“勝手にしやがれ!” 最先端「都市生活様式」はタクティカル・アーバニズム

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“勝手にしやがれ!” 最先端「都市生活様式」

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テクノロジーの進歩にともなって絶えず塗り替えられている「都市生活の定義」。
自宅勤務のライフスタイルをSOHO(Small Office Home Office)と呼んだり、環境と健康を重視する生活をLOHAS(Lifestyle of Health and Sustainability)と称したり。ひとたびコンセプトが定着すると、僕たちは次の「スタイル」がやってくるのを首を長くして待ちわびる。
少し引いてみると滑稽千万だが、正直なところ読者も知りたいのではなかろうか?友人に自慢できる新しい“都市生活様式”を。

はい、お待たせいたしました。生き様の提唱だけはいつの時代も得意なアメリカから、新コンセプト紹介。今度のは長いぞ。その名を「タクティカル・アーバニズム (Tactical Urbanism)」という。
クラフトやD.I.Y.(Do it yourself)の延長線上にあるらしいこの新思想は盛んに「すごい」と騒がれている。せっかく編集部をニューヨークに持つHEAPS、何としてもここで一度、そのスタイルを「生け捕り」にしておきたい。

“戦略的!”な都市スタイル?

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 そもそもタクティカルとは「戦略的」の意。アーバニズムは「都市主義」。繋げたら漢字ばかりで何のことやらサッパリわからない。長いのでこの辺で「TU」と略させていただく。今年の春『Tactical Urbanism:Short-Term Action for Long-Term Change(タクティカル・アーバニズム:長期的変革のための短期的行動)』という本を書いたMike Lydon(マイク・ライドン。NY在住。33歳)によると「長い目で見て社会を変えるために、市民が起こす小さな行動」それが「TU」の定義だという。
では、マイクが挙げる「TU」の具体例を見てみよう。

勝手に「道路標識」。

勝手に「期間限定ビアガーデン」

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 ノースカロライナ州ラーレイでは、町のそこここに、
「グレンウッドサウス(中心部)まで歩いて18分」
「公共墓地まで歩いて7分」
などと“徒歩の所要時間”を書いた手作りの標識が目立つ。これは市当局による施行などではなく、マット・トマスーロ(Matt Tomasulo)という一人の市民が“勝手にやっていること”だ。マットは「徒歩移動の普及」に力を注いでいる活動家で、長年、市役所に働きかけてきた。が一向に埒があかないので、勝手に標識を張り出したところこれが「便利」と市民の評判を呼び、ついには市役所の予算で歩行者専用道路が設定されるまでに。

 また、テネシー州メンフィスでは、長年放置されていたビール工場の廃屋を市民が勝手に掃除して「期間限定ビアガーデン」に変身させた。カナダのトロントでは、店舗やオフィスの入り口にカラフルな車椅子用のスロープがやたら目につくが、これも市民がゲリラ的に置いたもの。ニューヨークのクイーンズやブルックリンの工場街でも、いつの間にか舗道に鉢植えが並ぶ光景によく出くわす。メリーランド州のボルチモアに至っては交通の激しい大通りに市民が勝手に横断歩道を書いたところ車が停まるようになり歩行者が道を渡れるようになった。
 いずれも、行政がやってくれないサービスを自分たちでゲリラ的に作ってしまう、という考え方。

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「常識より条例」を重視するポリティカリー・コレクト一色の日本ではちょっと考えにくいが、アメ リカではこうした行為がつぶされるどころか、市 民から一定のサポートを得るとむしろ行政の方が動きはでめるという。
「『TU』とは、市民の自発的なゲリラ行為だけを指すのではなく、それによって刺激される政府や企業側も、今度は『TU』の“主体者”となりえる んです。決して反政府活動ではなく、自分たちの 小さな行動で行政側の協力も得ようというものなのです」とマイクは力説する。ちなみに、『TU』 の結果で、前述のメンフィスのビール工場跡は人気殺到。新たなグルメ街として蘇ることになった。また、ボルチモアでは、交通局が正式な「一時停止」標識と横断歩道を設置することになったのだ。

