこでも。ここ(カフェ)でもできる。(と、おもむろにDWYWの看板を立てかけた)。さてさて何人話し掛けて来るかな。
H:どこでもデートスポットになっちゃうんですね(笑)。DWYWは出会い探し目的なとこも正直ある?
T:ノー、それは違うんだな。
H:でも、いままで会ったデート相手でいいな、と思う子とか逆に告白されたこととかって正直ないの?
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T:俺がデート相手を好きになるのは、絶対ないね。何回か俺に興味ある子が話しかけてきたりはしたけど、「DWYWはそういうものじゃないよ」って丁重にお断りしてる。
H:そうなんですね。初デート百戦錬磨、一体どんな人かと想像していましたが、堅実な男ですね。
毎回初デートを経験しているあなた、初デートの心得、教えてくれますか?
T:もちろん。“Be yourself(正直な自分になること)”だ。そして意図的に行動すること。DWYWでもプライベートでも俺はいつも率直に話すようにしている。「君のこと教えてよ。知りたいんだ」ってな感じでね。
Image via Date While You Wait
H:彼女はいる?
T:いまはいない。このプロジェクトと仕事で忙しいしね。機会があれば付き合うかもしれないけど、あえて出会いは求めていないよ。
H:DWYWを続けられるモチベーションは?
T:“人”だよ。人が好きなんだ。話すのも好きだし。
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H:でも時には嫌な人もいるでしょ?
T:ヤな奴、大好きだぜ。だってそういう人たちってその場の雰囲気悪くするじゃん?それって楽しかったりもする。あるときデート中に「あなた、かっこよくないわね」って言ってきた人がいて。だから「それはごめんね。でもゲームに勝つためにはかっこよくある必要ってないんだよ」って切り返した。
H:笑。これからどんな彼女ができようと、切り返しの引き出しは困らないですね。DWYWの今後の動きは?
T:ビジネスにしようとしている。ある“プラン”があってね…。ごめん、いまは言えないけど。
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H:新たなデート相手を探しに海外に探しに行ったりはしないの?
T:すでに行ったよ。フランスとか。近々、オーストラリアに行きたい。国内だったら、フィラデルフィアとかワシントンDCとか。
H:ニューヨークの地下鉄って、ミュージシャンだったりダンサーだったり、アーティスト、パフォーマーだったり、いろんなクリエイターの発表の場になってますよね。クリエイティブなあなたをも惹きつける魅力って何だと思います?
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T:なんだろうな…。いろんなことが起こっている地下鉄って小さな世界みたいだからじゃない?もし地下鉄に住めるならそこに家を作りたいかも。
H:そんな地下鉄が好きなのか…。いまからデート現場を目撃するの、楽しみにしています。
T:今日はかなり緊張するな。
H:ほんと?
T:いや、そんなわけないじゃん。冗談だよ(笑)
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ナイスガイでイージーゴーイング、ジョーク好きであけすけなトーマスについていき、サブウェイデートをこっそり覗いてみました。
Photo by Kohei Kawashima
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興味津々なおばさん。座ることなく彼と立ち話して行ってしまった。
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みんな、彼のことは気になる様子。でもなかなかデート席には座らないんだな、これが。
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何を考えて待っているんだろう、トーマス。自分から呼び込みはしない。
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お、開始から20分後、一人目のデート相手現る。
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ゲーム始めた、楽しそう。
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ひとり来たら次から次へと来た。
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Text by Risa Akita