“犯罪多発地区”の新しい交流場所は「アパートとアパートの間」

Share
Tweet

地域を繋ぐ、路地裏のコミュニティ・ガーデン

「犯罪多発地区」と呼ばれ、観光客はもとより地域の人々からも避けられ続けたカリフォルニア州サンフランシスコの“とあるエリア”。その嫌われた地区に、なんとか人々の交流を生むための変化が起きはじめているという。それも、アパートとアパートの間から、らしい。

_DSC2473

観光エリアの隣は、「絶対に行きたくないところ」

 そのエリア「犯罪多発地区」とは、「テンダーロイン」。テンダーロインの元々の意味は「牛、豚の腰の肉」。転じて、「肉を切るように血なまぐさいところ=犯罪が多い地区」と呼ばれるようになった。
 位置するのは、アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコ。ブランドショップが立ち並び、観光客で溢れる隣。並ぶのは低所得者専用住宅、ホームレスシェルターもいくつかあり、フードキッチン(ボランティアがホームレスに食事を与えるところ)。
 黒人系住民が多く住み、ドラッグディーラー、麻薬常習者、売春婦がストリートに多くいる。歩いていると変な人に小銭をせびられることもある。観光客はもとより、地元の人でもあえて立ち入りたくはないエリアだ。そこを変えようと動いたのが、ラゲッジストア(The Luggage Store)というアーティストのNPOグループだった。
 

ラゲッジストア (The Luggage Store)とは?

 ラゲッジストア(The Luggage Store)は、下町のコミュニティーの中でアートの展示やパフォーマンスのイベントで地域住民との交流を図り、地域間の緊迫感を取り除き、外部と繋げる活動を行っているアート系のNPOグループ。創設者はダレル・スミスとローリ・レーザーというアーティスト。

誰も寄り付かないエリアの「月イチパーティー」

IMG_4889

 ラゲッジ・ストアが企画したのは「テンダーロイン・ナショナルフォーレスト(テンダーロインの森林)」と名付けた、「コミュニティ・ガーデン」。テンダーロインにある「コーエンアレー」という路地で、アパートとアパートの間のなんでもない空間だった。

 そこを「地域の誰もが集まって交流できる場所へ」と、ラゲッジストアの創設者ダレルとローリーを筆頭に動き出していた。実は25年も前に遡る。
 周辺は、アパートやホテルに黒人、元ホームレス、移民、シニア層、芸術家、麻薬常習者、ドラックディーラーなどが混在して居住。いずれも日々の暮らしで大変な人たちばかり。ダレルとローリーはアーティストに呼びかけながら、年月をかけてリノベーションを重ね、彼らが集まって交流する場所を提供しようとしてきた。 

 集まってきたアーティストたちがまた面白い。たとえば、ベカ・ラフォーは「オーブンを作る」アーティスト。粘土を固めて整形してピザ焼き釜を制作。ジュリア・グラン・ビレは、網細工と漆喰塗りが専門で、コミュニティ・ガーデンのギャラリースペースの壁を、なんと“近所に生えている雑草”と漆喰を混ぜて塗ったという。

 月イチでポットラック(持ち寄りパーティー)を催し、ベカの作った釜で温めた食べ物をただで振舞う。ポットラックにはDJやギタリストまでやってくる。
 Michael Swaine(マイケル スウェイン)はFree Mending Library(無料修繕屋)というのをやっている。市内のあちこちの路地などにミシンを持ち込んで、近所のお金がない人の服を無料で繕うのだそうだ。彼は、「ここも僕の新しい支店になったよ。」と微笑む。
 そうやって集まってきた子どもから大人、そしてプロの壁画アーティストまでいろんな人がアパートの塀や壁の壁画製作や床のタイル設置に携わった。


※音声は英語ですが、空間の雰囲気が伝わると思います。

実際にテンダーロインへ

 外観から見ると、入り口には頑丈そうな鉄格子の扉があり、時間外は太い南京錠がされてある。門が閉ざされていると、アパートの敷地のようで一目ではわからない。

 開く時間になると、ラゲッジストアのスタッフが扉を開けて、掃除をして、木の手入れをしにきた。実際に路地のスペースを回ってみたが、中に入ると意外と静かで外の喧騒はわからない。小さな池にある彫刻から水の滴る音が聞こえて涼しげだ。床のタイルも精巧に組み立てられている。壁画もどうして登ったのか、アパートの最上階まで描かれていてインパクト大だ。平日の昼間に行ったので静かだったが、夜や週末には入り口のギャラリーでアーティストの作品を展示したり、ミュージシャンやダンサーが来て、交流イベントをしたりしている。

IMG_8044
_DSC2500

「近寄りたくない場所」の何にも無い路地裏に、年月をかけながら見事、交流の場を作りあげたラゲッジストア。
 低所得者、麻薬常習者がいる=ただ危険なエリアという見方は、「テンダーロイン」という名前と住人たちへのステレオタイプに過ぎない。
 地域住人らも、何か文化的刺激を求めているが高い遊びは出来ず、外からも内側からも避けられ、閉鎖的なコミュニティーになっているだけなのかもしれない。
 ラゲッジストアは、テンダーロインに交流の場を作っただけではない。避けられがちな場所にもオープンマインドな人たちがきっかけを作れば、入りやすい地区になっていくという例としてテンダーロインのコミュニティ・ガーデンを成功させた意義は大きい。

Screen Shot 2016-01-10 at 6.40.43 PM

※———
アメリカの幾つかの都市には「アートコミッッション」という機関がある。アーティストやアート系団体に助成金を提供したり、ギャラリー運営や多民族の文化的なイベントの運営などを行う市の機関。
今回、コーエンアレーを年月をかけて多くのアーティストとリノベーションしたラゲッジストアも路地と地域交流の意義があることをコミッションにアピールし、2009年にサンフランシスコのアートコミッションから助成金を得ることができた。そのおかげで、コーエンアレーは正式に「テンダーロイン・ナショナルフォーレスト」(Tenderloin National Forest、テンダーロイン地区の森林)と名前を変えて、引き続き助成を受けながら運営している。

———
Photos by Darryl Smith,Tomoe Nakamura
Text by Tomoe Nakamura

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load