時代に合わせて 「我が街」をアップデート

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「TU」が注目される背景には、衣食住のクラフト(手作り)化ブームや既製品に飽き足らぬ人々のD.I.Y.志向といった感覚の変化もあるものの、もっと大きな理由は、都市部への人口回帰だ。統計によると、全米の都市の中心部から半径5キロ以内に住む若者層(25〜34歳)は、2000年と比べて15年には37%も増加している。確かに、筆者が暮らすニューヨーク、クイーンズ区サニーサイド地区も引っ越してきた09年当時はラティーノや南アジアの移民家族がアパートに肩を寄せ合う貧しい街だったのに、いつのまにか、ひげ面でブレイド柄のフランネルシャツからタトゥーだらけの腕をちらつかせる「ヒップスター」が繁殖してきた。彼らは、一様に車社会を憎み、自転車と徒歩を愛好する。好きで住んでいる「我が街」サニーサイドを少しでも安全で活気に満ちたエリアに変えようとする心意気は見上げたものだ。「TU運動」の根底には、この流入してきた若者たちによる新手の「我が街愛」がある。寝に帰るだけの殺伐とした住宅街ではなく、できるだけ楽しくてカワイイ街、愛すべき街にしたい…。

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「携帯やパソコンが毎年バージョンアップするのと同で感覚で都市生活もバージョンを時代に合わせて更新しなくちゃ、とみんな思っている」とマイクはいう。ところが、ニューヨーク市当局にそれを要請したところで、官僚主義でいつまでたっても街の改善は望めない。参考までにいうと、2010〜12年の2年 間で全米行政体の公園局やレクリエーション局の予算は25%減少している。リーマンショック以来の緊縮財政で、公園などの公的な共有スペースを維持する予算がないのだ。人員も大量に解雇されている。ならば勢いのある市民、改善も自前で、とばかりに「ゲリラ出撃」となるわけだ。

 ニューヨークで一番成功した「TU」といえば、2009年にタイムズ・スクエアで行った「簡易椅子376基の臨時設置」だろう。これがきっかけとなって、市はその一角を恒久的に歩行者天国=公園化した。

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小さいところからはじめる “クラフト・シティ”

 すべての「TU」が成功するわけではない。駐車場を週末などに一時的に公園化して骨董市や屋台村をつくる通称PARK(ing)Dayは、「TU運動」の一形態といえるが、継続するうちに業者が参入して“高価なヴィンテーで衣料ばかりが並ぶイべント”に俗化する可能性もある。そもそもは 市民の手作り運動だったものが、不動産業者や大手投資機関に「gentrification=再開発」の名の元に利用されて、結局は周辺家賃の高騰に繋がることもある。
「長期的にコミュニティをよくする」という目的がない「TU」は意味がない、といい切るマイケル。

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「再開発はもっと大きな経済的、政治的理由があいまって行われることで『TU』とは別物です。大事なのは市民が街を『手作り』している感覚。そして“Think small”、小さいところ、手のつけられるところから考えてはじめることです。空き地、 廃屋、広すぎる道路など、『TU運動』を起こすチャンスは街中に溢れている。たとえば2,000ドルで『TU運動』をはじめたところで、政府から200万ドル(約2億4千万円)の予算がつく保証などまったくありません。でも、誰かが腰を上げなくてははじまらないでしょう」。

 ビールからワークブーツからハンバーガー、ラーメンにいたるまで何でも「クラフト=手作り」 が“ヨシ”とされる昨今のアメリカ。つまるところ、「TU運動」とは「我が街」も手作りで、できるだけよくしようぜ、ということなのかも知れない。
 さて、この都市様式はどこまで快挙を見せてくれることやら。志がいいだけに、単なるブームに終って欲しくない。


< Issue 30『都市を変えるのは、ゲリラだ』より >
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Writer: Hideo Nakamura

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